第137話「シェルター-4」
「ハル。何か見つかったか?」
「シーザさん」
それからしばらく経った頃。
シェルターの中心部で佇んでいた俺の元にシーザさんがやってくる。
どうやら調査の進捗具合について尋ねてきたらしい。
「そうですね……」
俺は前方を改めて見る。
ただのコンクリートの壁が広がっているだけだ。
俺の右手側を見る。
トトリとワンスの二人が作業をしているだけだ。
俺の左手側を見る。
ただの……トゥリエ教授とニースさんが作業しているだけだ。
俺は振り返って、後方を見る。
『テトロイド』の人たちがアイドル談義に花を咲かせているだけだ。
俺は足元を見る。
ただのコンクリートの床が広がっているだけだ。
「とりあえず何も見つかっていない事は伝わった」
「まあ、そう言う事で……」
俺は上を見る。
コンクリートの天井と埋め込み式の照明が有って、シェルターの中を明るく照らし出している。
ただそれだけの筈なのだが……、
「どうした?」
「いや……、あー、ちょっと確かめてみてもいいですか?」
「うん?」
何か気になる気配が照明の中からしたような気がした。
「すみません。ちょっといいですか?」
「んー、この中だったらハルカちゃんが一番……と、何ですか?」
「えと、ちょっと照明の方を調べたいんですけど、良いですか?」
「照明……ですか?別に構いませんが……」
「ありがとうございます」
なので俺は調べてもいいかを『テトロイド』の人たちに確かめ、許可を貰うと、照明の真下に改めて立つ。
そして、目を細めて照明の光をこらえつつ、真正面から照明を見る。
うん。天井と言う事で、今まで調べていなかったんだが、間違いなく何かはあるな。
その何かの正体までは分からないが。
「えーと、脚立などは……」
「必要ないです。自前でどうにか出来るんで」
「自前……ですか?」
『テトロイド』の人はそう言うと、俺の全身を不審な目つきで見回す。
まあ、脚立に相当するような何かを持っているようには見えないしな。
そう言う目で見られても、しょうがないだろう。
「シーザさん。それにトトリたちもちょっといいか?」
「何?ハル君」
「全員、念のためにしっかりと防護服を着用しておいてもらえるか?『テトロイド』の人たちもお願いします」
「分かった。全員防護服を着用しろ」
ま、そんな事はどうでもいい。
今大事なのは照明に隠されている何かだ。
だが、あの声の主の性格は、今までの行動からしてかなり悪いと断言していいだろう。
となれば、前回は何も無かったが、今回も何も無いと言う保証はない。
と言うわけで、最低限の備えとして全員に防護服を着て貰うと共に、エアロックに繋がる扉も開放しておく。
「ハル君。私たちの方は準備が出来たから、何時でもいいよ」
「分かった。【堅牢なる左】起動」
「「「!?」」」
トトリたちの準備が出来た所で、俺は低出力版の【堅牢なる左】を起動。
透明な左手を床に着き、自分の身体を持ち上げる。
「やっぱりな」
「どうなんだい?」
「照明に使われている部分の天井だけ外せそうだ」
天井の照明に近づいた俺は直ぐに気付く。
天井の照明はパネル状の光源から光が放たれる形になっているが、そのパネルの横に小さく……それこそパネルから放たれる光によって眩まされ、見えなくなるほどに小さい取り外しの為の隙間が有る事に。
「外せそうか?」
「やってみます」
俺は右手の指をパネルの隙間に差し込む。
するとパネルはあっけなく外れ、パネルの光が消えると同時に、今まで見えなかった照明裏の部分が見えてくる。
「これは……」
「ふむ。電力……いや、瘴気をそのパネルに供給する為の配管と、そのパネルの固有性質を起動するための装置の様じゃな」
照明裏には今外したパネルと接するように細い管が何本も張り巡らされていた。
詳しい原理は分からないが、トゥリエ教授の言葉が正しいのならば、この管には瘴気が充填されていると言う事か。
で、照明としての効果は、このパネルの瘴金属としての性質と。
となれば、どちらも傷つけないように気を付ける必要が有るな。
「他に何かありそうか?」
「ちょっと待ってください……」
俺はパネルを床に置くと、再び照明裏に近づき、その空間をくまなく見回す。
「あった。これがそうだな」
そうして見つけたのは明らかに周囲に在る他の物とは一線を画すもの……複数の金属を組み合わせて作られたと思しき、薄くて小さい板状の物体だった。
見た目だけで判断するなら、コンピューターや電化製品に使われているチップが近い……かな?
「ご苦労ハル。では……」
「ええ、直ぐに他の照明の裏も調べてみるべきだと思います」
「あいよ。アタシたちに任せておきな」
「お、お手伝いします!」
俺はシーザさんに見つけたチップらしき物を渡すと、元通りに照明のパネルを填め込む。
そして、俺が他の照明に目をやると同時に、いつの間にか何処かからか借りてきたらしい脚立を使ってワンスたちが次の照明を取り外しにかかる。
さて、一体幾つ同じような代物が見つかる事になるのやら。
俺はワンスたちと『テトロイド』の人たちが協力して作業をしているのを見ながら、そんな事を思っていた。