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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
136/343

第136話「シェルター-3」

「どうぞこちらへ」

「分かった」

 翌朝。

 防護服をしっかり来た俺たちは、『テトロイド』側の人員に先導される形で拠点の内側のスペース……シェルターがある場所にエアロックを経由して向かう。


「これは……」

「随分と派手にやっているねぇ」

「此処まで来ると発掘とか掘削とか言った方が良い感じだな」

「はー……凄いね」

 シェルターが在る場所は、四方こそ拠点のコンクリート壁に囲まれてはいたが、上は外と繋がったままで、それだけ聞けば何処かの屋敷の中庭のように思えるような位置関係になっていた。

 が、その中庭部分に入った俺たちが見たのは、地下に埋まっていて天井以外見えないはずのシェルターの全景が見えていると言う光景……つまりは、シェルターの周囲の土が取り除かれて深さ4m程の窪地が出来上がり、窪地の中心にある直方体状のシェルターの外壁を『テトロイド』側の人間が調べている状態だった。


「シェルターの中については、我々は既に調べ切っています。なので、ご覧のように現在はシェルター周囲の土を取り除き、その全貌と外装部分に何かしらの異常がないかを調べています」

「ふむ。シェルターの下についてはどうなのじゃ?」

「そちらはまだ未調査ですが、超音波を用いた事前診断の限りでは何も無い。と言う事になっています」

 で、当然の話だが、このシェルターは元々地下に埋まっていた。

 と言うわけで、入り口は天井部分に存在している。

 なので、俺たちは窪地の下で作業をしている『テトロイド』の人たちを眺めながら、シェルターの中に入るために用意された簡易の橋を渡っていく。


「此処が入口になります」

「分かった」

 俺たちには案内役(と言う名の監視役)として『テトロイド』側の人員が三人、俺たちの列の前後に分かれて付いているが、その内の一人がシェルターの入り口部分に付いている水密扉のような物を開ける。

 すると扉の先には下に向かう階段があり、俺たち六人と『テトロイド』側の人員三人がシェルターの中に入るために階段をゆっくりと降りていく。


「まずはエアロックか」

「ええ。ただ、このエアロックの効率は最新式の脱瘴機構と比べても遜色がない程ですよ」

「ふむ。それは驚きじゃな」

 シェルターの中の最初の部屋は、毎度おなじみなエアロックだった。

 壁に付けられた赤いランプがエアロック内に独特の空気をもたらしている。

 そして、エアロックの後ろの扉が閉められると同時に、備え付けの脱瘴機構が作動し始め、急速にエアロック内の空気から瘴気が取り除かれていく。


「さて、瘴気が抜けましたね」

 やがて、瘴気独特の色がエアロック内から消え去り、前の扉に小さな覗き窓のような物が付けられているのが見える様になると、壁のランプも赤から緑に色が変化する。


「では、入りましょうか」

 案内役の人の手によって前方の扉が開けられ、俺たちはシェルター本体へと歩を進める。


「随分と広いが……」

「でも、実際の広さはダイオークスの方と同じぐらいかな?」

「そうだね。けど、向こうと違って、こっちは新品みたいに綺麗だ」

 シェルター本体部分はだいたい外から見た通りの広さだった。

 だが、天井に複数ある照明や壁の塗装などの関係で、外から見た時よりも多少広めに感じる様になっており、傷一つ無い床や天井、壁には何かが隠されているような違和感は感じられない。


「ふむ。ここに異世界人が二人居たのじゃな」

「ええ。そう言う風に発見者からは報告を受けています。あ、これは異世界人と一緒に発見された物の一覧です」

「拝見させてもらいます」

 トゥリエ教授が調査を始めると同時に、ニースさんが『テトロイド』側の人から此処に何が有ったのかを資料を見て改めていく。


「ハルたちも、各自で調査を始めてくれ」

「分かりました」

「了解です」

「了解」

 それに伴って、俺たちも事前に教わった通りに調査を始める。

 たしかトトリとワンスの二人はシェルターの構造の調査で、トゥリエ教授が年代測定、シーザさんとニースさんが何処に何が有ったかの調査だったか。

 俺?俺は例の短剣が挿し込めそうな場所が無いかの調査です。

 ついでに例の釘に相当する何かが無いかも調べるが。


「ボソッ……(それにしても、本当に此処にまだ何か残っているのか?トイレの便座も含めて、動かせるものは全部取り尽くしただろ)」

「ボソッ……(さあな。俺たちが知らない何かを『ダイオークス』の連中は知っているのかもしれない)」

「ボソッ……(どちらにしたって俺たちがやることに変わりはねえよ。奴らをきっちり監視して、見つけた物を勝手に持って行かれないようにするだけだ)」

 ふと、調査をしている俺の耳にそんな声が聞こえてくる。

 まあ、内容に問題が有るわけでもないし、向こうとしては……と言うか実際俺以外には聞こえていないわけだし、気にする必要は無いな。


「ボソッ……(そういや、今度テトロイドに来るアイドルバンドの名前って何だっけ?)」

「ボソッ……(『春夏冬(ノーオータム)』だな。あのグループはボーカルのカノンちゃんが可愛いよなぁ)」

「ボソッ……(いやいや、ギターのフユミの方が可愛いだろ。常考)」

 ……。

 これはまじめに仕事をしろと突っ込むべきなんだろうか……。

 いや、突っ込んだら負けなんだろう。たぶん。

 そして、俺はアイドルバンド談議に花を咲かせる『テトロイド』の三人から意識を逸らし、調査を続行するのだった。

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