第135話「シェルター-2」
「さて、そろそろ明日以降についての話をしておこうか。通信の方はどうだ?」
瘴気を入れない為のエアロック。
キャリアーや瘴巨人を待機させられる待機所であると同時に、防護服も含めたそれらの簡易的な整備を行う事が出来るフリースペース。
この拠点で寝泊まりする人員のための仮眠室……と言うか、小規模な居住区画。
やはり拠点の中には大体外から察することが出来た設備しかなかった。
『通信の方は何の問題ありません。何時でもどうぞ』
尤も、ここの人間ではない俺たちが、これらの設備を使う事は無いのだが。
全部キャリアーに積んである物でどうにかなるしな。
「よし。それでは食事をしながらで構わないから、明日以降に行う調査についての確認をしておくとしよう」
と言うわけで、現在の俺たちは細かく区画分けされている待機所の一角に二台のキャリアーを横に並べて止めると、その中で夕食を摂りながらシーザさんによる明日以降についての説明を受け始めるところである。
なお、今日の夕食はキャリアーごとに違い、こちらはセブとトトリの二人による手料理であり、ベーコンや卵、野菜を使った家庭的な物である。
うん。今日も美味しい。
「まず、明日と明後日の二日間は、事前の取り決め通り二班に分かれて活動を行う事になる」
『俺、ガーベジ、コルチ、セブの嬢ちゃんの四人はキャリアーの整備と警備で良いんだよな』
「と言っても、警備については殆ど念のためと言うレベルだがな」
で、明日以降についてだが。
キャリアーに残る組の人間はあまりやる事は無いと思う。
まあ、『テトロイド』側の人が何かしらの理由……例えば、情報交換になるかもしれない世間話をするために尋ねてくる可能性なんかはそれなりに有るだろうから、完全に暇になる事は無いと思うが。
「で、残りの六人で、シェルターの調査をすると」
「そうだ」
『吾輩の出番じゃな』
『専門家なのですし、期待させてもらいますよ』
で、残りの六人……俺、トトリ、ワンス、シーザさん、ニースさん、トゥリエ教授でもってシェルターの調査は行う。
「調査項目は大きく分けて三つ。シェルター自体について。異世界転移技術について。そして……ハルの持つ短剣によって開けるであろう未踏区画についてだ」
「まあ、最後に関しては可能性があるって言うだけで、確定ではないけどね」
「確かに。俺の短剣については余裕が有ったら探す程度で良いと思う。確証は何処にもないわけだしな」
「そんな事は分かっているから、見つからなくても安心しろ」
シーザさんが調査項目について改めて述べる。
シェルターについては、シェルターがどういう構造なのかや、何時頃出来た物なのかについて一応調べる。
異世界転移技術については、トトリたちの所と同じように、何かマーカーのような物が有るのではないかと考えられるので、それを探す。
未踏区画については……正直在るかどうかも分からないので、前二つについて調べるついでと言う感じである。
「それでだ。明日の調査には、『テトロイド』側の人間も協力……まあ、実際は監視目的だろうが、とにかく同行する事になっている」
『当然と言えば当然ね』
『まあ、余所者を野放しにしておく理由は何処にもないですよね』
ふむ。『テトロイド』側の同行者か。
確か、調査で見つけた物は一度『テトロイド』側に見せることになっていたはずだし、黙って持ち出されないようにするためと考えれば、当然の措置か。
「シーザさん。ちょっといいですか?」
「何だ?」
と、此処で俺は少し気になった事が有るので、シーザさんに質問をする。
「調査で見つけた物を『テトロイド』に見せるのは良いんですけど、最終的な所有権はどちら側に行くんですか?」
「ああ、その件についてか。少し待っていろ」
シーザさんは俺の質問を聞くと、モニターの方に一つの映像を映し出す。
どうやらダイオークスと『テトロイド』の上の方で話し合った結果についてまとめた物らしい。
「まずUSBメモリーのデータや論文のようにコピーが可能な物については、正確にコピーしたものを『テトロイド』側に渡す事になっている。勿論、この場で複製作業を行い、間違いが無いかを『テトロイド』側も確かめた上でだ」
「ふむふむ」
「で、コピーが出来ない物。例えば例の釘や短剣等については、正確な重量や外見などのデータを取った上で、そのデータは共有。そして、現物についてはダイオークス側が持って行っていい事になっている」
「それってかなりダイオークス側にとって有利な条件のような……」
トトリの言葉に全員が頷く。
だって、この条件だと正確なコピーは渡しますが、オリジナルは全部ダイオークスが貰いますって事だもんな。
『テトロイド』はそれでいいのか?
「どうしてこのような条件になったのかについて私は知らない。が、恐らく『テトロイド』側にしてみれば、既にこのシェルターはほぼ調べ尽くしているんだろうな。そんな中で新たな発見が有るならば、貰えるのがコピーでも問題は無いと判断したんだろう」
『まあ、確かにそうかもしれませんね。ゴネて何も得られないよりかは、素直に納得して少しでも多くの益を取る方が良いでしょうし』
『ついでに言えば、ダイオークスと『テトロイド』の仲なら今後の交渉次第では、現物を送ってもらったり、共同で研究を進めたりする事も十分に可能……か』
「はぁー……なんて言うか、上の人は色々と考えているんですねー」
なるほどな。
そう言う事なら、一応この条件で『テトロイド』側が同意したことにも納得がいくか。
「いずれにしても、この話については私たちにはそこまで関係ない話だ。気にしなくてもいい」
『確かにそうじゃな。これは上の方の人間がするべき話で、吾輩たち現場の人間にはどうでも良い話じゃ』
「了解。まずは目の前の調査をしっかりとやれって事ですね」
「そう言う事だ」
ただまあ、この問題はシーザさんとトゥリエ教授の言うとおり、俺たちが気にしてもしょうがない話であり、俺たちは明日の調査に集中するべきなのだろう。
そう全員が納得した所で、シーザさんによる明日以降の話については終わるのだった。
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