第132話「調査任務-8」
「やっぱり山道だけあって道が急だな」
翌日。
俺たちは前日と同じように二台のキャリアーを一列にして、ファーティシド山脈を越える山道を走っていた。
『道がある程度整った状態で残っているだけマシだけどねー』
『確かに。道が死んでいたら、キャリアーは動けないからね』
で、俺は昨日と同じように、耳に無線機を填めた状態でキャリアーの上で周囲の警戒と【堅牢なる左】による視界の確保を行っていた。
ただし、昨日とは違う点もいくつかある。
「キャリアーと瘴巨人の差だね。キャリアーはスピードは出るけど、舗装されていない道には向かない」
『逆に瘴巨人はスピードこそ出ないが、小回りは効くし、悪路に強い……か』
『まあ、求められている役割も違うし、当然と言えば当然だね』
まずトトリとダスパさんの二人は既に瘴巨人に乗り込み、何時でも瘴巨人を起動して飛び出せるようになっている。
そして、他の面々……それこそ非戦闘員であるトゥリエ教授も含めて、全員が防護服を着用し、何があってもいいように備えていた。
早い話が、戦闘が発生する事を前提として、俺たちは山道を進んでいた。
「で、アレもこれもそうなんですよね。トゥリエ教授?」
『うむ。そうなのじゃ』
さて、俺が現在進んでいる山道についても改めて説明しておくとしよう。
この山道は、ダイオークスからファーティシド山脈を越えて『テトロイド』に行くのに用いられる五本のルートの中で最も北側に属している道である。
道の長さとしては、濃い瘴気に合わせてキャリアーの速度を落としたとしても、四半日程度走らせれば抜けられる程度の長さである。
ただアスファルトによる道の舗装は行われておらず、道は砂利や土が剥き出しになっているため、キャリアーの揺れはだいぶ激しいものになっている。
『ただ奴らについては、悪い事ばかりではないのじゃ。なにせ奴らが居るお陰で、雨が降っても、嵐が起きても、この山は土砂崩れ一つ起こさないし、道も原形を留めているのじゃからな』
当然、長らく人の手が入っていないにも関わらず、これだけ道が整っているのは異常な事である。
おまけに、普通の山と同じように、道の周囲には無数の樹が生えている。
大量の瘴気が存在しているにも関わらずだ。
『前方の道路に道を塞ぐ形で樹が生えているのを確認しました。一時停止します』
『了解。こっちも停車するわ』
と、進路上に、道を塞ぐように一本の木が生えているのが見えたため、二台のキャリアーは減速を始め、やがて停車する。
俺は停車と同時に周囲の気配を探るが、周囲にはこちらに向かってくる物の気配はない。
停車したタイミングに合わせて襲われる心配は、やはりしなくても良いらしい。
『さて、昨日も説明したが、改めて奴ら……タイプ:ツリーに属するミアズマントに関する説明をしておくのじゃ』
俺がキャリアーの上から飛び降りると同時に、二台のキャリアーにそれぞれ積まれていた瘴巨人が動き出す。
そして、キャリアーの中からはワンスたちが武器を抜いた状態で出てくる。
『奴らは普通のミアズマントと違って、自分から獲物を探しに行くような真似はしないのじゃ。代わりに、普段は地上部で瘴気を吸収してエネルギーを確保し、地中の鉱物を加工して自分の根に変える作業を行っているのじゃ』
進路上に有る樹の高さは3~4m程。
タイプ:ツリーのミアズマントは級に関する計算が幹の太さらしいので、これで狼級か熊級程度だそうだが。
『そして、自分の枝葉が届く範囲に他のミアズマントや、人間たちが入り込むと攻撃を仕掛けてくる。早い話が迎撃を専門としたミアズマントと言う事じゃな』
ツリーのアスファルトや土で出来ていると思しき幹に付いている赤いカメラのような物が、こちらに幾つも向けられる。
どうやら、こちらの事は既にしっかりと認識されているらしい。
『ただまあ、迎撃専門であることについてはそこまで問題ではないのじゃ。迎撃専門と言う事は、こちらから手を出したり、迂闊に近づいたりしなければ、襲って来ないと言う事じゃからな』
そしてよくよく見れば、石英などの鉱物で出来ているように見える葉は細かくその角度を変えて刃のようにされているし、枝には所々で動物の関節のように見える物が備えられていた。
うん。これは迂闊に相手の攻撃範囲内に立ち行ったら、一発で切り刻まれるな。
だが、まあ、それは迂闊に立ち行ったらの話だ。
『問題はその生命力じゃ。迂闊に葉や枝を落とすと、そこから新たなツリーが生じ、成長を始めてしまうのじゃ。よって、倒し方は……』
「行くぞ!」
「おう!」
「うん!」
俺は【堅牢なる左】と【苛烈なる右】を起動した状態で、ダスパさんとトトリもそれぞれに武器を構えた状態でツリーに接近する。
すると当然ツリーはその大きく長い枝を振るって俺たちに攻撃を仕掛けようとする。
「ふん!」
「おらぁ!」
「やっ!」
が、事前に攻撃が来る事は分かっていたので、俺たちは全員難なく攻撃を受け止めると、俺は両腕で、ダスパさんはサスマタで、トトリは特異体質による強制操作で枝の動きを抑え込む。
「ワンス!ニースさん!」
「あいよ!」
「任せてください!」
そしてツリーの動きが止まった瞬間。
ワンスとニースさんの二人は勢いよく俺たちの横を駆け抜けて行くと、ツリーの幹にそれぞれの武器を突き立てる。
『!?』
『強力な電撃などによって、ツリー全体を一気に活動停止させることなのじゃ』
すると発電能力を有する二人の武器から強烈な電撃が発せられ、ツリーは二、三度痙攣するような動きを見せた後に、全身をしおらせて活動を停止する。
『……。吾輩の説明が終わる前に片付いているのじゃ……』
「まあ、昨日も受けた説明だしなぁ……【苛烈なる右】起動」
さて、これで後はキャリアーが通れるようにツリーをどかせばいいだけである。
と言うわけで、俺は【苛烈なる右】を発動して、出来る限り多くの根っこを伴う形でツリーを引き抜くと、適当にそこら辺に向かって投げる。
「うわっ、エグいな」
「まあ、こうなるよね」
「見た目は同じでも、中身は別の種だって話だしねぇ」
「回収する余裕はないので、仕方がないですよ」
すると投げた先に居た別のツリーたちが、投げられたツリーに反応して、その身体を叩き壊しにかかる。
うん。身体の破片や、体液と思しき物が周囲に飛び散ったりして、中々に凄惨な光景になっているな。
「さて、処理も終わった事だし、先を急ぐとしよう」
「「「了解」」」
『最後まで聞いて欲しかったのじゃ……』
まあ、そんな凄惨な光景はさて置いてだ。
俺たちはシーザさんの号令でキャリアーに乗り込む。
そして、全員が乗ったところで、再び山道を進み始めた。
07/02誤字訂正
07/05誤字訂正