第131話「調査任務-7」
さて、全員が戻ってきたところで、今後についての作戦会議である。
「スープが出来たよ」
「肉とパンも用意したぞ」
「サラダも出来ましたー」
ただし、時間も時間なので、夕食を摂りながらだが。
と言うわけで、キャリアーの外に机と椅子を出して夕食の準備をし、一番大きな机の上には拠点から目的地までのルートを描いた地図……要するにファーティシド山脈を描いた地図を広げる。
なお、拠点周囲の警備に関しては、この人数では全員で見回っても十分な警備を行う事が出来ないので、キャリアーに積んであった各種レーダーと、拠点の強固な壁頼みである。
まあ、寝る時は交代で見張りを立てるしな。
仮にこの拠点の壁をぶち破られるような何かが有っても、何とかはなるだろ。
「「「いただきます」」」
「では、話し合うか」
「そうですね」
では、夕食を摂りながら明日以降のルートについて話し合うとしよう。
「まず、一番有力なルートについてはどうだった?」
俺はワンスの作ってくれたスープを飲みながら、机の上に広げられた地図を眺める。
地図には山を越えるためのルートが五本分記載されており、そのルートには距離が短いものもあれば長いものもあるし、地形を見るだけでも危険度が高い事が見て取れるものもあれば、地図上ではきちんと整備された道が敷かれたものもある。
「このルートについては止めた方が良いですね。麓に立った時点で聞こえてくるほどの音を発している何かが居るようですから」
「大きな音を出す何か?」
「ええ。恐らくはミアズマント。それも熊級か悪魔級に属するような個体でしょうね」
「なるほど。それなら確かに辞めた方が良さそうだな」
そう言うと、シーザさんはニースさんが無理だと判断したルートにバツ印を付ける。
まあ、今回の目的は調査であって、間違っても戦闘ではないからな。
正体不明の悪魔級や熊級に遭遇する可能性が存在するルートと言うのは、如何に距離が近くても駄目だろう。
「トトリ。他のルートについてはどうだった?」
「えーと、こっちの三つのルートは使えますけど、ここのルートは駄目でした。途中で道が崩れてましたから」
「なるほど」
続けて、シーザさんはトトリを呼び寄せると、トトリが指さしたルートにバツ印を付ける。
この後も考えれば、キャリアーを何処かに置いていくことは当然出来ない。
となれば、どれほどの規模かは分からないが、道が崩れているルートと言うのは致命的だろう。
俺の【堅牢なる左】と【苛烈なる右】でキャリアーを運ぶのは流石に無理があるしなぁ……。
「となると後は……セブ!」
「何ですか?シーザさん」
「調査前に頼んでおいた件についてはどうなっている?」
「あ、はい。それならこっちにありますよ」
セブが電子手帳を持ってきて、俺たちにその中身を見せる。
ふむ。どうやら、この辺り一帯の今日明日の天候についての予測みたいだな。
で、ファーティシド山脈の南の方の天候についてだが、どうにも今日明日一杯は雨が降り続くそうだ。
うーん。山で雨かぁ……規模にもよるけど、植物も何も無い山に雨が降るって言うのは……たぶんだけど、土砂崩れや鉄砲水が発生するな。
「南の方は雨が降る……か。となれば、このルートも無理だな」
と、シーザさんも俺と同じ結論に至ったのか、一番南のルートにバツ印を付ける。
「さて、これで残りは二本だな」
「この二本が使えないなら撤退。で、良いんですよね」
「そうだ。最優先するべきは安全。つまりは小隊員全員が無事に戻って来る事だからな」
「まあ、地上ルートが無理だと言うのなら、それこそ上の方で何とか『テトロイド』側と交渉して、飛行機や浮瘴船を使えるようにしてもらうだけですね」
残されたルートは二つ。
最も北側のルートと、そのルートとは例の大きな音がしたルートを間に挟んだ位置にあるルートである。
長さや地形については、地図上からではさほど差は見受けられない。
だが勘でこの二つのルートから一つを選ぶと言うのは……良くないな。
となると残る判断基準は……
「トゥリエ教授。ちょっといいですか?」
「もぐもぐ……何じゃ?ハル」
俺はパンを頬張っていたトゥリエ教授に声を掛け、こちらに呼び寄せる。
「そうですね。トゥリエに訊くのが一番いいでしょう」
「ミアズマントに関する専門家なわけだしな」
「ふむ?ああ、そう言う事じゃな」
呼び寄せられたトゥリエ教授は机の地図を一度見て、納得したように頷く。
うん。説明の手間が省けて楽だな。
「この二つのルートに生息するミアズマントじゃが……」
トゥリエ教授が二本のルートに生息しているミアズマントについて、数年前のデータだと断った上で説明してくれる。
で、トゥリエ教授によればだ。
・最北のルートには主に樹木型のミアズマントが生息し、他は鼠級ミアズマントばかり
・もう一つのルートには鼠級~熊級のミアズマントが生息。種類については数が多すぎるので把握しきれない
・総合的な危険性については、どちらもほぼ同じと考えてもいい
との事だった。
「ただ、危険度の振れ幅……最も危険な時については、間違いなくこちらのルートの方が上なのじゃ」
そう言うとトゥリエ教授はもう一つのルートの方を指差す。
「理由は?先程は総合的な危険性はほぼ同じと言っていたはずだが……」
「こちらのルートではミアズマント同士が争って、お互いを喰らいあっていると言う報告が吾輩の方に入っているのじゃ。そのために、他の場所よりも特異個体が発生しやすくなっていると言う推測が立てられるのじゃ」
「ああなるほど。つまりこのルートの詳細は、特異個体に出会わなければ危険度は低いが、特異個体に出会ってしまった場合には、一気に危険度が上がる……と」
「そう言う事なのじゃ」
特異個体が多い……か。
……。あの鹿王クラスのミアズマントと複数回戦闘するとか、出来れば避けたいな。
不確定要素が多すぎる。
「シーザさん」
「ああそうだな。これはもう決定だろう」
そして、最終的にシーザさんが指さしたのは、最北のルートだった。
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