第130話「調査任務-6」
さて、拠点も無事に確保出来たところで、俺たちは昼食を摂った。
で、ぶっちゃけた話として、今日の任務はこれからが本番である。
「じゃあ行ってくる」
「よろしくお願いします」
まずダスパさんたち第3小隊が、拠点近くのルートを確かめに行った。
このルートは事前の話し合いにおいて、最もファーティシド山脈を越えやすいと目されたルートであり、所謂本命である。
ただ、この本命が使える保証は無いので、別のルートについてもしっかりと調べておく必要はあった。
「さてと。それじゃあ、私の出番だね」
「トトリの事はアタシたちでしっかりガードしておくから、安心してくれていいよ」
「うん。よろしくね」
と言うわけで、俺、トトリ、ワンス、シーザさんの四人は、セブとトゥリエ教授の二人を拠点の中に残すと、拠点の屋上部分に上っていた。
勿論、トトリは『テンテスツ』に乗った状態である。
「調査する場所については大丈夫だな」
「はい。大丈夫です」
シーザさんと調査する場所の確認をしながら、『テンテスツ』が背中に着けていた板状の物体を取り外し、両腕で抱える。
その板状の物体だが、どうにもくの字型のブーメランにも似た物体を何個もくっつけた物で、切れ目のような部分で分割できるようになっているようだった。
なるほど、これがそうなのか。
「たしか『サーチビット・テスツ』だったか」
「うん。そうだよ。前からずっと私とミスリさんたちとで開発していて、やっと実用に耐える物が出来上がったの」
トトリは手馴れた手つきで板状の物体の表面を弄り、その機能に問題が無いかを確かめていく。
やがて、問題が無い事が確かめられたのか、『テンテスツ』は板状の物体を再び背負う。
「ではトトリ。問題が無いなら、そろそろ頼むぞ」
「はい。『サーチビット・テスツ』起動!」
そして、トトリの声に合わせて、板状の物体……『サーチビット・テスツ』が切れ目の部分で分割され、『テンテスツ』の背中から空に向かって飛び出していく。
「コントロール、視界のリンク、飛行機能、超音波走査機構……いずれも問題なし。大丈夫。何時でもいけます」
『テンテスツ』の背中から飛び出した『サーチビット・テスツ』の数は八機。
で、飛び出したビットたちは一定の間隔を保った状態で、基本的には円軌道を描きつつも、時には楕円軌道や、スラロームと言った動作をしながら、俺たちの上を音も無く……ああいや、微かに聞き取れるほどに甲高い音を発しながら飛び続けている。
「よし。頼んだぞ」
「よろしく頼むよ。トトリ」
「頑張れ、トトリ」
「うん。行ってきます!」
そして、俺たちが励ましの言葉をトトリに掛けると同時に、八機の『サーチビット・テスツ』たちはそれぞれの方向に向かって飛び出していった。
さて、ここからはトトリの邪魔をしない為にも、私語は厳禁である。
どうにも、瘴巨人の指令系と感覚系に対する異常適応と言う特異体質を持つトトリでも、まだ八機のビットと『テンテスツ』を同時に動かすと言う真似は難しいらしいしな。
「「「……」」」
と言うわけで、俺、ワンス、シーザさんの三人は声を発さず、足音も出来る限り忍ばせつつ、目配せだけで合図をすると、シーザさんはこの場に残り、俺とワンスの二人は、この拠点に向かってくるミアズマントが居ないかを確かめるべく、見回りを始める。
「ボソッ……(それにしてもトトリの新装備は凄いね)」
やがて、トトリからある程度距離を取ったところで、ワンスが小さな声で話しかけてくる。
周囲に敵影は……無いな。音もしない。
うん。周囲の警戒をしながらなら、多少は良いか。
「ボソッ……(確かにな。トトリ専用だってことを差し引いても、その有用性は計り知れないと思う)」
トトリの新装備、『サーチビット・テスツ』はくの字型の翼に、飛行の為のエンジンと視界をリンクさせるためのカメラ、そして地上を探査するために超音波による探査装置を付けた物である。
勿論、テスツと言う名の通り、今の段階ではまだ試作品に近いそうだが、それでもキャリアーよりはるかに素早く現地に移動し、地形や敵を調査できると言うのは、隊全体の生存にとって凄まじく有用と言えるだろう。
「ボソッ……(安全に敵や地形を確認できる上に、武器付きの物も開発中だって話だしね)」
「ボソッ……(怖いのはフリーの酸と同じ効果が有る物を使われた時ぐらいか。まだどうなるかは分からないみたいだしな)」
欠点としては、現時点では武器が無いだけでなく、飛行物の宿命で耐久性も無いに等しい点が挙げられるが、武器についてはこれからの開発で、耐久性についてはいっそ切り捨ててしまうのも有りなので、どうとでもなるだろう。
むしろ怖いのは、ミアズマントにビットを発見され、トトリの元に戻って来るのを追跡されてしまった場合だが……まあ、その時には俺たちで対応すればいいだけの話だな。
その為にこうして見回りだってしているわけだし。
「ボソッ……(無事に安全なルートが見つかればいいんだけどね……)」
「ボソッ……(だな)」
ちなみに。
これは後で聞いた話だが、少しでもパイロットであるトトリの負担を減らすべく、超音波による探査の情報はトトリには送られず、キャリアーの方に直接送られて、視覚情報への変換処理をされてからトトリの方に送られるようになっているらしい。
まあ、流石のトトリと言えども、八機分の聴覚情報……それも普段聞いていない音を聞いて処理するのは、幾らなんでも無理だよな。
そうして、しばらく見回りを続けていると、ダスパさんたちも、ビットたちも拠点に戻ってくるのだった。