表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
13/343

第13話「事情聴取-3」

「まっ、こんなもんじゃな」

「ふぅ……」

「やっと終わった……」

 ニースさんの質問がこちらの世界に関する知識を問う物だとするなら、ドクターの質問は俺たちの元居た世界に関する知識を問う物だった。

 その内容は非常に多岐にわたり、とりあえず国語、数学、社会、理科に関してはだいたいの物を吐き出されたと思う。

 特に理科の内の生物と、社会の内の歴史については、かなり細かい部分まで追及された。

 たぶん、世界毎の影響と言うのが如実に出やすい部分だと判断されたからなのだろう。


「それで結果はどうなんだい?」

「儂が判断する限りでは、二人は異世界人以外の何者でもないのう。特に歴史についてはかなりの差が有るの。これで真実が、何処かの都市が二人をスパイにするために一から破綻なく捏造した歴史を教え込んだとかなら、その努力をむしろ褒め称えてやりたいもんじゃ」

「そんな暇人が居るとは流石に思えないでやんすね」

「じゃろ?ついでに言えば、二人がこちらに来てからについてのレポートも儂は受け取っておるんじゃが、そちらを合わせて考えれば二人は異世界人としか判断できんの」

「……」

「納得してもらえたなら何でもいいです」

 まあ、おかげで聴取がかなりの長時間に及んで、俺も雪飛さんもかなり疲れる事になったのだが。

 いずれにしても納得してもらえたならそれでいいや。うん。

 後、こちらに来てからのレポートとドクターが言ったところで、雪飛さんが僅かに体を震わせた気がするので、もしかしたら何か有ったのかもしれない。


「で、じゃ」

 俺たちの答えを書いた紙を机の上に置いた所で、ドクターが話の流れを斬るように言葉を発しながら俺と雪飛さんの方を向き、水色の毛の隙間から綺麗な紫色の瞳を覗かせる。


「お主らの方からも儂に対して色々と聞きたい事が有るのではないかの?」

「…………」

「いいん……ですか?」

 そして出されたのは俺たちの疑問に答えようとする意志だった。


「まあ、儂が知っていて、話しても問題ない範囲に限ってじゃがな。後、そろそろ昼の時間も無いから、今日の所は二人合わせて一つだけじゃぞ」

「それでも構いません」

「お願いします」

 それはドクターが答えられる範囲ではあっても有り難い話だった。

 瘴気に関しての知識もそうだが、俺も雪飛さんも、この世界に関してはあまりにも無知すぎるし、知らないが故に俺なんかは本来なら死んでいてもおかしくない状況に有ったのだから。

 俺は雪飛さんと一度視線を交わす。

 今日の所は一つだと言うが、それでもまず何を訊くべきなのかは分かっていた。


「じゃあ、羽井君」

「分かった。ではドクターに質問です」

「うむ」

「単刀直入に聞きます。俺たちが元の世界に戻る方法は有りますか?」

「ふむ……」

 俺の質問にドクターは顎と思しき部分に手をやり、何か考え込むような仕草を見せる。

 それはまるでどこまで話して良いのか、話すのならどういう順序で話すべきなのかを考えているようだった。


「儂の知る限りではお主らを元の世界に還す方法は無いのう」

「そんな……!?」

「…………」

 そうして発せられた答えは、俺たちの希望を撃ち砕くような物であり、雪飛さんの顔が絶望の色に染まる。

 だが、ドクターの言葉はまだ終わっていなかった。


「じゃが、手掛かり程度なら示せるの」

「それはどういう意味だい?ドクター」

「いやなに、ハルとトトリ。まず大前提として、お主ら二人がこの場に居る以上は、例のスピーカーの声の主とやらが別の世界に人間を送り込む力を有しており、そんな力を有している存在が居る以上は、今は持っていなくても、今後儂らでもそう言う技術を有する事が可能であると言うのは、あらゆる技術に関する考え方として間違えようのない事実じゃ」

「でも、それだけじゃ……」

 雪飛さんの表情はまだ陰っている。

 だがそれでも希望がほんの僅かに残っている事を確かにする話であり、諦めるにはまだ早い事は分かった。


「加えて、お主らを異世界に送り込んだ何者かは、瘴気と言うハルのように特殊な存在でなければ確実に命を落とす事になる存在が世界中に蔓延している世界に人を送り込む際に、予め用意しておいた瘴気が存在しない部屋にピンポイントで送り込むと言う行為を行っている。これがどういう意味か分かるかの?」

「え?」

 加えてドクターの話自体まだ終わってなどいなかった。


「これは言ってしまえば、宇宙空間から何かを落として、道を歩いておる人の頭にその何かを直撃させるような行為じゃ。普通に考えればまず成功せん。それこそ、その歩いている人物に落下物を引き寄せるような何かが無い限りは、成功確率はゼロと言い切ってもいいぐらいじゃろう。つまり……」

「俺たちが最初に飛ばされた部屋にはそう言う仕掛けが有った?」

「!?」

「そう言う事じゃの」

 俺の言葉に雪飛さんの顔から明らかに暗い物が退き、ドクターは俺の答えに出来の良い生徒を見るように満足げな笑みを浮かべる。

 実際、ドクターの考え方は筋が通っている。

 と言うか、現状だとそれ以外に道は無いように思える。

 が、一つ問題がある。


「でも、俺の居た部屋は……」

「分かっておる。今頃は竜級ミアズマントの腹の中なんじゃろ。じゃから、探すとするならば、トトリ嬢ちゃんが居った方の部屋じゃ」

 ああやっぱり、ドクターは知ってたか。

 そう、俺が最初に居た部屋は、あのドラゴンに食われてしまって、もう存在していない。

 こればかりはどうしようもない事だ。

 あのドラゴンの腹を裂いたら、俺が最初に居た部屋がそのまま出てくるわけでもないし。


「じゃ、じゃあ早速……」

 雪飛さんが椅子から立ち上がり、何処かに向かって駆けだそうとする。

 が、駆け出すその一瞬前に。


「トトリ。アンタには悪いけど今すぐってのは無理だ」

「ど、どうしてですか!?オルガさん!?」

 雪飛さんより頭半分ぐらいは小さいオルガの片腕によって肩を抑えられ、再び座らされる。


「まあ、この件はどう考えても一日二日で終わるような話ではないでやんすからねぇ」

「そうね。それこそ何週間、何か月。いえ、年単位で考えるべき問題でしょうね」

「…………」

 ライさんとガーベジさんの言葉に雪飛さんは俯いて黙る。

 どうやら、自分が今ここで無理をしてもどうにもならないと悟ったらしい。


「となれば焦ってもしょうがないし、まずは足元を整えてから……って事ですか?」

「まあ、そう言う事じゃのう。お主らには悪いが、この辺りについては諦めてくれい。ダイオークスにもダイオークスの事情や、法律、礼儀と言う物が有るんじゃ」

「分かってますよ。それにですよ。逆に言ってしまえば、きちんと筋を通して調べるのだったら、ダイオークス側からも支援を受けられる。って事ですよね。この話は」

「ま、時間が経てば、それだけ多くの情報が入ってくるのは確かじゃな。じゃが、その辺りの話はまた追々する事にして、今日はお疲れ様じゃ」

「はい」

「はい……」

 そうして、辛うじて元の世界に戻るための希望が紡がれたところで、その日の話は終わりとなり、俺と雪飛さんはダイオークス側が用意してくれた宿泊設備に泊まる事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ