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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
129/343

第129話「調査任務-5」

「確か280年ほど前まで使われていた山越え用の拠点。でしたっけ」

 俺たちの目の前にある建物は、まるで四角い箱のような建物だった。

 現在俺たちが居る場所から一見した限りでは、そのコンクリート製の建物には穴が開くほどの大きな傷は見当たらず、重たそうな金属製の扉による入口は大きく開かれ、中に俺たちが入るのを待っているだけである。


『正確には298年前に建てられ、それから276年前までの22年間ファーティシド山脈を越える人間たちの為に使われていた拠点だな』

『瘴気が地上にまで出てきたのが300年前ですから、本当にダイオークス黎明期に作られた拠点だと言って構わないでしょうね』

『どうして作られたんだっけ?』

『えーと、その頃は今ほど瘴気学が発達していなくて、浮瘴船も瘴気動力の飛行機も数が少なかったらしいよ。だから、その頃の交易の中心はキャリアーを使った陸路で、そのキャリアーの整備や点検。その他諸々をするための場所として作られた。って、この前調べた資料には書いてあったかな』

『へー、当然と言えば当然だけど、そんな時代もあったんだね』

 が、中に入ってから何かがあったのでは遅いので、俺たちはまず入り口を無視して、建物の周囲をゆっくりと回り始める。

 勿論、何時でも戦闘できるように準備を整えた上でだ。


『それにしても、よくこれだけの建物が大きな傷一つ無く残っていた物なのじゃ』

「確かに。利用する側としてはありがたいですが、普通なら何処かに穴の一つでも開いていそうな物ではありますね」

「それだけ当時の建築技術が優れていたって事じゃないのか?ミアズマント共だって、食える建物と食えない建物が有るなら、食える建物の方に行くだろうしよ」

『まあ、結局はそう言う事なのかもね』

 で、皆で警戒しながら見回った結論を言わせてもらうのならば、建物には特に大きな傷は付いていなかった。

 それどころか、周囲には鼠級ミアズマントの一匹すら見当たらず、少々拍子抜けさせられた感じすらあった。

 勿論、大きな傷やミアズマントが無かったと言っても、細かい傷やヒビのような物は幾つもあった。

 が、それらの傷にしても今日明日で突然建物が壊れたりするような事態に繋がる傷では無さそうだった。


「では、中に入るぞ。まず私たちでエアロック内の安全を確かめた後に、キャリアーを二台とも中に入れてくれ」

「「「了解」」」

 俺たちはシーザさんの先導で建物に備え付けられたエアロックに入る。

 エアロックはかなり大きく、キャリアーのように大きな物でも、一度に六台ぐらいまでなら余裕をもって入れそうな感じだった。


「シーザさん」

「頼む」

「はい。【堅牢なる(フォートレス)(レフト)】起動」

 と言うわけで、俺は本来の【堅牢なる左】を発動しても建物を傷つけることは無いと判断して、【堅牢なる左】を起動。

 周囲の瘴気濃度を下げることによって、視界を良くする。


「ミアズマントは居なさそうだね」

「こちらの扉はしっかりと閉まっていますね」

「後ろの扉も調べた限りじゃ、問題なく閉まりそうだぞ」

「よし、セブ、ガーベジさん。二人ともキャリアーを入れてくれ」

 エアロックの中には何も無かった。

 ただ、二つの大きな金属製の扉が前後に在るだけで、後はその脇に小さな扉が二つと、コンクリートを打ちっぱなしの空間が広がっているだけだ。

 なので、少なくともエアロックの中には危険は無いと俺たちは判断すると、シーザさんの指示でキャリアーをエアロックの中に入れ、ミアズマントの侵入と瘴気の流入を防ぐために後ろの扉を閉める。


「じゃあ、中の方が大丈夫か確かめてくるよ」

「少し待っててくださいね」

「万が一の時はぶち破っちまえよー」

「では行ってくる」

 そして後ろの扉が完全に閉まったところで、俺は【堅牢なる左】の発動を停止し、ワンスたち四人が前の扉の脇に付けられた小さな扉を通って、エアロックの先の空間を調べに行く。

 なお、万が一の時には破ってしまえと言うのは、もし中で何かが有って、その何かが著しく拙い物であった場合には、俺の【堅牢なる左】と【苛烈なる右】で後ろの扉を壊して逃げろと言う事である。

 尤も、建物の様子を見る限りでは、その万が一は億が一とか言われそうなレベルで無さそうだが。


「中の安全を確認しました。今から前の門を開けます」

 そうして四人が扉の向こうに行ってからしばらく経った頃。

 大方の予想通りに何の異常もなく、エアロック内の瘴気濃度が安全な状態であることも確かめた上で、俺たちの前方に在る扉がゆっくりと開かれていく。


『やれやれ、作戦を立案した時には、雨露を凌げるだけの空間が有ればいいと思っていたのじゃが、いい意味で想像外じゃな』

「確かにそうだね。此処までとは思わなかった」

「まあ、ダイオークスだって三百年前に建てられた建物だし、手入れの事を考えなければ、もって当然なのかもしれないがな」

 エアロックの向こうには、上下左右がコンクリートに覆われた空間が広がっていた。

 イメージとしては、元の世界で言う所の立体駐車場に近いか?

 まあ、キャリアーや瘴巨人に合わせてあるためなのか、天井は高めだが。


「さてと、それではまず適当な場所にキャリアーと瘴巨人を止めてしまおうか、話はそれからにしよう」

「はい」

「分かりました」

「ちょっと待っててね」

「あいよ」

 セブとガーベジさんの操るキャリアーがその空間に入り、トトリとダスパさんの操る瘴巨人も続いて中に入っていく。

 そして、全員が中に入ったところで、エアロックに繋がる扉はゆっくりと閉められた。

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