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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
127/343

第127話「調査任務-3」

 二週間後。

 俺たち第32小隊のキャリアーと、ダスパさんたち第3小隊のキャリアーはNWWゲートから出発し、縦一列の状態で旧市街を北西方向に向かって走っていた。


『さて、改めて行きの日程についての説明をしておくぞ』

『ああ、何時でも問題ない。始めてくれ』

「俺の方も問題ないです」

 瘴気を含んだ風が自分の頬に当たるのを感じつつも、俺は右耳にはめられた小型無線機の声に耳を傾ける。


『まず今日は、目的地である『テトロイド』近郊とダイオークスの間に存在している山脈……ファーティシド山脈の麓にまで移動。そこで今日の休息所として安全な場所を確保した後に、事前に想定した山越えのルートが使えるかどうかの調査を行う』

『確か拠点近くのルートについては私たち第3小隊が担当でしたね』

『で、遠くのルートの確認については、私の瘴巨人『テンテスツ』の新装備を使えばいいんですよね』

『そうだ。正確には我々第32小隊が休息所の確保と警備。想定ルートの中でも休息所に近いルートを第32小隊が確認。想定ルートの中でも休息所から遠いルートをトトリの能力で探索してもらう』

 無線機から聞こえてくるのは、今日やるべき事に関する話。

 そして、俺はそんな無線機の声に耳を傾けつつも、周囲にミアズマントの影が無いかを慎重に確認する。


『で、分かっていると思うが、万が一どのルートも使えないと判断された場合には?』

『その時点で調査を中止。ダイオークスに帰還する。じゃろ。耳にタコが出来るほどに聞かされたのじゃ』

『完全に新規のルートを構築するとなったら、それだけで一つの任務になるぐらいだもんねー』

『まあ、今の装備でやるのは無理だわな』

 周囲に敵影は無い。

 妙な音や、感覚もしない。

 見逃しの可能性は……周囲の瘴気濃度は本来の状態で視界が50mを切る程度だが、現在は俺が視界確保の為に本来の【堅牢なる左】を使い、瘴気濃度をかなり下げているから、考えづらいか。

 まあ、鼠級ミアズマントを時々轢いている音と振動は感じるが。


『よろしい。それでは使えるルートを見つけた場合は……』

「と、ちょっと待ってくれ。敵だ」

 と、遠くの方から、こちらに向かって高速で接近してくる影を俺の目は捉える。

 それも地上を駆けてではない。空を飛んでだ。


『種別と数は?』

「数は三。恐らくは狼級ミアズマントで種類は……分からないな。鳥系の何かではあるようだが」

『ほう。鳥型とは中々レアなのじゃ』

『『『……』』』

『ま、まあ、新たなサンプルが必要となるほどではないのじゃが』

 無線機から皆の溜め息とトゥリエ教授の慌てた様な声が聞こえてくる。

 が、まあ、それはさておいてだ。

 俺はこちらに接近してくる鳥形ミアズマントの姿を改めて確認する。

 具体的な種類は分からない。

 まあ、鳥と言う生物を大きさと色以外でもって見極めろと言うのは、素人にはちょっと厳しいよな。うん。

 が、等級については、翼を両横に広げた状態でだいたい50cm程度なので、狼級で間違いなさそうだった。


『追いつかれそうか?』

「向こうの方が速い上に飛んでいるんで、撒くのは厳しいと思います」

『分かった。ハルの射程範囲内に入った時点で……』

 さて、現在の俺の状況だが、実は一人だけキャリアーの中にはおらず、普段の装備よりも防寒性を優先した装備を着込むと、第32小隊のキャリアーの上に用意された座席に座った状態で周囲の警戒と瘴気濃度が低下した状態を維持している。

 これは瘴気濃度を下げ、視界を良くした方が、移動効率が良くなると言う判断と、俺の【堅牢なる左】と【苛烈なる右】の射程からの判断である。

 で、そんな位置に居る以上は当然のことながら……


『落とせ』

「了解」

 襲い掛かって来たミアズマントに対して最初に対応するのも俺の役目である。


『さて、丁度いい機会であるし、今回の各種物資の回収に関する規定も話しておくぞ。なにせ、二台のキャリアーでは運べる物の量にも限界があるからな』

「すぅ……」

『『『カアアアァァァ!』』』

 俺はキャリアーの上で、三体の鳥形ミアズマントをしっかりと見定める。


『まず第一優先対象は調査対象。これは当然だな』

『まあ、その為の任務なんだしな』

『次に優先するのは、特異個体(イレギュラー)またはファーティシド山脈と『テトロイド』周辺に生息するミアズマント』

『貴重な資料になるから、可能な限り回収して欲しいのじゃ』

「ふんっ!」

『『『カアッ!?』』』

 そして三体の鳥形ミアズマントが【苛烈なる右】の射程範囲に入ったところで、【苛烈なる右】を起動。

 即座に一振りし、三体の鳥形ミアズマントのワイヤーや細かい砂などによって構築された脆い体を砕きながら、キャリアーから離れた場所に向かって一気に吹き飛ばす。


『最後に、ダイオークス周辺のミアズマントだ。と言うわけで、本来はあまりよろしくないが、行き……特に今日については、どのミアズマントも基本的には追い払うだけでいいと思ってくれて構わない』

「まあ、相手がモロすぎると追い払う以前に、仕留めちゃうんですけどね」

『それは不可抗力ってものだと思うよ。ハル』

 うん。間違いなく仕留めたな。

 今回は回収が出来ないので、他のミアズマントの餌になってしまうだけなのが少々悲しいと言うか、ミアズマントを狩る外勤部隊としてはあまり良くない気もするが。


『いずれにしても、今日は移動と明日以降のルートの確認が最優先事項だ。それ以外の事に力を使い過ぎないように気を付けろ』

『『『了解』』』

 さて、調査任務が上手くいくと良いんだがな。

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