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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
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第124話「新たな任務の前段階-4」

「まず範囲拡大の装備品につきましては、一つの案で基本的な設計が終わり、現在は試作の段階に入っています。これで、設計通りに機構が動くことが確認出来れば、ハル様に実際装着していただき、効果が有るかを確かめていただくことになります。なので、今回の調査に持って行くことも、恐らくは可能です」

 まずミスリさんが机の上に何かの図面のような物と、完成予想図と右下に書かれた絵のような物を出す。


「なるほど」

 ミスリさんの説明によれば、これ……とても長いチューブ状の尻尾が付いたベルトのような物体が、俺の瘴気吸収能力の範囲を広げるための装備らしい。

 で、どう言う仕組みでもって瘴気の吸収範囲を拡大するかだが。

 どうやらチューブは全体で見れば輪のようになっており、その中を瘴液が循環し、俺の瘴気吸収能力の範囲外で大気中の瘴気を集める様になっているようだ。

 なるほど。これなら、確かにさらに多くの瘴気を掻き集めることが出来るだろう。


「ただ……ハル様も既にお気づきかもしれませんが、今の設計のままですと、ハル様の行動が著しく阻害されることになります。この点については、私たちの方でも解決策を探していますが、解決策については今度の調査までに間に合うかと言われれば、厳しいかもしれません」

「まあ、誰がどう見ても長すぎるもんな……」

「うーん……これだと、私なんかは気付かずに踏んじゃいそうだよね」

 ただ、あまりにも尻尾の部分が長すぎた。

 いや、俺の瘴気吸収能力の範囲外にまでチューブを伸ばさなければいけない以上、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれないが、それでも長すぎた。

 流石に自分の身長の数倍の長さは間違いなくある尻尾をずるずると引き摺って戦うのは、見た目云々以前に、戦闘を行うに当たっては致命的な欠陥と言う他ない。


「勿論、他の案も考えてはいますが、そちらはそもそも設計自体が難航していますので、今回の調査には間違いなく間に合わないです」

「うーん……とりあえず保留で」

 とりあえず、今回の調査に持って行くのは、装備に余裕が無い限りは無しだな。


「分かりました。それではハル様から出していただいたもう一つの案である、大容量の瘴液庫と言う案ですが、こちらは……厳しいです」

「理由は?」

 でだ。

 もう一つの案である、瘴巨人に搭載されている瘴液庫の強化版……つまりは大量の瘴気を何かしらの方法でもって持ち歩くと言う案についてだが、ミスリさんの表情から察する限り、こちらは範囲拡大の方とは比較にならない程に厳しいらしい。


「以前の特別訓練から、ハル様が【堅牢なる左】または【苛烈なる右】を発動・維持するために必要な瘴気の量はだいたい割り出せていますし、日々の活動からハル様が携行可能な重量についても分かっています」

「ふむふむ」

「そして実を言えば、必要な時だけ瘴気を外に出すことが出来るタンクその物の設計や、そのタンクをハル様に持っていただくために必要な装備については、既に試作も完了しています」

「え?それなら……」

 俺はトトリの言葉を手で遮る。

 俺にもミスリさんが厳しいと言った理由が分かったために。


「中身……瘴気を吸収させる液体に問題が有るんだな」

「はい。その通りです。現在26番塔の方で把握しているどの物質を持ち出してきても、ハル様が携行可能な重量に収まり、かつハル様の【堅牢なる左】と【苛烈なる右】のいずれかを数秒間維持するだけの瘴気を保有できる物質と言う物はありませんでした」

 そして、その理由は俺やトトリにはどうする事も出来ない話であり、ミスリさんにも解決する事が難しい事が明らかな理由だった。


「これはもう……こういう事を専門にしている、中央塔大学の教授辺りに相談するしかない気がするな」

「そうですね。私もそう思っています。確か瘴気学の一環として、どの物質がどれだけの瘴気を吸収できるかを研究していらっしゃる方も居たはずですから。近い内に相談を持ちかけてみたいと思います」

 そんなわけで、俺の立場からは専門家に丸投げする他なかった。

 まあ、トゥリエ教授経由でその人物に協力を呼びかけるぐらいは出来るかもしれないが。


「そんな人が居るんだ」

「ええ、そうですよ」

 ちなみに、どうしてそんな事を調べている人が居るかだが、この前訪れた製塩所の塩のように、瘴気をきっちり抜いておかないと拙い物を処理するためには、どれだけの瘴気が含まれているのかを知っておく必要が有るからだそうだ。

 後は、瘴気が無い環境下で、どれだけ瘴金属を用いた物……つまりは瘴巨人などを動かせるのかを事前に把握するためにも調べる必要が有るらしい。

 何と言うか、縁の下の力持ちって感じの研究だな。うん。


「それでハル様。他に今回の調査で必要になりそうな装備は有るでしょうか?」

「そうだな……あ」

「何でしょうか?」

 で、話は再び変わり、俺は何か必要な物が無いかと、現在の自分の装備を思い出してみる。

 すると、一つだけ早急に必要になりそうな装備を思いつく。


「短剣が欲しいな。頑丈な奴」

「短剣……ですか?」

 俺の言葉にミスリさんは首をかしげる。

 まあ、俺は既に竜級ミアズマントに踏まれても大丈夫と言われるほどに頑丈な短剣を二本も持っているからな疑問に思うのは当然かもしれない。

 だが……


「そう。短剣。俺が今まで持っていた短剣は、【苛烈なる右】が本来の姿になったせいで、普段はどこかに消えちゃっているからさ。普段使いと言うか、分かり易い武器を示しておいた方が、便利な場面もあるからさ」

「ああ、言われてみれば」

「そう言えばそうでしたね」

 その二本の短剣は、【苛烈なる右】の人差し指と中指になってしまったのだ。

 そのため、現在の俺は傍目には何の武器も持ち歩いていないように見えてしまうのである。

 勿論、武器を持ち歩いていないからと言って、即座に何か問題が起きるわけではない。

 が、武器を持っておけば、簡単に解決できる問題も中にはある事も確かなのである。

 そうでなくとも相手の不意は突きやすくなるだろうしな。


「なるほど。そう言う事でしたら、早急に手配させていただきますね」

「よろしく頼む」

 と言うわけで、俺はミスリさんに今まで持っていた短剣とよく似た物を作ってもらえるように、頼むのだった。

 勿論、強度については多少下がっても構わないと言っておくが。

 アレを真似出来るとは思えないし。

06/24誤字訂正

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