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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
122/343

第122話「新たな任務の前段階-2」

「ちょっ!?トゥリエ教授!?それは一体どういう!?」

 俺たちの調査にトゥリエ教授が付いて来る。

 その言葉に、俺は思わず画面の中のトゥリエ教授に掴みかかるように身を乗り出し、口を大きく開けて叫んでいた。


『どういうって、言った通りの意味じゃが?』

「いやいやいや。外勤部隊って付いて来たいと言って、付いて来て良いような部署じゃないですからね」

 俺の言葉に、背後でトトリたちが力強く頷く。

 実際、外勤部隊は常にミアズマントとの交戦が想定されている部署であるため、その危険度は内勤である他の部署に比べて著しく高い。

 それ故に俺とトトリの入隊試験の時も、適性を見る検査が十二分に行われたわけだし、入隊後もまずは基礎訓練に日々を費やしたのである。


「おまけにさっきまでの話を聞く限りでは、今回はダイオークスの周辺では無く、アタシたちの誰も行った事が無い別の都市周辺での任務だしね。とてもじゃないけど、足手まといが確定している相手なんて連れて行けないよ」

「そうだね。私たちの護衛能力の問題と言う点を抜きにしても、慣れない現場って言うだけで、訓練をしていない人間を連れていくだけの余裕はないと思う」

『ふうむ……』

 俺の言葉に追従するように、ワンスとトトリの口からも、トゥリエ教授の同行に反対する意見が上がる。

 だが実際、例えトゥリエ教授がキャリアーの中のような安全な場所に閉じこもると言う選択肢を取り、護衛についての心配が皆無の状況となったとしても、トゥリエ教授が居るだけで護衛以外の方面……例えば、食料等の物資からも負荷がかかるのは確かなのだ。

 と言うわけで、ぶっちゃけ俺たちとしてはトゥリエ教授の同行には断固反対したいのだが……。


『じゃが、吾輩が同行するのは既に決定事項なのじゃ。お主らどころか、吾輩自身がゴネても覆らないのじゃ』

「ちっ」

 どうやら無理らしい。

 と言うか、トゥリエ教授自身がゴネても駄目って事は、もっと上からの命令なのか。

 こりゃあ、詳細な説明が行われる時までに、十分な安全を確保するための手段と、その手段を得るための方便を考えておく必要が有るな。

 向こうが用意してくれるなんて言う希望的な観測は間違ってもするべきではないしな。


「……」

「お任せを」

 と言うわけで、俺はその辺の考えを視線に込めながらナイチェルの方を向き、その顔を見つめる。

 すると、ナイチェルも俺の考えを察してくれたのか大きく頷いてくれる。


『いや、吾輩としてもじゃな。本来は事前に調査してもらいたい案件だけを通達して、吾輩自身は中央塔大学のオフィスで静かに待っていたかったんじゃ。その方が安全で、しかも確実だと言う事も分かっていたのじゃ』

「では何故、同行する事に?」

 と、いつの間にかトゥリエ教授の様子が愚痴っぽい感じになっていた。

 シーザさんが相手をしてくれているが……ああうん。ごめんなさい。そのまま相手をお願いします。

 俺には対応は無理そうなんで。


『政府の役人の中に石頭の奴が居たのじゃ』

「石頭?」

『そうじゃ。そやつが最低でも一人は自分たちの意思で直接伝えられ、かつ調査対象に関して相応の知識を有する人間……つまりは中央塔大学の人間を調査員の中に入れることをゴリ押してきたのじゃ』

 そう言うトゥリエ教授の顔は……なんて言うかどす黒い。


『勿論、中央塔大学としては、そんな無闇に護衛する側にも、される側にも危険を増すだけの行為など断固反対じゃ。じゃが、どうしても立場の差と言う物が有っての……』

「それで無理やり通されたと」

『ああそうじゃ。それでしょうがないから、少しでも護衛する側の負担を減らすべく、今の教授たちの中では一番体力が有る上に、この前の悪魔級ミアズマント・タイプ:フリーの報告会の件で謹慎処分を喰らっていた吾輩が派遣されることになったのじゃ』

 トゥリエ教授はその捻じ込んだ誰かの事を思い出してか、どす黒い笑みを浮かべたまま、静かに笑い声を上げている。

 その笑みは、なんと言うか矢面に立っているシーザさん以外の面々が全員揃って顔を背けざるを得ない程だった。


『ふふふふふ……今回の件の代償は高くつくのじゃ。絶対にあの石頭の裏を洗って、表舞台から遠ざけてやるのじゃ……『暴露屋』の黒幕の力を見せてやるのじゃ……』

「「「…………」」」

 とりあえずあれだな。

 今回の件をごり押しした誰かさんについては、ご愁傷様と言う他ない。

 後、これ以上この話題を続けるのはたぶんだけどヤバい。

 共犯者にされる的な意味で。

 シーザさんもどうにかしろと言う感じで、こっちを睨んできている。


「えーと、あれ?そうだ。そう言えばどうしてこの前の報告会の件で謹慎処分に?」

『ん?ああ。それは巨人級については、勝手に吾輩が言ったと言う事になっているからじゃ』

「?」

 と言うわけで、俺は新たな疑問を発する事によって、無理やりにでも話題を変える。


『実際には多くの教授たちで出した推論だったんじゃが、あの話は明確な根拠の無い話だったのじゃ。おまけに、伝えればどうしても混乱が起きる話だったのじゃ。じゃから、吾輩が勝手に言った事にして、処分を中央塔大学側で先に下す事によってそれ以上の追及を免れる事にしたんじゃ』

「えと、話さないと言う選択肢は……」

『そんなものは無いのじゃ。もしも実際には巨人級が居なかったならば吾輩のホラで済むが、そうでなかったら、それこそダイオークス全体の存亡に関わってくるのじゃ』

「なるほど……」

 で、話題の変換は上手くいったらしく、トゥリエ教授の表情から黒い物が消え失せる。

 ふう。よかった。


『と、そろそろ時間が拙いのじゃ。じゃあ、詳しい話はまた後日なのじゃ』

「分かりました」

 そうして通信は切れ、画面の電源も落ちる。


「「「はぁ……」」」

 で、皆揃って嫌な緊張感から解放された溜め息を思わず吐くのだった。

06/22誤字訂正

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