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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第3章【不抜なる下】
120/343

第120話「見回り任務-4」

「今更な話になるけど、やっぱりハルの能力には特異体質だって言い切るには不可解な点が多いね」

「確かにハル君の能力……特に【堅牢なる左】と【苛烈なる右】はこっちの世界の常識とも、元の世界の常識とも乖離している感じだよね」

「まあ……それは確かにそうかもな」

 第32格納庫に併設されている待機室に移動した所で、俺たちは改めて俺の能力について話し合う事にした。

 と言うのも、今回の部分起動できる場所が妙に限られていると言う点含めて、どうにも俺の能力には不可解な点が多いからだ。


「えーと、ハル様の特異体質って、メインは瘴気の形態性質の無効化で、【堅牢なる左】と【苛烈なる右】はその特異体質の副産物って言う話だったよね?」

「そうだな。私たちや、塔長たちの間で出回っている資料ではそうなっているはずだ。だが、その特異体質一つではどうしても説明がつかない現象をハルは起こしてしまっている」

「あー、折角の機会だし。一通り洗い出してみるか」

 何となくだが、俺はこの疑問についてはきちんと話し合っておくべきだと感じた。

 なので、筆記用具を用意すると、俺の能力をそれぞれの視点で見て、常識的に考えて有り得ない部分について書き出す。

 そして、書き出したそれについて俺の特異体質と言う事で説明がつくかどうかを皆で話し合ってみて、説明がつかないものは更に別枠で書き出してみた。


「こんな所か」

 で、その結果として……。


「結構出ましたね……」

「やはり、ハル様の能力は特異体質だけでは説明が付きませんでしたね……」

「まあ、ある意味予想通りか」

 【堅牢なる左】と【苛烈なる右】が俺の特異体質の副産物であることを認めてもなお、全員が全員、溜め息を吐きたくなるような結果になった。

 まあ、具体的に言うとだ。


・明確に低出力版と通常出力版の二種類が存在する

・初発動時以外の通常出力版は、明らかに虚空から腕を生み出している

・通常出力版の腕の質量は熊級ミアズマントと競り合えるほどにも関わらず、普段は消失している

・低出力版は何故か普通の人間の目には見えない

・普通のコンクリートや金属で出来ているにしては、鱗の強度が高すぎる

・そもそも、何故例のUSBデータを見ただけで【苛烈なる右】が使えるようになったのかの理屈が不明

・どちらの世界の技術をもってしてもこの腕を作れるかは怪しい程に、精密に作られている


 と言う感じだった。

 ただ、これでもまだ削れたほうではあるんだよなぁ……【苛烈なる右】の部分起動については、あの装飾付きの短剣が爪になった部位だからだろうと言う事で、一応の納得がいったりしたし。


「で、書き出したはいいけど、この疑問点どうするの?僕の知識だとどれ一つとして、理屈を付けられそうにないんだけど」

「そうですね……。一番可能性がありそうなのは、中央塔大学の教授たちに答えを求めてみる事だと思いますが……」

「うーん……ボソッ(どう考えても今の技術じゃ無理そうなんだよね……)」

「無理だろう。明らかに既存の科学知識でどうにかなる範疇を超えている」

 で、この疑問に関して中央塔大学の教授たちに訊いてみると言う案も出たが、辞めておこうと言う結論になった。

 たぶん、教授たちも棚上げ済みの疑問だろうし。


「そもそも一番分からないのが、その……ハルたちをアタシたちの世界に飛ばしたって言う、スピーカーの声の主って奴だっけ?そいつが何を考えてハルたちをアタシたちの世界に送り込んだのかだね」

「そうだね。【苛烈なる右】も【堅牢なる左】も、その声の主が用意したっぽいUSBメモリのデータをハル君が見てから使えるようになったわけだし、関わりがあるのは確かなんだよね」

「あー、言われてみれば確かに。あの声の主なら、俺の能力の全貌について知っていてもおかしくないよな」

 と、ここでワンスの発言から、話はもっと根本的な部分に移る。

 何と言うか、今まで色々と忙しかったから気にしていなかったが、あの声の主については、言われてみれば色々と不可解な部分が有るしな。


「そうだな……ハル。トトリ。その声の主について、知っている限りのことを話してみてもらえるか?奴に関する情報から、ハルの能力についても、どうしてこんな事をしたのかについての理由も見えてくるかもしれない」

「えーと、私が分かっている範囲でよければ……」

「分かりました」

 なので、少しでもその正体を探るために、俺とトトリはあの日の出来事について、シーザさんたちに語って聞かせる。

 尤も、情報らしい情報など、殆ど含まれていない気もするが。


「「「……」」」

 そして、俺たちの話が終わったところで、全員黙りこくってしまう。

 だがまあ、改めてあの日の事を話した俺としては、少し分かった事が有った。


「まず確かなのは、トトリたちと違って、ハルについては明確に狙ってこの世界に飛ばされたと言う事だな」

「それはまあ、間違いないと思います。あのアタッシュケースにも名指しされていたわけですし」

 それは、俺個人については、あの声の主が狙ってこの世界に送り込んだと言う事実だ。

 これについては、別々の場所に置かれていたアタッシュケースに、わざわざ俺の名前が記されていた事から、まず間違いないだろう。


「でもハル様に何をさせたいのかについてはまるで分からないね」

「ですが、ハル様に目的が伝えられていない以上、ハル様は協力の姿勢も、妨害の姿勢も取れませんよね」

「となると、ただハル様がこの世界に居るだけで、その誰かは目的を達成出来る……とか?」

「厄介なのは、ハルたちの話を聞く限りだと、愉快犯的な性質も持っていそうな感じが有るところだね。最悪、自分が楽しいから送り込んだだけとかありそうだ」

「う……実際に声を聞いたことが有る身としては否定できないかも……」

 で、後の問題はどうして俺が飛ばされたのかの理由と、トトリたちクラスメイトも一緒に飛ばされたのかだが……。


「はっきり言って、手詰まりだな。資料が無さ過ぎる」

「確かにそうだな。これ以上資料が無い状態で話し合っても、根拠が無い上に碌でもない意見が出そうだ」

「だね」

「そうかも」

 はっきり言って理由は不明である。

 うーん。この世界の狙った場所に飛ばせるだけの技術力が向こうに有る以上、俺だけを狙って飛ばす事程度は何の問題も無く出来そうではあるんだがな。

 いずれにしても、この場でこの件についてこれ以上話し合うには、資料の問題もあるし、止めておいた方が良いだろう。


「はぁ……どうにかして、何処かからか情報を集めないとなぁ……」

 そして、何処かに情報が無いかと俺が天を仰ぎながら呟いた時だった。


『話は聞かせて貰ったのじゃ!』

「「「!?」」」

 待機室に備え付けられているパソコンから、トゥリエ教授の声が聞こえてきたのは。

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