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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第12話「事情聴取-2」

「ここは……いつっ!」

 目を覚ますと額に軽く痛みが走り、俺は直ぐに何が起こったのかを思い出す。

 うん、突然ドアが開いて撥ね飛ばされ、頭から壁に突っ込んだんだよな。

 で、気絶したと。


「羽井君!?」

「ハル君大丈夫?」

「あーはい、大丈夫です」

 どこか聞き覚えのある声と、ガーベジさんの声を耳に捉えながら、俺は上体を起こす。

 どうやら診療所らしく、診察台のような場所に俺は寝かされていたらしい。

 そして、周囲に目をやると、声がした事から分かってはいたがガーベジさんの他、気絶する前に俺と話していたライさん、何処となく偉そうにしている赤髪の少女、何処か見覚えのある顔つきで制服を着ている白髪の少女、最後に水色の毛玉と、俺含めて計六人がその場に居た。


「ふむ、起きたようじゃのう。調子はどうじゃ?」

 水色の毛玉が喋る。


「ああ、はい。ちょっと額が痛みますけど、大丈夫で……喋った!?」

「喋ったとは失礼な奴じゃのう。まあええ、大丈夫ならとっととそこの椅子にでも座ってくれるかの」

 俺がそのことに驚きを示すと、水色の毛玉は部屋の中で唯一空いている椅子を毛玉の中から出てきた皺だらけの手で指さし、俺に座るように促す。

 俺としても反対する理由は何処にもないので、素直に座っておく。

 場の状況から察するに、恐らくはこの毛玉こそがダスパさんの言うドクターと言う人物なのだろうし。


「さて、まずは自己紹介と行こうかの。儂の名はナントウ=コンプレークス。ここ『ナントー診療所』の院長であり、今回お主らの事情聴取役を務めさせてもらう者じゃ。まあ、気軽にドクターと呼んでくれれば問題は無いぞい」

 水色の毛玉改め、ドクターがそう言う。

 やっぱりそうだったか。


「私はガーベジ・クリン。彼を保護した第三小隊の人間よ。夫はレッド君と一緒にダイオークス外周十六塔マラソンに出て貰っているから、代理で私が来たわ」

 次に俺の隣に座っていたガーベジさんが、ライさんたちの方に向けて自己紹介をする。

 ダスパさんたちがマラソンをしているのは……たぶん、さっき揉めた罰なんだろうなぁ……。

 多少申し訳ない気持ちになる。


「えと、羽井ハルです。先程は心配をおかけしました」

 まあ、俺にはどうしようもない事なので、俺は素直に最低限の情報だけを明かすような自己紹介をする。


「第一小隊所属のライ・スクイールでやんす。まあ、あっしは既にこの場に居る全員に知られているでやんすけどね」

 ライさんはそう言うと隣の偉そうにしている赤髪の少女に番を回す。

 そう言えば、そもそもどうしてライさんたちはこの場に居るんだ?

 まあ、このまま話が進めば直ぐに分かるんだろうけど。


「26番塔外勤第一小隊隊長のオルガ・コンダクトだ。さっきは気づかずに吹き飛ばして悪かったな」

 赤髪の少女は不遜な態度は崩さないまま、気絶する前に聞いた覚えのある声で一応の謝辞を俺に向けて寄越してくる。


「ただこれに懲りたなら、次からはああいう場に留まったりはしないでくれ。また吹き飛ばして、妙な声を聴くのは不快だしな」

「そうですねー。気を付けておきますー」

 第一小隊の隊長ってことは相当に偉い人なんだろうけど……まあ、ここで揉めてもしょうがないし、流しておく。

 それにしても、このオルガと言う少女。

 見た限りでは筋肉が本当についているのか怪しいぐらいの細腕なのに、いったいどうやったらあんな速さでドアを開けられるんだ?

 訳が分からん。


「えと、私は……」

 まあ、そんな事はさて置いてだ。

 自己紹介は最後の一人、何処か見覚えのある少女に移行する。

 そして、俺は少女の行った自己紹介に驚かされることとなる。

 と言うのも……


「私は雪飛(ユキトビ)トトリと言います。えと、羽井君……だよね?私、同じクラスの人間なんだけど、覚えてるよね?」

「雪飛さん!?え!?でも……」

 目の前に居た白髪で赤紫色の瞳を持った少女が名乗った名前は、俺が元居た世界のクラスメイトの一人の名前だったからだ。

 だが俄かには信じられなかった。

 俺の記憶がおかしくないのなら、俺のクラスメイトは皆黒髪で、瞳の色にしても黒か茶色のどちらかであり、間違っても今俺の目の前に居る少女のように、雪のように真っ白な髪に何処か妖し気な赤紫色の瞳などと言う色では無かったからだ。

 ああいやでも、確かに元居た世界の雪飛さんと共通する部分もある。

 よく見たら、その顔つきや常に何処か怯えている感じがする雰囲気、それに着ている服もウチの高校の制服だ。

 だけどいったいどうして目の色や髪の色が……?


「えと……、髪も目も、こっちの世界に来てしばらくしたらこんな色になっちゃったの。それに羽井君も私が覚えている羽井君とは髪と眼の色が違うよ」

「え!?」

 そんな風に混乱していたら、雪飛さんから更なる爆弾が俺に向かって投下された。

 俺の髪と目の色が変わっている?


「髪はなんて言えばいいんだろ……前よりももっと黒くなって、光沢が無くなった感じで、目の方は私と一緒で赤紫色になってる」

「なっ!?」

 俺が混乱している事を察してくれたのか、雪飛さんが俺の事を諭すようにそう言う。

 その言葉に俺は慌てて部屋の中に鏡が無いか探し、鏡を見つけた俺は大きく口を開け、声を出さずに驚き、更に混乱した。

 俺の瞳が雪飛さんの言うとおり、妖し気な赤紫色の光を発していた為に。


「どうしてこんな変化が……」

「ふむ。恐らくは瘴気の影響じゃろうなぁ。儂の知る限りでは、瘴気が現れる三百年前には儂のような(水色の)髪の毛は無かったと言うしの」

「そんな事が……」

「有り得るんじゃろう。現にお主ら二人の髪と眼の色は変わっておるわけだしの」

「……」

 そんな俺の心に割り込むようにドクターがそう言い、俺の心はどうにか平静を取り戻す。


「ま、再会の喜びを祝するのは程々にして、そろそろ本題に移らせてもらっていいかの?なにせ二人分の事情聴取をせねばならないわけじゃしな」

 そしてドクターは何処からか数枚の紙を挟んだクリップ付きのボードを取り出すと、恐らくは髭に当たるであろう部分の毛を少し釣り上げた。

 その言葉に俺はどうしてライさんたちが此処に居るのかを理解する。

 雪飛さんも俺と同じようにダイオークスの人たちに保護されて此処に居るのだと。


「では、始めるかの」

 そうしてドクターの質問が始まった。

ドクターだけ名前と苗字の間が“=”ですが、誤字ではありません。


後、オルガは最初からハーレム対象外だと言っておきます。

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