第116話「悪魔級説明会-5」
『ははははは、とりあえずこの場はこれでお開きなのじゃ』
その後。
講義室は喧騒に包まれ、一部の人間がトゥリエ教授に詰め寄ろうとするも、先の言葉と共にトゥリエ教授は混迷を極めるこの場からから容易く脱出を果たしてしまった。
その為に居る誰一人としてトゥリエ教授の真意を問いただす事は出来ず、様々な事柄がうやむやとなり、そのままフリーに関する説明会も終了する事となってしまった。
「で、これがトゥリエ・ブレイカン教授の見解をまとめた文章か」
「そのようです。先程ハル様宛てに届いていました」
で、その日の夜。夕食が終わった頃。
トゥリエ教授の宣言通り、どうして巨人級が関わっていると判断したのかについての文章が、俺宛てにメールで届いていた。
この早さからして、もしかしなくても、トゥリエ教授は俺の話を聞く前からフリーには巨人級が関わっていると考えていたのかもな。
なお、俺宛てで届いたのは、26番塔外勤部隊第32小隊が全員同じ家に住んでいるからだろう。
「どれどれ……ふうん。やっぱり、その場の思い付きで言ったわけじゃないみたいだね」
「ワンス。私たちも見ても?」
「あいよ」
メールの内容が電子ペーパーに移され、俺たちは一先ず各自で一通り読んでみる。
「なるほど」
「一応、筋は通っている感じだねー」
でだ、トゥリエ教授から送られてきた文章の中身を纏めるならば、だいたいこんな感じだった。
・まず、蚤型のミアズマント自体が、自分よりはるかに大きい別のミアズマントの近くで目撃されることが多いミアズマントである
・また、蚤型ミアズマントのモデルになった蚤と言う生物自体、他の生物の体液を啜って生きる生物である
・加えて、ダイオークス製塩所が保有していると思しき調査能力と、当時敷かれていた監視の目を抜くためにはどういう軌道でフリーを飛ばす必要があるのかが書かれ、この軌道を実現するためには、フリー単独の能力ではどうやっても出力が足りないと言う事
・フリーが大気を放出する事によって螺旋状に回転し、弾道を安定させる能力を有していた事
・その他俺には良く分からん理由が色々(自爆能力や、それに伴う諸々についても書かれていたのだが、よく分からなかった)
で、これらの結果から、トゥリエ教授はあの時大疫海と言うダイオークスの東に広がる海には、巨人級に該当するミアズマントが存在していたと考えたらしい。
うん。確かに筋は通っている。通ってはいるんだが……。
どうにも信じがたいな。
ちなみにその巨人級が、実際にはどれほどの大きさなのかについての推測も、この文章には併記されていた。
が……。
「最小でも100mは確定。最大なら、1000mを超えるかもしれない……ですか」
「もはや、巨人と言うよりは、山とか川とか、そう言う地形みたいなサイズだね」
「立てばダイオークスよりも大きいかもしれないって……次元が違い過ぎない?」
「こんなサイズの生物……いえ、ミアズマントが果たして存在できるのでしょうか?」
「うーん。私たちの世界の海でなら、一応水深8000mを超えるような所もあったはずだけど」
「いずれにしても、最早大き過ぎて、私たち普通の人間には全体を一度に見る事も出来なさそうだな……」
「そもそも戦うにしても、どう戦えばいいのやら……」
竜級なんて目じゃない程に大きいと言う推測がされていた。
一応、巨人級は体高か体長が100m以上のミアズマントだって聞いているけど、まさか竜級との境界線の十倍以上とは……。
と言うか、本当にフリーがこの巨人級から射出されたのだとしたら、この巨人級の中には何十匹ものフリーが居るんじゃ……。
うん。マトモに正面からやり合っても、勝てる気がしない。
これは迂闊に手を出すべきじゃないな。放置だ。放置。
「まあ、現状では居るかどうかさえも分からないミアズマントであるし、今回の悪魔級の出現と似たような事例が報告されない限りは、放置と言う事でいいだろう」
「そうだね。襲ってくるかどうか以前に、居るかさえ怪しいミアズマントなんだ。今のアタシたちは静観する他ないし、気にしてもしょうがないよ」
で、過程は分からないが、結論は一緒だったらしく、シーザさんとワンスの二人も思考を切り替えるよう皆に勧める。
「考えてみたら、26番塔の場合、旧市街に居座っている竜級と言う、もっと差し迫った問題もありましたね。なにかするにしても、そちらが優先でしょう」
「竜級かぁ……大きさが10mから100m程度のミアズマントだっけ。そんなの倒せるの?」
「一応、外勤部隊には対竜級用の大型兵器もありますので、討伐をするなら、それらを使う事になると思います」
「あ、そんなのが有るんだ」
で、切り替わったは良いが、切り替わった先はあの竜級ミアズマントについてだった。
考えてみたら、アイツは俺が最初に居た部屋を食っているんだよなぁ……となると、アイツの腹を掻っ捌けば、もしかしなくても異世界転移に関わる資料が見つかる可能性もあるのか。
うーん。ちょっと悩む。
「まあ、どっちのミアズマントにしても、個人や一小隊レベルでどうこう出来るような存在ではないし、やり合うとなれば塔総出、ダイオークス総出の戦いになるか。で、そうなれば俺たちにも声もかかるし、今はまだそこまで気にしなくてもいいかもな」
「まあ、そうだよね」
悩むが……俺たちに現状で出来る事は、やっぱり自分たちの強化ぐらいか。
俺の言葉に皆も同意してくれたのか、静かに頷いてくれる。
そうして、この場での話はこれでお終いとなるのだった。
06/16誤字訂正




