第11話「事情聴取-1」
翌朝。
俺はダスパさんに連れられる形で、ダイオークスの中を移動していた。
で、道中でチラ見した地図や、今までの情報から分かった事としてはだ。
まず、ダイオークスの中には全部で41本の塔が建っており、内部構造としては俺が今居る26番塔に限って言うのならば、一つの層は端から端まで約1kmで、高さは10m程有る空間で、別の層に行くためのエレベーターが数基に、階段も併設された柱が複数存在している以外は、後からその層に必要な建物を自由に建てられるように設計されているようで、外に出る人たちのための待機場だけでなく、住宅街や農場と言った物も層ごとにまとめられて作られているようだった。
「それにしても妙な話だよなぁ」
「ダスパさんの側から見てもやっぱり妙なんですか」
そして現在。
俺は今回の事を妙に思っているダスパさんと会話をしながら、十層ごとに停まると言う一辺が20m以上は間違いなく有る大エレベーターに乗って、格納庫が有る第1層から第51層に向かっていた。
ちなみにこの大エレベーターの他に一層ごとに停まる小エレベーター(と言っても大きさは変わらないそうだが)がダイオークスには有って、どちらも俺の知っているエレベーターと違って呼んだら来ると言う物ではなく、定時で運行しているらしい。
これは二種類のエレベーターが庶民……と言うかダイオークス中の人たちの日常的な移動手段として使われているからなんだろうなぁ。
実際、何百mも徒歩で上がる事なんて考えたくも無いし。
「そりゃあそうだろ。事情聴取をしたいのなら、第1層に有る会議室の何処かを使えばいいだけの話だ。それを今朝になって突然『事情聴取は第51層のナントー診療所で行います』だからな。不審に思わない方がおかしいだろ」
「まあ、そうですよね」
「と、着いたか」
エレベーターが第51層に付き、俺とダスパさんは揃ってエレベーターの外に出る。
うーん、住居のような物がたくさん並んでいる事から考えるに、第51層の基本は住宅街みたいだな。
診療所や飲食店みたいなものも見えるけど。
「まあ、ナントー診療所ってのは、お前の事を教えてくれたドクターがやっている診療所だからな。そう考えればまだおかしくない方なのかもしれねえけど」
「そう言えば、そのドクターって言うのはどんな人なんですか?ダスパさんの話から察するに俺が異世界から来る事を察していたみたいですけど」
「簡単に言っちまえば、納豆好きで色んなところにコネを持っている腕と人のいい医者の爺さんだな。ただ……」
「ただ?」
第51層の住宅街を歩きながら、ダスパさんは俺にドクターと言う人物の事を話してくれる。
ただ、その顔は微妙に胡散臭い物を見るような感じになっている。
「俺の爺さんが赤ん坊だった頃から今と変わらない姿の爺さんだったらしいんだよなぁ」
「え?」
「噂じゃあ、ダイオークスが出来た頃から生きていて、各塔の長である塔長たちに対してもかなりの影響力を持っているって言う話も有るし」
「え?え?」
「他の都市の有力者たちとの間にも太いパイプを持っているって言う話がチラホラと聞こえてきたりもするんだよなぁ」
「…………」
「ただ、何処までが本当なのかは分からない。と」
「本当に人間なのか怪しい感じがしますね」
「実際、妖怪か化け物の一種なんじゃないかって噂もあるな」
「……」
何と言うか、俺が知りたい事を色々と教えてくれそうな気がするのと同時に、色々と不安になるような話だった。
いやだって、ダスパさんの爺さんが赤ん坊だった頃から爺さんだったって……どんなに若く見積もっても百歳は確実に超えてるだろそれ。
「まあ、耄碌してたり、怒りぽかったりはしないから、そこは安心していい。俺も時々世話になってるしな」
「はあ……」
と、そんな会話をしながら俺たちはしばらくの間、住宅街を歩き続ける。
「お、アレがナントー診療所だ」
「!?」
そうして、しばらく経った頃。
第51層の隅の方にまでやってきたところで、ダスパさんが一軒の建物を指差し、俺はその建物を見て……思わず目を見開いた。
「え?アレがそうなんですか?」
「そうアレだアレ」
ダスパさんが指さした先に有ったのは、先程の話からはまるで想像できない……とまではいかなくとも、百年以上生きている人の家とは思えない程にこじんまりとした二階建ての普通の家であり、玄関のドアの脇にはナース帽を被ったデフォルメ済みの水色の海月が納豆を食べていると言う奇妙な絵が描かれた看板が立てかけられていた。
とりあえず本気で絵の訳が分からないな。
「さ、はいんぞ。通達してきた奴のせいで、時間ぎりぎりだしな」
「あ、はい」
いずれにしても目的地であることに変わりは無いので、俺はダスパさんの後に続く形でナントー診療所の玄関のドアを開け、中に入っていく。
そして、受付になっている場所に入ったところで……
「どうしてワン公がこんなところに居やがる」
「ああん?」
突然、赤い髪を後頭部で束ねた俺より少し年上な感じがする男がダスパさんに向かってそう言った。
俺はその言葉に一瞬思考が止まる。
「そう言う悪ガキはどうしてこんな所に居やがるんだ?お前らかかりつけの御医者様は別だろうが」
「答える義理はねえな」
が、そんな俺とは対照的にダスパさんが赤髪の男に近寄っていき、一気に場に険悪な空気が流れる。
って、ちょっと待て!?どうしていきなりこんな空気になったんだ!?ちょっ、誰か説明をしてくれ!訳が分からない!
「相変わらず礼儀知らずの悪ガキだなぁ。お前は」
「そう言うお前は躾がなってねぇワン公だろうが」
俺は今すぐにでも殴り合いを始めそうな二人から視線を外すと、助けを求めるべく周囲に視線を向ける。
すると、奥に続くであろうドアの前で、明らかに俺の方に向けて手招きをしている茶髪で小柄な男性の姿が目に入ったので、俺はその男性の方に静かに近寄る。
「あっしはライ・スクイール。あっちで言い争いを始めているのがレッド・アニュウムと言うでやんすが、アンタの名前は?」
「俺は羽井……じゃなかった。ハル・ハノイって言います。あの……あの二人はどうしてあんなに仲が?」
男性……ライさんに俺は顔を近づけて、ヒソヒソ話をするような感じでダスパさんとレッドとか言う男の事を尋ねる。
「ガキの頃のレッドの悪戯をダスパの旦那がとっちめたり、外勤になった当初に散々しごかれたり……とまあ、とにかく昔から色々と有って、犬猿の仲なんでやんすよ。あの二人は。まあ、喧嘩するほど仲が良いの部類でやんすから、巻き込まれないようにだけ気を付けておけば大丈夫でやんすよ」
「なるほど……」
ライさんの話から察するに、どうやら日常茶飯事の事らしい。
何て迷惑な……。
「あっしからもハルに聞きたいことが有るでやんすよ」
「何ですか?」
「ハルが着ているのは制服って言う奴でやんすよね」
と、どうやらライさんも俺に聞きたいことが有るらしく、ドアの横に置かれている待合椅子に座ると、俺に問いかけをしてくる。
俺は答えても問題の無い問いかけだと判断し、俺はライさんにその通りだと返そうとする。
が、そうして俺が口を開く前に……
「アンタたちやかましいんだよ!!」
「そがっ!?」
女性の声と共に俺の横にあったドアが凄まじい勢いで開き、そのドアにぶつかり、弾き飛ばされ、頭から激しく壁に衝突した俺は意識を失った。
いつもの三馬鹿登場でございます