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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第2章【苛烈なる右】

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第104話「M2-10」

『フウウゥゥリイイィィアアァァ!』

「総員回避行動!」

 フリーは胴体の最後部から大気をジェット噴射すると、俺の方に向かって突進を仕掛けてくる。

 ジェット噴射を選んだのは、恐らく右後ろ脚が使えない中で真っ直ぐ跳ぶと同時に、攻撃として成立させるための加速手段がそれしかなかったためだろう。

 そして、それを見たシーザさんは全員にフリーの進路上から逃げるように指示を出す。


「来るか……!」

 シーザさんの指示は俺以外にとっては正しい。

 今のフリーには俺以外は目に入っていないからだ。

 だがそれは、逆に言ってしまえば、俺が迂闊に逃げれば、フリーは俺を追いかけるために進路を変え、結果として周囲への被害が発生する可能性がある事を示している。


「来い!受け止めてやる!」

 故に俺は両足でしっかり大地を踏みしめると、【堅牢なる左】と【苛烈なる右】を起動。

 発生した両腕を自分の前に構え、フリーの突進を受け止めるための体勢を整える。


「ハル君!私も手伝うよ!」

「トトリ!?悪い、助かる!」

 そうして俺が両腕を構えたところで、トトリが俺の背後に立ち、乗っている瘴巨人で俺の身体を支える。

 ありがたい。俺だけだと、重量差でフリーに押し切られる可能性もあったからな。


「来るぞ!」

「うん!」

『フリイイィィ!!』

 俺の両腕と、フリーの身体がぶつかり合う。


「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」

「くうっ……」

『イリリリリイイィィ!!』

 衝突の瞬間、俺の全身を衝撃波が突き抜け、一瞬意識が飛びそうになった。

 だが、ここで意識が飛べば、俺だけでなくトトリも命の危機に晒されると思い、俺は意識を持ち直すと、フリーに押し込まれないよう体を支えるのはトトリに任せ、両腕に込める力を強くする。


『イリャリャアアァァ!!』

「ハル君頑張って!」

「言われなくても!」

 両足は地面を深く削り、腕には骨が折れそうなほどの圧力がかかっている。

 それでも、俺はフリーの力を真正面から受け止め続ける。


『イ……リィ……』

 やがて、どれほどの時間が経ったのかは分からないが、フリーが加速の為に放出する大気は遂に尽きたらしい。

 フリーがこちらに押し込む力が弱まると同時に、僅かに浮いていた身体は軽い地響きを伴って地面に落ちる。


「ハル!」

「分かってる!」

『フリ!?』

 チャンスだ。

 俺だけではなく、この場に居る全員がそう判断した。

 故に俺はワンスの呼びかけと同時に【堅牢なる左】でもって、フリーの頭を掴み、真っ直ぐ地面に叩きつける。

 フリーの口の端から漏れた酸が地面を焼いているが、そんな事は些末な事である。


「全員!敵の左後ろ脚に攻撃を集中するんだ!」

『フ、リ、ガッ、ブッ!?』

 ソルナの指示が飛ぶ。

 すると、フリーの左後ろ脚と胴体の最後部に向けて、周囲から様々な物……ワンスも使っている電撃銛に、恐らくは聖陽教会の連中に備えて用意されていたであろう電磁ネット、投擲用であろうメイスやハンマー、果てはそこら辺に転がっていたのではないかと思しき岩などが投げつけられる。

 勿論、その内の大半はフリーの強固な甲殻の前に、何の効果も発揮せず防がれる。

 だが、一部の投擲物は装甲の薄い関節部に突き刺さったり、吸排気機構の為に開いていたのかもしれない凹みを破壊したりなどし、電磁ネットのようにそもそも触れるだけで良い物も、その効果を発揮して、フリーの動きを抑えることに成功する。


「今だ!切るぞ!」

「「おうっ!」」

 そうして生じた隙を見逃すまいと、シーザさんと二機の瘴巨人がそれぞれの得物を持ってフリーに突進する。


「おらぁ!」

「マルスの仇だ!」

『ブリイイィィアアアァァ!?』

 二機の瘴巨人は、手に持った槍をフリーの脚の関節部を狙って突き出し刺すと、刺さった槍が折れるのもためらわずに槍を捻じり、フリーの脚に与える破壊の規模を大きくする。


「すぅ……」

 そして十分に甲殻と甲殻の隙間が広がり、その奥……人間で言うなら、神経や骨に相当するような部分まで見えた所で、シーザさんが飛び……


「はっ!」

『フ……』

 高熱を纏った細剣を一閃。


『ウウゥゥリイイィィヤアアァァ!?』

 フリーの左後ろ脚を皮一枚で繋がっていると表現できるほどの深さで切断する事に成功。

 その痛みからか、フリーは地面に頭を押し付けられた状態であるにも関わらず、今までで一番大きな叫び声を上げる。


「よし!これで奴最大の長所は潰した!」

「後は首を切り離してしまえば、動けなくなるはずだよ!」

「「「おおおぉぉぉ!」」」

 シーザさんとワンスの言葉に鬨の声が上がり、それと同時に残った脚や吸排気機構、首に向けた攻撃が始まる。

 これでフリーは仕留めた。

 誰もがそう思ったことだろう。


『フウゥゥ……』

「っつ!?」

 そんな時だった。

 フリーが異常な勢いで空気を吸い込む中で、不意に俺とフリーの目の一つが合ったのは。

 ミアズマントが言葉を持っていると聞いたことは無いし、例え持っていても、人間である俺に言葉の意味が伝わるとは思っていなかった。

 だが、フリーの目は雄弁に語っていた。


『かくなる上は、一人でも多くの人間を道連れにしてくれる』


 と。


『ウウウゥゥゥ……』

「こいつ、まさか!?」

 俺はその言葉の意味を直ぐに悟る。

 そう、フリーは……


「自爆する気か!?」

「「「!?」」」

 自爆と言う最終手段を取る気なのだと。

06/19誤字訂正

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