第100話「M2-6」
さて、製塩所の視察も終わったと言う事で、俺たちはやってきたのと同じキャリアーに乗ると、まずは防護服を身に着ける。
『では、出発します』
「お願いします」
そして、全員がしっかりと防護服を身に着けた所で、俺たちを乗せたキャリアーは護衛の人たちのキャリアーに挟まれた状態でゆっくりと走り出す。
ただし、行きと違って俺たちのキャリアーの運転席には誰も座っておらず、全員が客室の方で俺の周囲に集まっており、俺たちの乗るキャリアーは前後のキャリアーに誘導される形で走っている。
『さて、目的に着くまでの間に、改めて今回の作戦についての説明を僕の口からさせていただきます』
「頼むよ。ソルナ」
わざわざそんな面倒な事をしている理由は言うまでもない。
この先に待ち受けているものへの対応策の一環だ。
『まず、襲撃予定地を監視する部隊からの報告で、既に例の連中が予定地に到着、待ち伏せを行っている事は確認されています』
「つまり、襲撃が行われることは確定になったわけか」
『そうです』
32番塔塔長の息子にして、ワンスの幼馴染でもあると言うソルナ・ラジェノの爽やかな声が無線機から聞こえてくる。
ちなみに、キャリアーに乗る前に顔を合わせたのだが、ソルナは黒髪青目の見た目も性格も爽やかそうなイケメンだった。
『そして、中ならばともかく、外では武器を持ち、何処かに潜んでいる程度では不審者として捕える事も出来ません』
「だから、ハル君を囮にして、向こうに手を出させる……んだよね?」
『そうです。厄介な事に、どのキャリアーに誰が乗っているのかを調べる方法程度は奴らでも持っているようで、姿かたちがそっくりなだけの偽物には反応しませんでした。なので、襲撃が行われる際には、正確に貴方たち……正確にはハルの乗っているキャリアーを狙ってくるでしょう』
ソルナの声には苦々しい物が含まれている。
しかし、表情から察するにシーザさん以外は全員知らなかったようだが、偽物なんてものも出していたんだな。
奴らに狙われている俺にとってはちょっと嬉しい話だ。
ま、この辺りについては、今はさて置いてだ。
「それで、俺たちはどうすればいい?」
『僕たちは可能な限り連中を迅速かつ確実に制圧するつもりではあります。そして、貴方たちの乗っているキャリアーに対する攻撃も一切許すつもりはありません。ですが、作戦の性質上、初撃に関しては、どうしても確実に撃ち落とせる保証はありません』
その点については仕方がないだろう。
今回の作戦は、一瞬で全てが決まるような類の物で、相手が動いてからこちら側が動き出す以上は、どうしてもその一瞬について相手側にアドバンテージが生じてしまうのだから。
『なので、ハルには【堅牢なる左】と【苛烈なる右】を事前に展開しておいてもらって、万が一の事態に備えておいてほしいのです』
「えーと、一応、このキャリアーの外壁は相手のバズーカ砲にも耐えられるって言う話を、僕は聞いているんだけど……」
『確かに計算上はそうなっています。ですが、相手の最大火力がそのバズーカ砲だと決まったわけではありませんから』
「なるほどな。万全を期す。ってわけか」
『そうです。それと、そのキャリアーは壊して構いませんので、万が一の場合は躊躇いなくハルの力で外壁を破り、ダイオークスの方へ逃げてしまってください。一応、そちらの方に替えのキャリアーと熊級以上のミアズマント用に備えておいた物ではありますが、瘴巨人も待機させてあります。それに、ワンスにシーザ殿とハルも、広い場所での戦いの方が得意と聞いていますしね』
「分かった。万が一の場合はそうさせてもらう」
『ではお願いします』
そう言うわけで、どうやら俺がするべき事は大きく分けて二つらしい。
一つは【堅牢なる左】と【苛烈なる右】を事前に展開しておいて、相手の初撃を防ぐ事。
もう一つは、キャリアーの壁を内側から壊して、外に出るための道を作り出す事。
まあ、どっちの俺がするべき事も、場合によってはやる必要が無かったか、そもそもやる必要すら生じないかのどちらかなわけだが。
『と、まだ少し時間が有りますね。少しいいですか?』
「何だ?」
と、任務についての説明が終わったにも関わらず、ソルナからの通信はまだあるようだった。
『今回の件。本来ならば、貴方たちを危険に晒すことなく、片付ける案件でした。が、僕たちの力が足りず、貴方たちを危険に晒す事になってしまいました。申し訳ありません』
「ソルナ。それは別にアンタが悪いわけじゃ……」
「確かに、ソルナが悪いとは思えないが……」
『それでも、32番塔塔長の息子として、今回の件の責任者である七塔の塔長たちに代わって謝罪を』
「「「…………」」」
謝罪……か。
俺もワンスもソルナに責任が無い事は分かってはいたが、場の空気はソルナの謝罪を受け入れるほかない空気だったため、俺たちはソルナの謝罪を受け入れる。
しかし、七塔の塔長って……17番塔、26番塔、31番塔、32番塔ぐらいまでは、今回の件に関わっている想像がつくが、後の三塔は一体どこから出てきたし……まあ、ソルナに聞いても喋らないだろうから、訊かないけど。
『ありがとうございます。では、そろそろ目標地点に差し掛かりますので、通信を切らせていただきます』
「分かった」
『ご武運を』
「お互いにな」
そして、お互いの無事を祈る言葉と共にソルナとの通信は切れ、それと同時に俺は事前の打ち合わせ通りに【堅牢なる左】と【苛烈なる右】を起動。
室内に居る俺たち五人を守るように展開する。
「全員、気を引き締めておけよ」
俺の言葉に全員が肯く。
そうして、俺たちを乗せたキャリアーは左右に大きな建物が立ち並ぶ区画へと入っていった。
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