疑問
アルティミシアの元に居候させてもらうようになって、かれこれ一週間が過ぎていた。
その間、シュウが任されている仕事といえば、風呂の水汲みばかり。さすがにこれではいけないと思い、他にすべき事はないかと訊ねてみたのだが、アルティミシアからは「体力がつくまではこれだけでいい」と言われてしまった。
今日も水汲みを終え、夕食を食べ終えるとお風呂に入るように言われる。
礼を言ってから浴室に行き、薬草やハーブで作られた液体で体を洗ってから湯に身を浸す。
この体を洗う為の液体もアルティミシアが独自に作り上げた物で、彼女の収入源の一つになっていた。何でも薬草で清潔さを保ち、ハーブの香りで快眠できると貴族に人気があるそうだ。
「そういえばお湯はどうやって沸かしているのだろう」
この家にはガスも電気も通ってはいない。いや、この世界自体にそんな物は普及していない。なら、よくあるのは薪に火を着けているのかと、薪をくべるような場所がないかを探したのだが、台所にも風呂場見つからなかった。
知りたい。
たが知らなくていい。
二つの相反する思いがシュウの心に波風を立てる。
知ってしまったらいけない。
知ろうとしてはいけない。
幾つか生まれた疑問は、心の奥底に沈めるのだった。
◇◇
そうして穏やかな日々が過ぎていく中、シュウとアルティミシアは16歳となっていた。
アルティミシアは出会った当初よりも美しく成長し、体は女性らしい柔らかさを纏い、言葉使いにも女性らしさが垣間見える。そんな彼女に、シュウが恋心を抱かないわけがない。気がつけばシュウはアルティミシアを自分を救ってくれた恩人としてではなく、一人の女性として好きになっていた。
そして、アルティミシアが成長したようにシュウも成長していた。華奢で色白だった肌も、しっかりとした体格になりつつあり、日に焼けた肌が健康的だ。当時は水を汲むだけで筋肉痛になっていたが、今ではそんな事もない。
そんなシュウに対してアルティミシアも、以前とは違った瞳で彼を見つめる。彼女も彼を愛しいと感じているのだ。
二人と一匹の銀狼は、優しく温かな時間の流れに身を任せる。
このまま、彼の記憶が戻らなければいいのに――。
このまま、元の世界の事も忘れて、彼女と過ごしていければいいのに――。
そう願いながら。