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4th_days 新しいパーティ

翌朝、クロトは丸太に座り再び焚火に火を点けようとしていた。

火の点きが悪いのか、何度も火を点けようとしている。


がさっとテントが開き、中から不機嫌そうなネアが全身の力を抜き、腕を伸ばしながら丸太に近づいた。


「よぉ……眠れたか?」

「……少しは、アレ・・がもう少し大人しければ快適だったわ」


クロトの隣りに腰を下したネアは肩をぐるぐると回し、凝りを解していた。

狭いテントの中で3人が横になって寝た、と言う事もあるが、3人の間に入る様にしていたリザが大きな要因だろう。


夜中に何度の人の上を往復し、唯でさえ狭いテントを殊更狭くさせられた。

その上、重い。

幾度となく目が醒め、その度に元の位置に戻すと言う作業を行っていた為、非常に眠たいのだ。

口出してはいないがおそらくクロトも同じような事をして目が醒めていたのだろう。

当の本人であるリザは未だに広くなったテントの中で呑気に寝ている。


「……おっ、点いた点いた」

「火山の麓なのに火を点けるなんてね……」

「まぁ、仕方がないだろ。このエリアは寒くて、あっちのエリアは熱いんだからよ」


と言って、薄らと生い茂った木々の間からそびえ立つ黒煙放つ山を指す。

その木々の間には緑の線引きがされている。

この線は元々あった境界線でペレクム火山とマージュ山岳地帯端との境界線だ。

線を越えれば業火に包まれるが、線を越えないと薄らと寒気がする程だ。


「ネアは、これからどうするんだ?」

「……一旦、戻ろうかな。クエストの報告とかあるし」

「もしかして鉱石採掘か?」

「ええ、そうよ」


突然、クロトが声を上げ言い出した。

ネアはミストが作ったアイテムの報告も兼て、一旦帰ろうとしていると言った。

答えを聞いたクロトは顎に手を当てながら何かを考え出した。

しばらくして、クロトがぽつりと漏らした。


「一つ、頼んでもいいか?」


神妙な面持ちで話を持ち掛ける。


「無言は肯定って取るぜ?」

「聞くだけ聞くわ」


詰め寄る勢いのクロトにネアは火に手を翳しながら答える。


「そーだなぁ……この火山専用クエストでな。ドラゴンを討伐するってのがあるんだ。これがまた強敵でな。無駄に堅い真紅の鱗に、紅玉の瞳。巨大な口からは大量の歯が見え隠れして火球を吐きだす。ま、これがまた討伐できなくてよ、俺もリザも命辛々逃げ出してきた所で、昨日の現場に立ち会った訳なんだよ。まぁ……その討伐を手伝ってほしい訳だ」


これまでの経緯を含め、クロトが話しを進める。

討伐に付き合う。

結果的にネアのクエストもクリアされる事になる。

もしかしたら今後の課題が1つ減るかもしれない。

しかし、リスクも大きい。即興で組んだパーティ程ほんの僅かな見解の相違から、いとも容易く崩れやすい物はない。

それをよく理解しているからこその沈黙だった。

……………………だからこそ・・・・・


「判ったわ。今すぐ準備を整えてくる」

「まじでか!?いやー!ダメもとでも言ってみるもんだな!!」

「じゃあ、此処で待っててね」

「おう!」






  ∵  ∴  ∵






ネアはずっと懸念していた。

もし、前の様な事が起きてしまったら、と。

何時でもログアウトできれば、問題ないのかもしれない。

それは逃げかも知れない。しかし、ネアはそれしか自分を護る術を知らない。


あの時もそうだった。

何も知らずに、ただのうのうと生きて楽しんでいた。

それが一変するまでは。


数あるMMORPGの一つ、最たる人気を誇っていたそれは、昨年2月にサービスを止め、VRシステムの開発を公表した。


尤もサービス停止直後までネアはプレイをしていた訳ではない。

何時も通りにフレンドと他愛無い談笑を交えようと向かっていた。

それは一通のメールで始まり、終わった。


相手方の都合で呼び出されたエリアは廃坑地区。

幾年も放置され錆びれた炭坑が広大な迷路を築いているマップを頼りにしていても、迷子になりかねない。

そんな所に誘われたら、今考えると不審に思うだろう。

だが、ネアは仲間達と会えるだけで嬉しいものだから、警戒など一切しなかった。

それこそ、罠と言う可能性など思いもしなかった。

仲間だと信じていたから。


結果的にネアはPKプレイヤーキルをした。

生き残る為に、故意ではなく。

しかし、事実は残った。


そして、残った1人ーーネアを誘ってくれた友人が、ネアを売った。

『アイツは人殺しだ』と。

そこからの転落は速かった。

そのチームが有名だったと言う事も災いし、あらゆる掲示板が炎上し、一瞬で居場所が消えた。


ネアも最初こそは否定をし続けた。

そんな小さな抵抗は虚しく、大きな濁流に呑まれる事を怖れたネアは静かに逃げ出した。




走りながら、そんな昔の事を思い出すと視界が滲み出した。

服の袖を目元に押し当て、込み上げてきた涙を染み込ませると晴れた視界の先でアトランタを捉えた。






  ∴  ∵  ∴






ネアが走り去る姿を見送ったクロトは焚き火を見ながら、ネアが去り際に僅かに放った憂いにも似た哀愁の気配を感じ取っていた。

立ち上がったネアの表情は日光と彼女の髪で窺えなかったが、声が少し震えていた。


「……悪い話じゃないとは思うんだよなぁ」


ソロプレイヤーの彼女に情報を与え、尚且つその討伐も手伝おうとしている。

『死』と近くなるのは皆同じ、少なくともソロの時よりは『死』を身近に感じないだろう。


「わっかんねぇな……あ」


彼女は昨日、前まで3人で行動していたと言っていた。つまり、理由が何であれパーティーを抜けてきたと言う事になる。

それが、原因のような気もした。

苛立ちから頭を掻こうと左手を上げて思い出した。


「フレンド登録してねぇから連絡つかねぇじゃん」


左手にあるタッチボードが降り注ぐ日光をキラリと反射する。

帰ってきたら頼んでみるか、と再び火に目を向ける。

と、テントの方から物音がした。

振り返ると眠たげに眼を擦っているリザが覚束ない足取りでクロトの隣りに座った。


「…………くぅ…」

「寝るな馬鹿」

「……無理。ってかネアは何処行ったの?」

「鉱石採掘のクエスト報告と討伐クエストの受注しにアトランタに戻った」


簡素に要点を押さえた返答が飛び出た事にクロト自身少し驚いていた。

先程まで深刻に考えていたというのに。


「そっかぁ……」


残念そうにそう呟いたリザは何を思ったのかクロトの肩に手を回し、身を寄せる。

その行為は甘えに似ていて、慰めにも見える。

それ以上互いに、言葉を交わす事はなくただそっと寄り添っていた。






  ∴  ∵  ∴






およそ1時間後、ネアは再びペレクム火山前のキャンプ地に居た。

アトランタに着いた後、真っ先にクエストカウンターで依頼の品を納品、更に新規の討伐クエストを受注。

その後マイルームにて荷物になる余った鉱石や素材を倉庫に投げ入れ、今、此処に着いた所だ。


「お待たせ」

「おっかえりーー!!」


そのままだったテントの中を覗こうと入り口の布を払った瞬間、中から感極まった様な熱烈な声とともに何かが勢い良く飛び出した。

テントの入り口の布を払いながらそう言ったネアからは布が視界を遮っていたため、飛び出した物体は確認できず、無防備なまま、ネアの鳩尾へのタックルを許してしまった。


「かはぁッ……!」


ドン!と鈍い重厚な音がした後、ネアが苦しそうに呻き声と息を吐き出す。

数メートル吹き飛んだ先で、飛び出した物体――リザが身を起こした。


「にししっ!油断大敵♪」

「手荒い歓迎ね……」


悪びれる様子など一切なく、ネアに馬乗りのまま、三白眼を細めて笑う。

下敷きにされたネアは仰向けのまま激しく咳き込み、涙目でリザを睨んだ。


「此奴に悪気はない分、尚更な」


リザの向こうに立ったクロトの声と共に伸ばされた拳が振り下され鈍い音が辺りに響いた。


「なんでこれからって時にこんなに疲れたのかしら……」

「大体、コレのせいだな」


魔導士の様な風貌にも拘わらず、先頭を突き進むリザは後ろ指を指されていることを知らない。

足を踏み入れたペレクム火山は依然として熱気を放ち続け、歩み行く者に容赦なく熱風の洗礼を浴びせる。

それは当然、ネア達にも及び歩く度に普段の倍近く体力が奪われていく。


「そう言えば、討伐対象のドラゴンって何処を住処にしてるか判るの?」

「ああ、結構奥深くだったな……おっと、奴さんがお出迎えだぜ」


横穴の奥から龍族の気配を察知したクロトはタッチボードを操作しながら、後衛であるリザと入れ替わると同時にクロトの両腕には、下腕から手の甲に掛けて籠手に覆われその先端に細く湾曲した爪――ツインクロウが装着されている。

遅れてネアもランケアを装備し、クロトの脇に立った。


「昨日みたいに麻痺んなよ?」

「はっ、今度来たら刺される前に刺し殺すわよ」


ペシペシと龍族特有の足音が近付きつつある中、クロトはネアに対して目を向ける。

余裕の表情のネアはそれを一蹴し、ランケアを構え、戦闘態勢に入った。

龍族の足音はもう目の前に迫っている。

龍族の特徴として、ヒレの様に水かきで3本の指が繋がっている足で立ち、全身には鱗がびっしりと生え揃う。腰ほどまで伸びた両腕の先、手は足と同じくヒレの様になり、その部分に持っている物で名称付けられている。

2本の捻れ曲がった角が頭部から突出し、長い口からは息遣いをする度に鋭角な牙が見え隠れする。


「行くぜ!」


横穴からネア達に気付いたのか龍族は遠吠えを上げ、低い唸り声を出しながら手に持った龍族の剣を振り上げ、飛びかった。クロトはそれを籠手を交差し受け止めた隙に腹部に蹴りを入れる。

宙に浮いていた事も幸いし、龍族は数メートル程吹っ飛び地面に身を打つ。


「どうよォッ!?」


クロトはネアの方を向いてピッと親指を突き立て様と振り返ったが視界にネアの姿がなく、突然、体制を崩し仰向けに倒れた。

その頭上を通り去る火球。


「気を抜かないで!」


足の方からネアの声がした。

ネアがクロトの足を払い、龍族が放った魔法から守ったのだ。

ネアはしゃがんだままの膝を曲げた体制から前進のバネを活かし、龍族に突撃する。

最初の龍族の他に10匹近くの龍族が其処にいた。


軽く舌打ちをしたクロトは起き上がりネアの加勢に入る。

石杖を持った龍族を突き刺したネアの後ろから剣を振り上げる龍族を鉤爪ではねる。

その脇を尖ったひし形の氷塊が通り龍族に当たる。リザの放った魔法だ。


暫くは剣劇とリザの詠唱と龍族の悲鳴しか響かない。






  ∵  ∴  ∵






乱れた呼吸を正しながら、ネアは龍族がドロップした戦利品を確認していた。


・ディルダルの肉

・サ・ディルダルの剣

・ラ・ディルダルの水晶杖


と言った換金アイテムがインベントリに入っている。

今回、視認できたのは剣持ちと杖持ちだけだったが、『ディルダルの肉』となると他にも種類が入るのかもしれない。

何にせよ、多少の小遣い稼ぎにはなった。

そう結論付けるとタッチボードから顔を上げた。


「急な戦闘だったけど、何とかなったな」

「ふぅ~ん!私に掛かればこんなもんよ!!」


そこで同じように戦利品を確認していたと思われるクロトと目が合った。

その隣で胸を張り身体を全面に押し出すリザの姿がある。その言葉の通りネアから見るに、2人とも相当『場馴れ』していた。

流れる様に互いのカバーに入るだけでなく、敵との距離感が絶妙で、リザの放った氷塊が当たる共に接近したクロトが切り裂きトドメを刺したりしていた。


「……これなら、そのドラゴンも倒せそうじゃない?」

「ああ。って、そう言えばまだパーティ組んでなかったな」


ササッとタッチボードを操作し、ネアをパーティに誘う招待状をクロトは送る。

ネアはよろしく。と微笑んでその招待状を受け取り、パーティに参加した。

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