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1st_days 初ミッション

AFOが囚われのデス・ゲームと化してから1週間が過ぎた。

この1週間でプレイヤーは大きく分けて、

《アトランタ》に残って外部干渉による解放を待つ者。

《アンノウン》と名付けられたバグと対抗し戦う者。

この2つに別れ、そして、戦う派にも2つに別れた。


ネアの様なソロプレイヤーと『ギルド』を組む人達。

ギルドでは、他のプレイヤーと1つのグループを作ってお互いのコミュニケーションやギルド特有の機能を得られる。

当然、無理矢理加入させようとする輩も湧いてくるのだ。


ネアとシーナは、1週間で徐々に固まりつつある現状の中で円形の中央広場の円周上に置かれた木のベンチに座り、バグからの通知をまっていた。


「はぁ…」

「どうしたの?シーナ」

「いや…前ゲーからのフレからギルドの勧誘が多くて、気疲れしちゃってさ」

「…別に、断らなくてもいいじゃない」


この1週間、ネアとシーナはほぼ毎日マージュ山岳地帯の1F(=フロア)に潜り2人でレべリングをしていた。

それこそ、お互いのクセを理解し瞬発的にカヴァーに入れるほどに。


「私は1人でもやっていけると思うし」


ネアが中央広場の中心にあるアトランタを支える巨木を見ながらぽつりと零した途端、両肩を捕まれ無理矢理にシーナの方を向かされた。

戸惑い視線を泳がせるネアをお構いなしに振り向かせた本人は怒ったような吊り上がった目つきだった。


「ダメ!それだけはダメ…それに、回復系統の魔法何にも覚えてないでしょ?」

「ま、まぁね。STR(=物理攻撃力)とAGL(=敏捷度)とLIFE(=最大ヒットポイント)ぐらいにしか振ってないし、って言うか、そもそもジョブシステムがないんだから、何かしらのステータス特化する場所を決めるべきだと思うのよね」


AFOには職業という概念はなく、レベルが上がる毎にSP(=ステータスポイント)が貰え、それを各ステータスに割り振る事で型に囚われない自由なゲームを作り出す、と雑誌の見出しか公式サイトに書いてあった事を思い出しつつ、ネアは、うんっと背伸びをする。

既に放されてはいるが掴まれた両肩が痛いのだ。


ネアと同じ事を思い出したのかシーナが小首を傾げながら述べた。


「それそうだけど……自由なゲームを作り出すって割には初期選択の武器カテゴリ以外使えないってのは変だよねー」


AFOでは、初期に選択したカテゴリの武器を変更する事は不可能であり、また使い続ける事により、そのカテゴリの『スキルランク』が徐々に上昇し、『スキルランク』が上がる事により、そのカテゴリ特有のPS(フォトンスキル)が扱えるようになる。

要するに戦闘を有利に進められると言う事だ。


「それは……多分だけど、日本人には優柔不断な人が多いからじゃない?」


と、ネアは少し笑いながらも在り来たりな答えを出す。


「他カテゴリに対する未練を捨てろって事?」

「そうとも考えられるわね。でも、救済法は用意されてるじゃない、4人分だけ」

「ああ、EXカテゴリだっけ」


EXカテゴリと呼ばれる4種類しかない武器カテゴリが存在し、そのカテゴリは開放をした人物だけの所有物になり、解放した人物は初期カテゴリとEXカテゴリを自由に変更できるようになる。

解放条件は当然不明である。


「でもなぁ――」

「それに、abyss frontierって、『深淵の最前線』って意味でしょ?」

「うん、そうらしいね」

「だったら、深淵に潜るためには迷いなんて切り捨てろって言う製作者側の意図かもしれないよ」


未だに渋るシーナの声を遮り、ネアが声を重ねる。

尤もらしい回答ではあるが、あながち間違いでもないのかもしれない。

本当の回答など、2人は知る由もないが。


「…そう言えば、配信用ミッションってどう言う感じのが出るんだろ?」

「さぁ?それもこれも、アイツが言ってくれるんじゃない?」


『――12:00ダ。さぁ…プレイヤー諸君…ゲームをしよウ。』


ネアが指差す先には大樹の上にあるモニター。

その中で紫色のクラゲのような化け物が居た。

クラゲが発する一言で2人は身を強張らせ、その場を立ち上がりモニターに近づいた。

周りから他のプレイヤーも集う。

他愛無い談笑はいつまでも続かない。そもそも、AFOの世界に居る事、事態が平和とはかけ離れているのだから。


「……アンノウン、来やがったな…!」

『アンノウン…?キキ、ナンだそレは…シラナイ。シリタイ』


モニターに《アンノウン》が浮かび上がった瞬間、思わず叫んだ大学生らしき男が居た。

その声を聞いた《アンノウン》が画面越しに飛び出そうな程ギョロリとした大きく丸い眼を細め、左一指し指と思われる異様に長い細く第一関節しかない指を振った。

その瞬間、叫んだ男の真下に黒い穴が出現し、男は落ちて行ってしまった。

一瞬にして男はモニターの向こう側で《アンノウン》の手の内にワープしていた。


「う、うわぁぁあぁぁぁぁぁっ!!!!!???!!?」


《アンノウン》はゆっくりと動作で男を鮫の様な口に放り込んだ――

ポリゴンが砕ける音がして、口の中が静かになる。

広場に居る者は戦慄し、声にならない声すら出せない。


『成程。オレの名前、か』

「「!?」」


広場に居る誰もが驚愕した。

紫色のクラゲのような姿だった《アンノウン》のノイズ混じりの耳障りな声が、先程叫んだ男の声にすり替わっていたのだ。


『コイツ…中々、知識を持ってるじゃないか…キキ…だが、これでオマエラも判ったダロウ。オマエラがシんだら、その知識をオレが喰う』


広場に居る皆は何も言わない。

静寂が世界を包む。

生きるために従うか、逆らい食われるか。誰もが《アンノウン》に従うしか生きる道はない。

逆らえば、あの男のように喰われるだけだと明確な例まで出来上がって仕舞った。


『今回は…キキ…最初ダカラナ……《スイッチヲオセ》……制限時間は12:00……誰モ何モ言わないヨウナラ、ゲームスタート……キキキキキキッ』


再び、アンノウンが異様に長細い指を振った瞬間、アトランタ中心の大樹が消え、市街を支えていた多くの支柱が消え、水上都市アトランタは跡形もなく消え去った。

そこに居たプレイヤー全員は強制的に蒼い海に投げ出される。

一瞬の浮遊間の後、凄まじい爆裂音と共に海水面に思い切り叩きつけられ、全身に激痛が走った。


「…げほっ!ごほっごほっ……これは、いきなりハードね…」


水面に浮上したネアが呼吸が整わるや否や悪態を吐く。

辺りを見回せば、次々とプレイヤー達が浮上してくる、しかし、何度見まわしてもそこにシーナの姿はなく、浮いてくる気配もない。

その代わり、違和感を覚えた。

目の前に直径30メートル程のぽっかりと開いた空間ができている。

だが、そのような些細な事は現状不必要だ。


メインメニュー右下にシーナのネーム、ライフゲージが表示されている以上、生きている事は確かだろうが、それでも彼女の身に何かあったのでは、と少かし不安になる。


「……まさか…溺れた?」


浮かんでくる者はもういない。

となれば、彼女は今も沈んで行っていると考えるのが妥当だ。

ネアは息を大きく吸い込み、深く蒼い海中へと身を沈める。


海中は黒洞々の様に暗く、底が見えない。

様々な青が幾層にも重なり、グラウコス海は濃く深い。

そんな青の世界に、シーナの白とピンクの花蕾をあしらった服は余りにも異色過ぎ、だからこそ、ネアは両手足を投げ出し沈みゆくままに身を任しているシーナを見つける事が出来た。

ネアは安堵の表情を浮かべるとシーナの元に泳ぎより、そっと抱え込み、水を蹴って浮上する。


「プハッ……」


海面に上がると首を左右に振り水気を飛ばし、沿岸を見る。

最悪、シーナが水を飲んでいる可能性もあり得ない事はない。

しかし、岸に上がろうにも海面から沿岸は5メートル程の切り立った崖の様になっている。

シーナを抱きかかえたままでは到底登れないだろう。


(…これは詰み、かな。登る方法は無いわけじゃないけど、これだけ大勢プレイヤーがいると、方法を開示した途端に競争になりそうなんだよねー)


沿岸に群がるようにプレイヤー達が集結し、一人また一人と崖をよじ登ろうとしているが、未だ誰一人と岸へ上がれていない。


「…まぁ、しょうがないか。死にたくないし」


ネアは肩を落とすと腕に抱えていたシーナを背中に乗せ、すいすいと岸際まで泳いでいく。


(…これは酷いわね…やっぱり無理矢理行くしかなさそう)


俯き考えていたが、やがてタッチボードを操作し徐に中世の騎士が持っているような細長い円錐の形にヴァンプレイトと呼ばれる大きな笠状の鍔がついた全長約3メートル鉄の槍《ランケア》を右手でその鍔の根本で持ち、水面と水平に構えた。


「スゥ……ハァッ!」


構えたランケアを高速で突きだすランス専用PS《連続突き》を切り立った崖に目掛けて発動する。

本来、地に足を着け体を固定し発動するPSにも拘らず、体の半分が水に浸かっている状態で放ったそれは元々の威力より弱体化しているが、それでもガリガリと崖を削る音がし直径1.5メートル程の大きさの穴が大量に発生させた。


(こんな物ね。後は……)


発生させた穴に足を引っ掛け、左手でシーナを支え、右手はランスを構えたまま、時折崖に突き刺し新たに足場となる穴を作りだす。

それを繰り返しやっと沿岸に登る事が出来た。

しかし、1つ気になった事がある。


(…人の歓声が1つの湧かないとは思わなかったわ)


人の集まりから離れていた事もあるが、それでも最初に崖に立ったのだから誰かしら気付くはずだ。

と、グラウコス海の方を振り返った瞬間、歓声が上がった。

しかし、それはネアに対してではなく、全く別の人物に対してだった。


「お?アンタも登れたのか」

「ええ、私はネア。こっちがシーナよ、貴方は?」

「ユイだ」


白いジーンズ生地のズボン。黒のタートルネックの上に、真紅のジャケットを羽織っている。

水に濡れた鳶色の髪に同色の瞳。

顔立ちは整ってはいるものの、何処か幼さを残していた。


「ユイ。貴方は何処にスイッチがあると思う?」

「判るのかよ?」

「いや、全然」


大袈裟にズッコケるユイ。

悪びれる気もなくネアはクスクスと笑い、背中に乗せていたシーナを地面に寝かせた。


「そう言えば何で、シーナは寝てるんだ?」

「ちょっと水を飲んだのかもしれないの」


というと、ネアは膝を突きその膝の上にシーナの頭を乗せると、大きく息を吸いシーナの口元を口で塞ぎ、息を吹き込んだ。


「お、おい。それ大丈夫なのか?」

「判らないわ。でも繰り返すしかない」


ネアは再びマウス・トゥー・マウスを行い、胸の真ん中に手の付け根を置き両手を重ねて、肘を真っ直ぐ伸ばし強く圧迫を繰り返す。


「貴方はッ!他のプレイヤーにッ!指示してッ!」

「指示って、何をさ!?」

「私が着た所に穴があるからッ!一人ずつ登ってこいッ!女子供を優先するようにって!」

「わ、判った」


沿岸に寄ったユイが海上に浮いているプレイヤー達に指示を出す声を聴きながら、ネアは必死に腕を動かした。






  ∵  ∴  ∵






グラウコス海の海岸線に沈みつつある紅く焦げった夕日を、沿岸に座り眺めるネアが居た。

最初のミッションが始まってから6時間が経過した。

アトランタは未だに消えたまま、しかし、確認できた限りのプレイヤーは無事だ。


「ネア!こんな所に居たんだ」

「……シーナ。もう動いて大丈夫なの?」

「うん。それと助けてくれてありがとう」


無事、息を吹き返したシーナがネアの隣りに座り、ともに夕日を眺めながら言った。


「別に、大した事じゃないし。それに大元の問題は解決してないわ」

「そう、だね……でもスイッチって何のことだろう…?」

「それが判ったら苦労しないわ」


思わず溜め息が零れた。

しかし、時は刻一刻と動いているのは変わらず、後6時間以内にスイッチを押さなければ全員、死ぬ。

何も変わらない現実という壁にぶち当たった。


「…お、居た居た。ネア、サンキューな」

「ユイ…そっちはどう?」


重たい沈黙を破ったのは、ユイだった。

片手を上げながら歩いてきたユイの表情は少し疲労が見て取れた。


「いや、全くだな。海上だとみんな言う事を聞いてくれたけどな。流石に此処まで来るとみんなバラバラだ」

「やっぱり、か……予想通りと言えば予想通りね」


思案顔で俯いたネア。

大体、予想はしていた。

小規模大規模のギルドが作られた以上、ギルド内で方針は決めるはずだ。

こちらの指示など不要なお世話も良い所だろう。


「ねぇ…」

「ん?」 「何?」


再び沈黙が訪れそうだったが、シーナがそれを破り口を開いた。


「簡単な話なんだけど、私達が頑張ればいいんじゃない?ほら、3人寄れば文殊の知恵って言うでしょ」

「「…………ハァ…」」


おそらく本人はいい事を言ったと思ってるのだろうドヤ顔で自信満々で言ったシーナ。

それに対し、2人は張りつめていた気の抜けてしまった。


「あのなぁ…それができればどうって事無いんだよ…?」

「全くよ――――ん、スイッチってもしかしてそう言う事?」


げんなりした表情のユイが肩を落とした。

それに便乗したネアは言い掛けた途中で何か気付いた様だ。

恍惚的な表情を浮かべ、頻りに頷くと歩き出す。

しばらくして立ち止まったところは、アトランタと岸を繋ぐ吊り橋が合った所だ。


「ねっ!ねぇってば!ネア!!」

「よりによってなんで此処なんだ?」

「そうね…まず説明から、か。そうね……簡単に言うなら『アトランタは消えてない』って所かしら」

「はっ?」 「えっ?」


振り返ったネアから発せられる衝撃的な言葉に2人は呆ける事しか出来ない。


「どういう事だよ?」

「言葉で表すより行った方が速いわ」


再び海面を向いたネアは大きく踏み出した足は宙に浮いた・・・・・・・


「これが、答えよ」

「なんでっ!?」

「もしかして、そう言うミッション・・・・・・・・・だったって事か」

「そ、消えるのは最初の一瞬だけ。後は見えなくなっているだけ」


思えば最初から違和感があった。

グラウコス海に落ち、プレイヤーが浮上した時、なぜか・・・真ん中だけ開いていた・・・・・・・・・・

ぽっかりと開いた空間の広さは丁度、アトランタを支えていた大樹と同じぐらいの大きさだったのだ。


「でも、スイッチは?」

「この1週間で夜になるとアトランタはどうなってた?」


恐る恐る足を出し見えないアトランタに乗ったシーナが小首を傾げる。

先に進むネアは後ろを向き、ヒントを出す。


「どうって…街灯が点いたよな――あ」


同じく見えないアトランタに足を踏み入れたユイが頭の後ろで腕組み呟き、そして気付いた。


「街灯のスイッチ…?」

「スイッチという概念なら同じよ」


見えないが大体の配置は覚えている。

辿り着いた先から、赤く点滅し続けるランプのような物が見えた。


「あれがスイッチ?」

「多分……ただ距離が離れてる。若干浮いてる感じね」

「だったら――俺の出番だ」


ユイがタッチボードを操作し、粒子が形状を成したのは白・黒・青のトリコカラーの2丁の短銃。

照準を合わせ、ランプを打ち抜いた。

瞬間、10センチ程度の正四面体がわらわらと生まれだし、アトランタ全体を包み込み、徐々にアトランタが姿を顕した。

それだけでは収まらず、ネア、シーナ、ユイの体まで包んだ。

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