prologue
数ヶ月前に投稿した物を変更/修正した物です。
前作との主な変更点
・メイン描写を一人称から三人称へ変更。
・追加描写
等です
ps.前作の物は削除しました。
《VRMMO》…エターナル社が技術を結集し、数年、数十年の歳月をかけて開発に成功した《フリージーン》を装着する事で可能となった仮想現実大規模多人数オンライン。
フリージーンの形状は頭部全体を覆う流線型のヘッドギア、両手に籠手、両足に臑当ての計5個が一対の黒いアーマーだ。
従来のゲームとは違うこの仕様によって売り上げは好況。
その反響も未だ冷めやまぬ中、更にエターナル社が公表した《VRMMORPG》によって日本中のゲーマーが歓喜した。
そして本日、エターナル社が公表した《VRMMORPG》―アビス・フロンティア・オンライン―が発売した。
Abyss・Frontier・on-line missing start...?
ザーッ、ザッザー……
medical check...ok!
system check...ok!
device check...ok!
all green...Let's start!!
キィィィンと機械が起動する音が完全に消えた時、変わりに耳に入ってきた小波の音。
眼を開ける。
眼前に広がったのは一面の蒼い海。その名をグラウコス海。
VRビジョンだと理解していても、その雄大さは本物の海と何ら変わりない美しさを魅せてくれる。
そのグラウコス海の上に創られた水上都市アトランタ。
海中から生えた巨木が都市を支え、そこから発展したウッドタウン。
その巨木を高い建築物が囲んでいるこの場所は『中央広場』だ。
「私はやっと…この世界に…」
そして、AFOの世界に足を踏み入れた1人の少女。
黒髪を頭の両側で纏めたツインテール。
服装は黒いノースリーブの服、黄色のライン。両肩は剥き出しで袖は長く袖口はゆったりめに黒い巻きスカート。
黒いハーフブーツを履いている。
周りを見れば少女以外の男女アバターのプレイヤーが所々で話し合っている。
リアルフレンドとパーティを組んでいるのかもしれない、はたまた出会い厨と呼ばれる不届き者かもしれない。
ただ、そのような些末な事を除いたとしても大人数パーティがこのゲームの醍醐味の1つでもある、しかし少女は最初から1人でいると決めていた。
だからこそ少女はNPCに話しかけて装備を整えようとその集まりを尻目に歩き出した。
歩きながら左袖に備え付けられたタッチボードを操作する。
メインメニューと呼ばれ、画面右半分に人型が映され簡単にステータスが判る仕様になっていて、左側には、アイテム、装備、コミュニティ、ミッション、システムと5つのステータスバーがあり、そこを選択する事で用事を済ませられる。
「え…?」
メインメニューを開いた少女が戸惑いの声を上げ、立ち止まった。
人型の更に右上に現在の所持金が表示されるのだが、それが200セル(1セル=1円)と何とも心許無い物だったからである。
はぁ…と短く息を吐き、目的地を武器屋から赤い屋根が特徴的な木造のミッションカウンターへ変え歩き出す。
「いらっしゃいませ。どの様なクエストを受注されますか?」
マリアンという名前のNPCに声を掛ける。
マリアンが手の平を横に差し出すとディスプレイが空間に現れ文字が表示され、そこにミッションが貼られていた。
『クエストランク ★
・貨物配達
・魔獣討伐
・素材採取』
自身の体を動かす戦闘システムという事で一抹の不安を感じた少女は真っ先に魔獣討伐を選択肢から除外する。
かといって、折角のVRMMOなのだから街の外も見ておきたい。
貨物配達のミッションがどういう内容かにもよるのだが、ここは慣らしの意味も兼ね、素材採取を選択した。
「これでお願い」
「承りました。では『解毒草』を3本お願いしますね」
不意にタッチボードが点滅している事に気付き、メインメニューを開いた。
ミッションのステータスバーがポップしている。
どうやら新規の情報にはそれに適応したステータスバーがポップするらしい。
アトランタは中央広場を南部に抜けると一面の広がるグラウコス海を一望できる海港がある。
北部に抜けると街の外へ、更にそこから東にマージュ山岳地帯。西にサンダリア森林地帯がある。
どちらもモンスターが生息している危険地帯であることには変わりない。
『解毒草』は森林部に自生しているらしいので、西へ向かおうとアトランタから外へ出る吊り橋を行け立った。
「ね、ねぇ。貴方もミッション行くの?」
突然、後ろから声を掛けられ、踏み出そうとした足を止め振り返った。
そこには、ピンクと白基調の蕾をあしらった服を着た煌びく栗色のショートカットの少女がいた。
「ええ、最初のセルじゃ足りそうにないから、簡単そうな解毒草採取に行こうと思って」
「私も付いて行っていい、かな?」
再び、はぁ…と溜息を吐く。
こういう事は予想してはいた。
突き放してもいいのだが、初心者という点では自分も同じ。
ましてや、外を出歩くのに一人と言うのは些か心許無い。
よって導かれる結論は――
「ええ、構わないわ」
タッチボードを操作し、コミュニティから彼女をパーティに誘う。
彼女が承認したらしく、メインメニューの右下にあった小枠に彼女のネーム、ライフゲージが表示された。
shina……シーナだろうか?
「シーナ?」
「あ、はい。えっとでもどうして?」
「タッチボートの右下のプレイヤーネームから」
「あ……じゃあ、ネアさん?」
「ネアでいいわ」
軽く拍手をし、数分歩いてやっと森林へ到着する。
青々と生い茂った草木で薄暗く、中の様子は殆ど窺えない。
「此処…だよね?」
「地図ではね。でも解読草はもっと奥にあるんじゃない?」
ネアはタッチボードを操作し、粒子化され、アイテムストレージに入っていたポールランスを取り出し、適当に構える。
断面が丸い木で作られた棒の先端に楕円形に研磨された鉄がきつく繋げられている。
「ネアは、ランスを選んだね」
「ええ、現実でも少し槍術を習ってたからね」
「す、すごいね~」
「別に、祖母に無理矢理やらされてただけだから」
特別祖母が好きと言う訳ではないが、しかし、苦ではなかった。
むしろ純真な頃から色々叩き込まれた事に少なからなず感謝している。
少し間違ってるかもしれないが、故人となってしまった祖母に対する礼儀という訳だ。
「私は、セイバ-」
シーナが軽快にタッチボードを操作し、粒子化していた実体剣が光と共に出る。
少し細い剣先に特徴的なフォルムをもつ片手剣。
柄の部分に装着された装甲は攻撃を弾くだけでなく打撃用としても活用できる。
開いた片手に楯を持ち、さらに前衛に徹する事も出来る。
器用貧乏基い万能な武器だ。
「お互いレベルも低いし気を付けて行きましょう」
「うん!」
2人は眼前に広がるサンダリア森林の中へ歩を進める。
そして――一歩振み入れた瞬間、画面がブラックアウトした。
∵ ∴ ∵
「皆、AFOの可動調子はどうだ?」
その頃、エターナル社本部AFO管理室の中心部に移された巨大モニターを見ながら、白衣を纏い立派な髭を結わえたえ壮年期の真っ只中と思われる男性――石河原 源郎が集めた究めて優秀な部下たちに問いかけた。
「異常なしですよ」
「こちらも大丈夫です」
などと声が返ってくる。
その様子にようやく人心地付いたのか安堵の溜息を洩らした源郎。
何度も試行錯誤をした上での正式販売であったが、それでも不安は拭い切れなかった。
再び中央モニターに目を移しプレイヤーの行動を観察する。
4分割されたモニターにそれぞれ一人づつプレイヤーが移されている。
数分後に別のプレイヤーに移り変わる。
全てが順調に思われていたその時――突然。部屋中が赤いランプとけたたましい音に包まれた。
「な!?一体どうした!?」
「バ、バグです!!」
「なに!?デュアルファイアーウォールシステムの起動はどうした!?」
「そ、それが、バグが居る場所はDFWの内側、AFOのシステム内部です!!なお現在も中枢区画に進行中です!!」
「ウィルスバスティング隊を送り込め!!」
「バグ、AFOのデータを……これは…?……」
「どうした!?」
「判りません…喰らっているようにも見えます!!」
「喰らう…だと!?」
「所長!電子メールです!!送り主は……バグ!?」
「構わん!開け!!」
『キキ……デーた…イタだいタ…コノゲームのシスてムかンリはオれにある……イマから…コノゲームのコんカんをツクリかえる……キキ…』
「…こちらが使用できるシステムは何がある?」
頭を抱え顔面蒼白の源郎は、しかし冷静な声で部下に尋ねた。
「プレイヤーの緊急召集、及びモニターによる疑似演説が可能です…しかし、喰われるのも時間の問題かと…」
「プレイヤーたちの強制ログアウトは不可能か……ならば、プレイヤーをアトランタに召集、その後モニターに私の姿を映してくれ!バスティング隊はシステムの全力防衛に努めてくれ!!」
「はい!」
∵ ∴ ∵
ネアが不意に目を開けた。
徐々に晴れいく視界でおぼろげながら此処がアトランタ中央広場だと確認した。
「っぅ…なんで…アトランタに…? シーナ!」
「いたた…ネア、無事?」
隣りに倒れ伏せていたシーナの名を呼ぶ。
それに呼応するかのようにシーナが頭を支えながら立ちあがった。
『プレイヤーの皆…気が付いたようだね…私は石河原 源郎。《フリージーン》及びAFOの開発者だ。
今回は君たちにとっても…重要な話が合って無理矢理召集を掛けさせたもらった』
中央広場の中心の大樹に浮かぶモニターの中で白衣を着た源郎が喋っている。
『重要な………ザッザー………話………は……』
源郎が映っていたモニター全体にノイズが走りブツッと完全に消えてしまった。
『キキ……オマエにシャベられルト…コマる………』
瞬間、紫色のクラゲの様な生物が画面に映り、耳障りな声を出す。
『キキ……アァ…プレイヤー諸君…キキ…こういうだったか?……モウスコシ…デーたがホシいな……キキ………お前らがこの世界から出る事は禁じた………オレがシすテムを喰ったからなぁ』
アトランタに集められたプレイヤー全体からざわめきが走る。
ネアは恐怖に押し潰されそうになりながらも、額に滲んだ汗を拭い、必死に指を動かした。
そして、絶望。
「……ない…」
「え?」
「ログアウトが何処にもない!!」
全身を震わせたネアの悲鳴に近い叫び声にプレイヤー全体が震えた。
泣き崩れる者や、立ち尽くす者。
まだログアウトキーを探し続ける者もいる。
『セーブもない…ログアウトもない……キキ……お前らがこの世界で死んだら…それは現実世界でも同じ事になる…キキ…もう…オレの一部が…回路を通って…お前らの《フリージーン》に向かってる……キキ……お前らがこの世界で死んだその瞬間……オレの一部が…お前らの脳を喰う』
しかし、クラゲは淡々と絶望を投げかける。
再び、アトランタがざわめきに包まれる。
『キキ……さぁ…プレイヤー諸君…ゲームヲシヨウ…オレがシステムを喰った時に見つけた配信用ミッションを一週間に一度…通知する……それを全部…くりあできればお前らを開放する……ただし…キキ…一回でも失敗すれば……全員死ヌ………キキ…じゃあな……キキ……1週間…生きてろよ?』
モニターが完全に沈黙する。
一斉に恐怖に駆り立てられ色んな方向に人が走り出した。
そんな中、シーナは動く事すら儘ならなかった。
恐い、怖い、嫌だ、死にたくない。
そんな単純で端的な否定の感情が体を支配し、気付けば自分の両手を胸元で交差し肩を抱き震えていた。
ひょっとしたら涙も出ているかもしれない。
……助けて…誰か……
助けを乞うっても誰も助けてはくれない。
皆、自分の事で精一杯だからだ。
「It's the only neat thing to do」
不意に隣りのネアが聞き慣れない英語を口にした。
「え、今なんて?」
「たった一つの冴えたやり方。母さんの口癖」
ハッとした。
見た目同世代と思われる少女はこんな状況に陥っても冷静でいられるばかりか、助言までしたのだ。
ネアの目をしっかりと見て、シーナは考える。
今の自分に出来るたった一つの冴えたやり方を。
「謝ろう、生きて生き残って、現実世界に戻って母さんに父さんに謝ろう。心配かけてごめんなさいって」
「そうね。貴方はそれでいいんじゃない」
隣りのネアが肯定してくれた。
それだけで不思議と勇気が湧いてくる。
「さ、まずは一週間。何としても生き残ろう?」
「うん!」
微笑を浮かべたネアが右手を差し出す。
シーナにはそれが何を意味していたか理解するには数瞬掛かった。
そして、負けないぐらいの満面の笑みを浮かべ、手を握った。
いかがでした?
n番煎じか判りませんが、出来る限りオリジナリティを追求していきたいと思います。