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獅道戦旗  作者: 紫炎
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◇第4章 メイド舞う

(…不味いな)

 カイン・ロウは焦っていた。周囲を囲む何者かの正体は未だにまったく分からなかったが、しかし自分の技量では逃げ切れぬということは何度かの挑戦を試みた結果、実感していた。そしてこのまま進めば確実に死が待っていると。

(通りで仕掛けるべきだったか)

 そうは思っても、もはやすべてが手遅れである感は否めない。

(手遅れ…手遅れだって…)

 自分の心の中の呟きに呆然とする。

(いや考えろ。まだ私は生きている。何かあるはずだ)

「おい」

 カインはガルバに声をかける。

「なんだ。まさかカイン・ロウともあろう者が恐れをなしたか?」

 ガルバは笑う。カインはその笑みをどうにも場違いに感じた。

「お前に協力している連中は何なんだ?」

 カインはガルバの挑発は無視して率直に尋ねる。

「ガルバ。やっぱりコイツビビってやんよ。情けねえ」

「ふん。当然だろうさ。我がエルガンデ騎士団は貴様の青狼騎士団とは違い国内での地位は低い。だが大戦では所狭しと戦場を駆けめぐり活躍していたのだ。だから城の中に籠もっている連中たちと違って歴戦の猛者たちとも顔が広いというわけだな」

「下手すっと殺されるかもしれへんなお前」

 ああ…とカインは思わず声に出さず軽く悲鳴を上げた。

 目の前のコイツラは何一つとして理解していないということが分かってしまった。この状況は生意気な下級生を制裁するのを顔見知りに頼んだ…などという平和な状況では断じてないのに、二人はまったく気付いていない。

(お前等も殺気の圏内にいるというのにここまで平和ボケだとは…)

 サーヴァス学院は各国のブレイブ候補の若者が集まる場所だ。だがそうは言っても学院は3回生までを合わせて1000人を超えているのだから当然学生同士の実力の格差も大きい。

 元よりここに入学する者は基本的には若くしてブレイブとしての資質に目覚め実力者として評価されてきた者たちばかりである。だがほとんどのものは1年の間に自身が井の中の蛙であることを突きつけられる。越えられない壁に気付いてしまう。そして、そこから立ち直れず一年を過ぎた頃に目を付けるのが新たにやってきた新入生であった。

 目の前の二人もそうしてカインに絡んでいったわけだが、結果は言うまでもない。一年程度で覆せぬ差というのも当然存在していることを二人は思い知っただけだった。

(だがどうだろう。実際にはこいつらが言っている通りの状況だったら。よほどの手練れなら殺気を作ることも可能だろうが)

 そうであればもしかしたらこのまま


 カインがそんな甘い妄想に手を着けようかという矢先に、

「ここだ。入れ」

 目的地に辿り着いてしまった。カインは倉庫の中に連れ込まれるとゆっくりと後ろを向いた。

 入り口に立っているのはガルバとザムー。そして外から一人、二人と併せて5人の男たちが入ってくる。カインはその男たちを見て、今度こそ絶句した。

「ゼオ・マーカス…」

 そして目の前の男のうちの一人の名を口にした。

「ハッ」

 それを見たガルバは嬉しそうにカインに告げる。

「なんだ。知っていたのか。そうだろう。彼ほどの手練れだからな」

 カインはガルバには見向きもせずゼオを見ていた。

「ならば彼の大戦期の活躍も知っているだろう?」

「大戦期?」

 カインは訝しげにガルバを見る。

「そうだ。彼は」

「そいつは大戦には参加していない。いるわけがないだろう」

 ガルバの言葉はカインによって止められる。

「は?」

 ガルバは不思議そうにカインを見る。

「そいつは大戦の時は首都カイナスを護っていたんだ。参加しているわけがないんだガルバ」

 その言葉にガルバとザムーがゼオを見る。剣が突き出されたのは同時だった。


 鮮血が舞った。


 喉元を一突き、ゼオはガルバを、ザムーはその背後にいた男がそれぞれ喉に剣を突き刺した。そして彼らが何か動作をする前に剣を回し、抉り、引き裂いた。

「お久しぶりですカイン様」

 状況を理解できず、声を上げることも、ただひとつの抵抗もできぬまま二人は血を撒き散らして床に崩れ落ちた。

「青狼騎士団二番隊隊長ゼオ・マーカス」

 カインは絞り出すように目の前の男の正体を口にする。

「ご入学前の旅立ちの日以来でしょうな。ご活躍のほどは彼らからお聞きしております」

(どんな話を聞いたのだかな)

「随分と親しげだったようじゃあないか。こいつらにすり寄るのにどんな嘘八百を口にしたんだ」

「ええ、エルガンデの団長と知り合いであるということと、まあ吟遊詩人に聞いた話をちょっと地味にしてみた感じの話を少々ですかな」

「それをあんなに自慢げに語ろうとしたのか。このバカどもは」

 カインは憐れんだ目で崩れ落ちた二人をみる。愚かだとは思っていたが、それでも死んでしまえと思うほどの相手でもなかった。

「それでここに来た理由は…やはりそういうことなのだろうな」

「申し訳ございません。恐らくはご想像の通りかと」

 ゼオは口惜しそうに答える。

「なるほど。これは兄上の差し金か」

 カインは諦めたようにそう口にした。だがゼオは首を横に振った。

「いいえ。いかにあの方でもまだ我らを動かすだけの権限はございません」

 であれば結論は一つしかなかった。

「つまりは父上か」

 今度はゼオも何も言わなかった。

「はっ、まさかそこまで疎まれていようとはな」

「状況が悪すぎたのです。イザヤ様がこれを機にカイン様の殺害を企てていたことは事実です」

 それは別段不思議でもなかった。貴族でありながらブレイブとしての素養もろくに持たない兄が自分の才覚を憎らしく思っていたのはとうの昔から分かっていた。次期頭首という地位に執着していたことも、或いはカインが、もしくはカインを持ち上げる誰かが自分を狙っているのではないかと脅えていたことも知っていた。

「ライオーグ様もその事実を突き止め、大いに苦悩しておりました」

 そして、そのカインを持ち上げる誰かの筆頭は事あろうこのゼオ・マーカスであったのだ。

「アンジェロ閣下と接触したのは失敗でしたな。あれがイザヤ様の病気を悪化させた」

 カインは思わず舌打ちをした。やはりあれは疫病神であったかと。

「あれとてロウ家の名を汚さぬ為であったのだがな」

「それは理解しております。ですがあの方の病気の目に余る状況にライオーグ様も決断せざるを得なくなりました」

「父上が家が割れるのを懸念していたことは知っている。お前を寄越したのもそういうことなのだな」

 カイン派閥の筆頭だからこそ選ばれたのだろう。

「は、ご理解が早くて助かります」

「お前には苦労をかけるな」

 ゼオは改めて剣をカインに向ける。

「勿体無きお言葉にございます」

 あわせてほかの4人も剣を抜いた。

「何か言い残すことはございますか」

「ああ……いや、いい」

 どうあれ自分を殺す決断をした父にも、愚かな兄にも言いたいことはなかった。あるにはあるが泣き言が最後の言葉とはしたくなかった。

「もっとも私が勝利するという選択肢もゼロではないのだけれどな」

 そういってカインは剣を抜いた。ゼオはそれに何も言わなかった。戯れ言と切り捨てることはできない。それほどの才覚を持っていることは確かなのだ。だがそれを可能とするには鍛錬と経験と歳月が不足していた。

「では参ります」

 ゼオたちが駆けた。勝負は一瞬。5人からの同時攻撃。

(防ぐことはできない。ならば一太刀だけでも)


 そして雷の如き轟音が木霊した。


「!?」

 それは突然のこと。あまりにも大きい轟音と合わせ破砕音が聞こえたかと思えば突然、血と肉片の雨が周囲に巻き散らされた。

(なんだと!?)

 状況の把握ができない。ゼオは標的であるカインを無視して全速力で後ろに下がった。彼の部下であろう『三人』の男たちも合わせて下がる。そして間合いを取った後、ゼオは周囲を見回し部下が一人消滅していることを把握した。いや、細切れになって周囲に散らばったことに気付いた。そう理解した。

(なんだこれは…)

 ジランというゼオの部下のいた場所から少し離れた位置に辛うじて両手両足らしきものと判別されるものが散らばっていた。それ以外の部分は引きちぎられたがごとく崩れ、散乱していた。頭部と思わしき部位はどこにもなかった。

(何が…起きたんだ。一体)

 その光景にゼオは血の気が引くのを感じた。

 魔力はなかった。攻撃魔法ではなかったのは断言できる。どれだけ強力な魔法でも対人であればレジストが働き威力は減退される。また強力な魔術であってもレジストによるタイムラグは発生するハズだがその形跡もなかった。

 そして、その衝撃はカインにとっても同様だった。いや、死に対しての耐性がない分、この中では誰よりも衝撃を受けていた。

(あんな人の身体が…砕けて…一体)

 言語として繋げることも放棄した思考は、だが、ダンッと何かが落ちてきた音によって正常な動きを取り戻す。しかし、その落ちてきたものを見ることにより、彼らにはさらなる衝撃が走った。


「ちゃら~ん…と」

 モナカはカインとゼオ等のちょうど間の位置に降り立った。

 背負っていたバッグからはすでに対物ライフルを取り出して右腕に握り締めていた。銃身から軽く煙が上がっていることから先ほどの一撃がソレによるものだとは示していたが、銃器の発達の遅い世界のカインたちには分からない。

「うぃっす。どおも」

 モナカはどちらに対しても軽く頭を下げると、ひとまずはカインの方に近づいていった。

「あんた、さっきシドウといっしょにいた」

 衝撃はまだ残っているが、さすがにまともに動くようになった思考でカインは口を開いた。

「カインくんでしたっけ いやー危なかったっすねえ。あっしがいなかったらきっと今頃は死んでましたよぉ。いやーホント危なかった。危険だった」

 うんうんと首を振りながらそう告げる。

「なので坊ちゃんにはモナカは立派に人助けをしたと伝えておいてくれないっすかねえ。いやホント、マジでお願い」

「え、ええ。それはもう」

 ひとまずは味方であるようだということは理解できたカインは冷静さを取り戻しつつあった。

「そんじゃあ残りも片付けるんでちょっと待っててもらえます」

 カインが平静さを取り戻していくのを見たモナカは、ゼオに向き合う。

「貴殿は何者だ?」

 ゼオは警戒と狼狽をない交ぜにしてモナカに訪ねた。

「そっちの坊主のご学友になる坊ちゃんのメイドっすよ。ほらメイド服来てるっしょ?」

 それはモナカにとってはただの事実ではあるのだが、まともな回答は返ってこなかった…とゼオは思ったので、質問を変える。

「あれをやったのは貴殿なのか」

 あれとは無論、肉片として文字通り散ったもののこと。

「そうっすよ。やるっしょ?」

 悪びれもせずそう答えるモナカにゼオはただただ恐れを感じていた。

 一見してただのふざけたメイドから尋常ではない殺気が漂う。そしてそれは確実に自分たちを捕らえている。まだなにをされたのかも分からない先ほどの攻撃を抜きにしても恐るべき相手であることをゼオも長年の勘から悟っていた。

「アギ、ナイアル、右へ。オッズは私と左へ」

 だが、ここで退く選択肢もまたゼオにはなかった。

 ゼオはモナカを見ながらも部下に配置を指示する。

「やる気っすねえ」

 それに対しモナカはうんうんと嬉しそうに頷く。

「それで坊主。これ全部、あっしがもらってもいいっすよね」

 その言葉にカインは戸惑った。無理だ…などとは口にできない。可能なのだろうと思わせるだけの空気を彼女は纏っていた。

「殺さず…というのはできますか?」

 それはいささか以上に大きく出た発言。元よりカインにそんなことを要求する権利などはないが、だが彼女の余裕が彼に欲を生ませていた。

「この欲張りさんめ」

(うっ)

 その言葉にカインは性根を見透かされたかのように感じた。

「縛りプレイは好きじゃないんすけどねえ」

 そしてモナカは一寸考えた後

「まあ、いいでしょう。坊主に貸し1ということで」

 軽く引き受けた。その一言がゼオの顔をこわばらせる。

「さてと」

 モナカは持っていた対物ライフルを床に転がすと、スカートの中から二つの短い棒を取り出した。カインがなんだと覗き込もうとしたが

「エッチィ」

 との声に思わず目を背ける。

「あー坊ちゃんと同じムッツリかぁ。あたしゃガッカリだぁ」

 そう言いながら両手に持ったそれを振り下ろすとどちらも1Mほどのサイズに延びた。

(ギミック付の棍棒…?)

 カインはそれを見て首をひねる。

「うん。よし」

 ブンブンとさらに両腕を振り、一歩前に出る。そしてゼオを舐めるように見ると

「じゃあ行きますか」

 一瞬で駆けた。

(ナ・ニ・ィ!?)

 ゼオは魔術の発動を感じた。それは身体能力に加速の指向性を与える魔術行使。

 元来魔力を用いて身体能力を上乗せすることは戦士であれば誰もが身に付ける技術ではある。ブレイブというのは要はそれに特化した存在なのだが、厳密に言えばその現象は魔法に属していても魔術ではない。

 しかし、モナカのソレは魔術によって行われた。その不自然なまでの加速は見ようによっては瞬間移動にすら見えるほど。そしてモナカはゼノと分かれた右手側の二人に一瞬で肉薄する。

「バカなッ」

 ナイアルと呼ばれた男は叫び、そしてモナカにわき腹を特殊警棒で突かれる。

「くっ」

 アギはそれを見ながらも、剣を持ち、突きを繰り出そうとする…が、あまりにも近いため、まともにふるうことも出来ず避けられる。

「温いっすねえ」

 モナカはそうぼやく。そして避けたモナカはアギの背後に周り、その首裏に警棒を叩きつけ意識を完全に刈り取った。


 二閃。


 モナカは瞬時に加速を掛け、その場を離れる。

 ゼオとオッズの上段から振り下ろす攻撃が空ぶった。

(無詠唱の魔術行使。戦闘をしながら、それを行えるとは)

 ゼオは感嘆する。

 だが、それが出来ると知れれば間合いの把握は可能だ。

「そっちはそこそこ楽しめそうっすかねえ」

 モナカが好奇心と遊び心をない交ぜにしたような猫の笑みを浮かべる。悪意もなく敵意もない。それでいて命を刈り取る意志は、殺意は十二分にある。

「ま、そんじゃ遊んでちょーだい」

 加速。狙いはオッズ。高速で繰り出される警棒は、しかしゼオの剣によって止められる。火花が散った。

「ふむぅ」

 モナカの勢いは止まらず接触した剣を飛び超え、宙を回転し、そのまま倉庫の荷の上に飛び乗った。

「オッズ下がれ」

「は、はい」

 ゼオの命令にオッズは後ろへと下がる。

(なぜ?)

 カインはその判断に疑問が浮かぶ。

「オッサン、いいのん?」

 モナカは尋ねる。

「悪いがオッズでは荷が重いようだからな。あれを守りながらでは勝ち目などない」

「オッサン一人でもないと思うけどね」

「どうかな。どのみち目がある方に賭けるしかないとは思うが」

「ま、そりゃそうだっと」

 モナカは手に持つ二つ警棒の柄の先を接触させ、捻る。

「む」

 合わさった警棒は繋がり、2Mほどの一本の長い棒になる。

「棒術?」

「雑魚っちいのをノスのならさっきの方が便利なんだけどねえ」

 ゼオの表情が硬くなる。

「そちらが本来のスタイルというわけか」

「うん? まあ長いことはいいことだよ」

 モナカはそう言って荷から飛び降りる。

「じゃっ、行くっすよ」

「応っ」

 モナカとゼオが同時に走る。今度はモナカは加速をしなかった。モナカは棒を槍として扱い、突きを繰り出す。

 元より槍の間合いに剣が入ることは難しい。ゼオは持ち前の足運びと剣捌きでモナカの攻撃を受ける以外にない。

(厄介なのはこの棒か)

 先が刃でない分殺傷能力はないが凹凸もなく剣で絡めることも出来ない。捌く際に何度か接触したがしなるし折ることも出来なさそうな感触だった。

(剣が槍に勝つには間合いに入るしかないが)

 その隙ならば実のところ何度かあったが、だがそれは明らかに誘いだろうとゼオは直感している。しかしそれに乗る以外に打開策がないのもまた事実。このまま、ただ受けるだけではいずれ限界がある。

(くっ、ままよ)

 ゼオは間合いに一気に踏み込む。

「よよ」

 モナカの嬉しそうな顔に、やはりと思いつつもゼオは渾身の気合いを込めて剣を振るった。


 そしてゼオは崩れ落ちた。


 カインはそれが何が起きたことによるものなのか理解出来なかった。モナカの繰り出す突きをかいくぐりゼオが剣を振った直後に、ゼオが倒れたのだ。

 合わせてモナカの槍とゼオの剣が地面に転がり落ちる。そして立っていたのは手に短い警棒を持つモナカだった。

「いつの間に」

「にょほほ。あっしはいくつもの秘密を持つ女だからにゃあ」

 そう言い放つモナカの後ろで

「ゴホッ、ぐっ…ふ」

 ゼオがせき込んで立ち上がった。

「ゼオ」

「ぐ、見事…というべきだろうなメイド」

「一応抑え目にやっといたんですけど、大丈夫っすか?」

 モナカは短いままの警棒を手に笑顔でゼオに声をかける。

(あの棒を手放して、隠し持っていた短い棒にスイッチしたか。おそらく決め手はあの加速魔術だろうが)

 ゼオが振り下ろす前に瞬間移動のようにあの警棒が鳩尾に突き刺さっていた。

(こりゃ勝てない)

 ゼオは素直にそう思った。

「くっ、貴様」

「止めろオッズ」

 ゼオの裏にいるオッズが剣を構え、モナカに挑もうとするがゼオはそれを止めた。

「失敗だ。俺たちではあれを止められない。それはお前も分かってる筈だ」

「しかしそれでは我々は何のために」

「少なくとも我々では手に負えないという事実だけは持ち帰る必要がある。持ち帰れればだがな」

 ゼオはカインとモナカを見る。

「うーん、あっしはどうでもいいんすけどねえ。カイン君どうします?」

「私は…モナカさんだったか。あなたがいいというなら彼らはここの警護隊に引き渡したいと思う」

 そしてカインは床に転がっている二人をみる。

「恐らくはすぐに釈放となるだろうが、死んだ彼らへの対処はロウ家としてしてもらう。それと俺を襲ったという事実も表に出させてもらうぞ」

「ラーディン様はお認めにはなられませんよ」

「結構だ。お前たちの暴走としてくれても構わない。そうした動きがあるとだけでも示せれば迂闊に動くこともできなくなるからな」

 父は醜聞を嫌ったのだ。ならばそれを突けば下手に手を出すことも出来ないだろう…と。

「分かりましたカイン様。ではそのように」

 ゼオは頭を垂れるとゆっくりと床に腰を着けた。

「それとモナカ様…と申しましたかお嬢さん」

「あいあい。何かな?」

 モナカはゼオを見て答える。

「その若さ、そして女性でありながらその力量。感服いたしました」

 加えて、最初の一撃は結局不明のままだった。

「一体アナタは何者なのですかな」

 その疑問はもっとも。それはカインも知りたい事柄だった。だが勿体ぶってうーんと唸ったあとモナカの返した言葉は一つだけだった。

「メイドっす」


名前がゼクス・マーキスをもじったものだったことに後で気づく。仮面でも金髪でも美形でもないそこそこ整った顔の鼻の下に髭はやしたおっさんです。

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