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獅道戦旗  作者: 紫炎
2/15

◇第1章 獅道とモナカ

 2022年 東京都


 魔竜戦記セントグラム、それは携帯機用に作られたミニRPGの名前だ。勇者と3人の仲間たちが魔王を倒すという懐古主義を前面に押し出したストーリーが逆にウリのこのゲームはアプリケーションランキングでも上位常連の人気ソフトであるらしい。

(わずか4人で人類を滅ぼそうとする魔王を倒そうとする…か)

 そのゲームを蛇神へびがみ 獅道しどうはたった今クリアした。エンディングロールは黒バックに白文字のシンプルなもの。ほとんど一人で制作していたらしく同じ名前が点々と続き、終わりまで15秒とかからなかった。

(実際にはありえねーとか思うけど設定の見方を変えればそうでもないかもしれないなあ)

 単独による敵地の侵入とその司令官の殺害、形だけ取ってみればこれは暗殺と呼ばれるものだろうと獅道は考える。

「…と思うんだけどモナカさんはどう思う?」

「そうっすね」

 その問いに運転席に座っている糸目で眼鏡のメイド服を着た女性、須川モナカは即答する。

「あっしが考えていたのは100人の村式っすねえ」

「世界が100人の村だったら~ってヤツ?」

「そうっす。HPが人数で実際には数百人で移動してるという。HP10なら10人の隊でHP1000ぐらいなら旅団規模になるっすよね」

「ああ、そうすると武器の金額が高価になるのも人数分の支給が多くなるからってことかな」

「あい。キャラクターはそれぞれが役割をもった部隊なんすよ。レベルアップも自身の成長ではなくて上申書とかで。王様へ任務達成の為の必要なのはこれぐらいの戦力ですよ~と情報を集めて報告してるわけっす」

「おお、俺の考えたやつよりもリアルっぽい」

「そうっしょ?」

 妙に納得した獅道と得意顔のモナカ。

「それでモナカさん」

「あいあい」

「あいつ等の連れ、あれなにかな?」

 笑顔の獅道にモナカも笑顔で答える。

「女子高生じゃないっすかね。お持ち帰り~ってやつっしょ。あ、彼氏っぽいのもいますね。ボッコボコっすよ。あ~痛そう」

 車内の監視カメラに写っているのは黒いバンから出てきたアジア系の男たちとそこから出された高校生らしき男女の二人組。女の方は啜り泣いているのか肩を震わし、男は血まみれで床に投げ出された。

「あの状況で仲間って事もないだろうしどっかから拉致られた感じですね。あいつ等ならちょっとムチャしようが捕まることもないでしょうし」

「だろうねえ。そんでモナカさん、対象はいるかな?」

「ユン・ロンとフェイ・アジャン、この二名が多分そうっしょ」

 監視モニタに映っている人物たちを指差しモナカはいう。

「取引先はすでに沖田さんが抑えてますから、どっちかを生かしておければ他は殺っちゃってもオッケーっと。というか今回はデーハーにいけってオーダーっすよね」

「うん。まあそれなりにね」

 愛用のナイフを握りながら獅道はいう。

「それじゃあ女子高生が悲しいことになる前に終わらせますか」

「あいさー」

 そういって二人は車のドアを開ける。外に出ると潮の香りが獅道の鼻腔をくすぐった。

「けど港での取引ってのも定番過ぎて面白みないよねえ」

「王道に勝るものなしですよ坊ちゃん。と言っても実際の取引は洋上っすけどね。漁船使って薬と金をそれぞれ流すとかで。ツラ会わせもしないそうですね」

「GPS使うんだっけか?」

「ヤー」

「便利な時代だねえ。けど顔もみれない取引ってちょっと怖くない?」

「まあ信用問題は別んところで上と上が解決してるんでしょうけど」

 モナカはそう嘯いて目標の倉庫に目を凝らす。

「感知用の魔術式のラインが流れてますね。連中『ホンモノ』ですよ」

「ま、いつも通りやるだけだよ」

 獅道の言葉にモナカも頷き、そして両者は歩を進めた。


※※※※※※※※※


(なんで、なんでこうなった。なんで…)

 ひゅひゅう…と抜けた歯と歯の間から間の抜けた音が聞こえる。この事態に青葉隆はこう思わざるをえなかった。


 なぜこうなった?…と。


 初めてのデートだった。相手は同じクラスの清水美月。入学して初めてあったときにはもう惹かれていた。半年をかけて親しくなって、告白して、昨日ついに付き合い始めたのだ。そして今日学校帰りに二人でショッピングに興じた帰りに外国人に突然囲まれた。

 恐らくは中国人だろうと青葉は思ったが、そんなことは解放された後には口にする機会もあるかもしれないが状況の打破にはなんら役に立たない。美月は羽交い締めにされ、自分はこれでもかというくらい、殴り蹴られ、車に押し込められた。理由は分からない。泣き叫ぶ美月も数度頬をはたかれてすすり泣きに変わった。青葉も抗ったが結局捕まれたまま何もできずに今に至っている。

(なんなんだよ。これは?)

 周囲の美月を見る目を見れば、彼女にこれから何が起こるコトぐらい青葉にも分かる。が、それならば自分は?…そう青葉は自答せずにはいられない。それは男の一人が拳銃を持っていたのを見てから余計にそう感じてしまう。自分はこのまま死ぬのではないか、と。


 事実からいえば、彼らを拉致した男たちはそうする予定だった。所詮暇つぶしに戯れに拉致しただけだ。遊び飽きればそのまま海に捨てる予定になっていた。後数日で日本を離れる彼らにはその後に事件に発展しようともまるで関係がないのだから。

 しかし結果的にはそうはならなかった。運命は生者を死者に、死者を生者にとその予定を変えた。


 獅道は一気に倉庫に向かって駆け出した。用意していた魔術中和用のエンチャントストーンは軍用ではなく効果も5秒程度だが、突入のためだけに使用するには十分過ぎる。

(さてと)

 獅道は感知範囲内に入ったところで手持ちのスタングレネードのピンを外し投擲する。

「始めようかッ!!」

 スタングレネードは放物線を描き、ガシャンッとガラスを突き破り、倉庫の中に投げ込まれる。

「なんだ?」

 男たちの目の前に転がるまでがきっかり2秒。

 爆発音と閃光が倉庫の中に満ちたのと同時に獅道はその場から人間の身体能力ではありえぬほどの高さまで一気に跳躍し、天井付きの窓を突き破って倉庫内に突入した。

(2、4、5、6)

 光と音の止んだ倉庫の中の相手の数を一瞬で把握した獅道は、そのまま自由落下で3人固まっている男たちの中心に降り立った。

「さようなら」

 獅道はそう口にして両手に持つ二刀のナイフを振り上げた。

「ッ」

 そして鮮血が舞う。一瞬で3人のうち、一人は胴が、一人は両腕が、1人は首が『切り落とされた』。

「ギャアアアアアアアアア」

 一寸遅れて腕を切り落とされた男が自身の惨状に気づき悲鳴を上げた。

「なんだ」「くそっ」「おいおい」

 残り三人の男たちはほとんど回復していない視線と銃をそちらに向けた。だがそれはあまりにも遅い。彼らの視線の先にはもう獅道はいない。音もなく回り込み男たちの背後に回った獅道に誰も気付けてもいない。ただ一人をのぞいては。



 破砕音が鳴り響き、続けてガラスの割れる音、悲鳴などが響き渡る。青葉にとってその場は地獄そのものだった。元々地面に突っ伏して目を閉じていた青葉はこの時点でまだ意識を朦朧としていたが、強烈な悲鳴によって一気に覚醒させられる。そして広がる赤、赤、赤、赤、すべてが赤く染まった世界。

 未だ目と耳をやられて動けない美月と、両腕から血を垂れ流し地面にうずくまる男。後は死体。幾つかに切り刻まれ、元が人間であるのかすら分からないが肉塊から流れる鮮血が床を真っ赤に染め上げ、青葉たちもその中にいた。


 そしてその中心でにらめあう男が二人。


「チッ、ナイフはフェイクか。まさか単分子鎖のワイヤーとはな」

「アンタこそそのナイフ、中国軍からじゃあ禁制モンだろう?」

「メイドインアメリカだよ。くそ、高ぇんだぞ、これ」

「あっそ」

 ユン・ロンがナイフを振るとヴゥウンと音がした。魔術による高出力モーターの小型化が成功しているといえ、民生で出回っていない高周波ナイフの市場価格はバカにはならない。

「そんであんたがユン・ロン?」

「そうだけど、テメェはあのイカレタ名前の組織の実行部隊ってところか」

「うん。だっさいよねえ、関東魔王軍」

「正気を疑うな」

 ユン・ロンが笑う。

「それでそこのヤオが生きてるのは俺らを引き付けるためだろうってのは分かるんだが、他は殺して俺は腕を切り落とそうとしただけなのは殺す意志がないからってことでいいのか?」

「そうだね。まあ生かすのはさっさと逃げたフェイ・アジャンとどっちかだけでいいって言われてるんだけどさ」

 ユン・ロンが眉をひそめた。

 獅道は両手のナイフを握り構える。一瞬だけナイフの柄と柄の間に糸らしきものが光った。

「あっちは『多分助からない』だろうし、あんたは殺さないでおくつもりだけどどうする?」

「クソが」

 ユン・ロンがナイフを床に落とす。

「あー聞き分けいいね」

 嘯く獅道にユン・ロンは睨み上げる。

「ナイフのモーターがもう焼け焦げてやがるんだよ」

 落ちたナイフからは若干の煙が上がっていた。

「それにどうせ薬はフェイさんしか場所わかんねーんだ。あの人が逃げ切れれば問題はねえさ。おら、さっさと縛っちまえ」

 そう言ってユン・ロンは血だまりになっているところから少し離れた床に腰を下ろして腕を突き出す。獅道はその腕を取り出したロープで厳重に縛っていく。

「けどな。あの人が上に掛け合えば戦争だ。瀕死同然のヤクザ連中を従えてる程度じゃどうしようもねえぜ?」

 ユン・ロンは目の前の腕を縛る獅道に叫ぶ。

「別にそっちから仕掛けてくるってんならこっちにとっても好都合ではあるんだけどね」

 だが獅道はそれを笑って返す。

「ただ仲良くやれる可能性があるなら、その材料を提供するように言われたんだよ」

 獅道はユン・ロンの頭をつかみ、強引に血だまりの場を見せつけた。

「な、あんたらが望むならこの光景をいくらでも量産するし、俺は出来るよ」

「くっ」

 関東魔王軍。冗談のような名前だが、それが関東で大きく勢力を伸ばしている組織の名であった。暴対法により解体を余儀なくされた日本国内の暴力団に代わり、元より根を張っていた東亜大陸系の中国マフィアと、アメリカのゴリ押しで介入しているメキシコマフィアが台頭しているのが昨今の状況だった。しかし突然現れた関東魔王軍という組織は、それらを相手にまったく対等に抗争を繰り広げているのだという。

(その理由が魔術特化の戦闘部隊があるためだとは聞いていたが)

 十中八九、目の前のこの少年がそれなのだろうとユン・ロンは理解した。

「まあアンタに関しては取り合えずは命の保証はされてるんだから大人しくしてた方がいいよ。暴れるようならテキトーにチョンギルぞ」

「分かってるさ。ひでえガキだ」

 ユン・ロンの言葉に獅道は苦笑する。まったくその通りだと獅道も思うからだ。

(あとはこっちか)

 そして獅道はユン・ロンから視線を高校生の二人組に映した。

(やっぱりそうなんだよなあ)

 さきほどの解像度の低い映像では確証まで持てなかったが目の前の二人は獅道の通う高校の制服を着ていた。

(もっとも、よくよく考えればおかしな話でもないか)

 この地域は獅道の生活圏内で、高校は付近には5つしかなく、男たちはこの辺りで高校生を拉致したのだろうから1/5程度の確率で浚われるのは獅道と同じ高校の生徒になるわけだ。

「とはいえどうしたもの…かな?」

「ヒッ」

 獅道が声をかけると女の方が軽くうめいて男に抱きついた。

(まあこんだけ怖い目見ればな)

「ハァ…青葉くんだったっけ? 二組の」

「え?」

 ギョッとしたように青葉は獅道を見る。この状況は青葉にしてみれば災難から別の災難に襲われた以上の認識はなかった。外国人に拉致されること自体が既に青葉の精神を混乱させているのに、さらに目の前で虐殺劇が行われては仕方のない話だった。

 そんな状況だから相手から声をかけられたことにも驚きだし、よく見ればそれが知っている顔であったのにも尚驚きであった。

「あんた、蛇神」

「ああ、俺のこと知ってるのね」 

 獅道は観念したように呟いた。そして

「ま、さよなら」

 パチンと指を鳴らすと青葉は崩れ落ちた。

「悪い夢だと思ってくれればいいけどね」

 記憶の操作は熟練の術師でも難しい。やりすぎれば廃人と化す上に、効きが弱ければ何かのきっかけで元に戻る。

(フラッシュバックを考えると退くしかないか)

 獅道はこれからのことを思うと気が重くなった。

「それで」

 獅道は青葉の後ろを見る。

「は…ハハハハハぁああははははは」

 プツンときてしまったのだろう。獅道の呼び掛けに瞳孔を開きながら笑い転げる美月は獅道から見ても全く正常ではなかった。

(やりすぎたな)

 拉致されて犯されかかって身も心も疲弊しきった女子高生にさあらにこの光景を突き付けたのはさすがに酷だったとは獅道も思う。ともあれ

「戻るかな、これ」

 久々に母親の手を借りた方が良さそうだと獅道は再度ため息をついた。


※※※※※※※※※


「旦那、坊ちゃんから連絡がありました。ユン・ロンとフェイ・アジャンの両名を拘束。佐山経由で今運んでいるそうです。ただフェイ・アジャンはちょっと使い物にならんそうでして」

 まるでどこかの宮殿のような豪奢な室内で男が二人会話を交わしていた。1人はどこか猛獣を思わせるようなサングラスをかけた筋肉質な男。左頬に刻まれた傷が男の獣性をさらに引き立てていた。

「そうか、ご苦労様。それで沖田、フェイ・アジャンが使い物にならないというのは?」

「例のごとく、あのイカレ女がブッ壊したそうです。薬についてはこちらで調べるとは言ってたんですがね」

 沖田と呼ばれた男は忌々しそうに口にした。

「だが黒血虫のありかは分かったんだろう」

 黒血虫。ユン・ロンたちの組織の製品のひとつであり、プラント型と呼ばれる、麻薬を体内で生成させる遺伝子細工の一種である。

「へい。亀井会の倉庫に隠してたそうで」

「亀井会? あの老人が我々を裏切るとは思えないがな」

「亀井の爺さんとこの若い連中がいくらか掴まされて動いてたようですね。爺さん、ブチギレてましたが」

「また指を詰めさせるなよ」

「ま、注意はしておきますがね。あの爺さん、人の話聞かねえからな」

「それで先方の様子はどうだった?」

 旦那と呼ばれた長い白髪の男が尋ねる。

「上々ですかね。まあヤン・ウーヂェンなら手堅くやるでしょう。兵隊はいつでも送れるっつー話はしましたが奴さん、なかなかに慎重なタチでしてね」

「内々でカタをつけるつもりだろうが、そうもいかんよな」

「ですな」

 男の言葉に沖田は首肯する。

「手配は任せる。我々の介入を外部に示さねば進むものも進まんよ」 

「あっちも火種には事欠きませんからな。まあテキトーにいじってみますよ」

 男もそれに頷いた。

「ところで旦那、坊ちゃんのことなんですが」

「獅道がどうした?」

 男が首をあげる。

「今回の捕り物で坊ちゃん、ご学友に仕事の現場を見られてしまったようでして」

「見られた? まさか仕事に仲良く連れて行ったわけでもないだろう」

「どうも連れ込まれてたらしいですな。連中に」

 そう言われて男は頭を掻き上げる。

「ああ、あの場所は獅道の学区の近くだったな」

「運悪くバッティングしてしまったようで。ま、それで助かったのですからお友達にとっては運良くってぇ話なんでしょうが」

「とはいえ、あれを見られたか?」

 沖田は頷く。

「今回のオーダーは少々過激でしたからな。女の子の方は奥様の手を借りないとダメなほどだそうでして」

「なるほど。相変わらず容赦なくやったんだろうな」

 男が軽く笑う。

「笑い事じゃあありませんよ。どっちも術はかけますがフラッシュバックを考えると顔はもう会わせない方がよいでしょうな」

 残念そうな顔で沖田は男を見る。

「高校入学から半年か。持った方だったのかな」

「卒業する気満々でしたからね坊ちゃん。いっそこっちを専念してもらいてえ気持ちもありますが坊ちゃんもお年頃ですから」

「アイツには裏方ばかり回ってもらっても困る。だが、まあいい。ちょうど良い話がきていたしな」

「と、いいますと?」

「急に来たので正直今やるべきか悩んではいたんだが、まあ予定が繰り上がったと考えれば寧ろ良かったと思うべきだろうな」

 そういって男は笑う。

「それ、大丈夫なんですかい?」

 その男の顔に沖田は冷や汗を流しながら尋ねる。男がその笑い方をするときは大抵ろくでもないことを企んでいるときだと沖田は知っていた。

「かわいい子には旅をさせろというだろう。そろそろそういう時期なんだろうよ」


 魔術があることが前提の2022年。魔術は一般的には工業製品における機能の小型化などで利用されています。軍隊は魔法を無効化し通常戦闘に持ち込む戦術が基本で、魔術を実戦に使用してるのはアンダーグラウンドな人たちくらいな感じです。

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