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獅道戦旗  作者: 紫炎
14/15

◇終章 魔王の息子

 リダの歴456年 金色狼の月 10日


 その日のことはおそらくは後世に残る伝説になると人々は確信していた。


 10日、交易都市シンラは大戦中ですらめったにない大きな危機が迫っていた。それは腐食領域より飛来した幾千万の獅子翁虫の群れ。かつて英霊協会が総力を挙げても抗することすら出来なかった魔獣で、本来であれば街は翌朝には消滅しているはずだったのだという。


 しかし奇跡は起こった。


 16年前の大戦を終結させた英雄の一人、四聖のディクス・ガイバーンはかつての失敗を糧に今日この日のためにある技を生み出していた。その名は『火龍王獄炎殺サーモバリック爆斬』。自らの魂を削ることで繰り出す、その最終奥義を用いてディクスは見事獅子翁虫の群れを討ち滅ぼした。そして街は救われたのだ。


 目撃者の証言に寄ればディクスの放った最終奥義の威力はすさまじく、その技が放たれる度に巨大な炎のキノコ雲が現れたのだという。また巨大な壁に覆われた街の中にいる市民ですらも最終奥義のものであろう雷鳴のごとき爆音を幾度となく耳にしていた。


「戦いから戻ったディクス・ガイバーンの全身は血で染まり、その疲れ切った表情が最終奥義の代償を伺わせた…だとよ」

 朝一で届けられた新聞を投げ捨てディクスはレイラに愚痴った。

「魂を削る最終奥義とかなんだよそれ。火りゅう王ごくえんさんさもるなんとかって誰の技だよ」

「貴方のですよ。『命を削りすぎて』もう『全開では撃てない』ことにはなっていますが茫々で聞かれるでしょうし名称くらいは覚えておいてください」

「…マジかよ」

「ははは。やられたもんだなぁ、ディクス。さすが俺の息子だぜ」

「うるせえよ。笑えねえだろファーン」

 ディクスとレイラの前には獅道をややごつくしたような風貌の勇者ファーンの姿があった。

「あんなもの、人間技じゃねえだろ。あれがてめぇの言っていた『カクヘイキ』ってやつなのか?」

「いや、違うみたいだな。俺のいた頃だと聞いたこともない爆弾だったよ」

「ま、お前さんの息子はこの街を一瞬で灰に変えるだけの力をお持ちってことだな。あーもう、トンでもねえ。なんであんなのが来ちまったんだ。あれじゃあ戦力の均衡なんぞ一瞬でご破算じゃねえか」

 ヤケグソ気味にディクスはボヤく。

「というかお前聞いたぞ。あの魔王野郎にユーリとられたそうじゃねえか」

「うぐ」

「大体シドウだってお前のこと父親だって思えないって言ってたしな」

「うぉぉぉっぉぉおお」

 ディクスの反撃にファーンはその場で泣き崩れた。

「あ、マジで泣いてやがる」

「何をしてるんですか隊長。これから地区長たちの感謝の報告がありますのでノンビリも出来ませんよ」

「うわぁ、それキャンセルしてくれえねえ? 連中、朝からキラキラした目で俺のこと見てくるからキツいんだけど」

「それが取り決めですからねえ。ま、左腕がまだ本調子じゃないのは本当ですし置物になった気分で我慢していてください」

「くっ!?」

「彼らがこうしていられる今を作ったのは確かなんですからそれぐらいはやり切りましょうよ。魔王の息子の左腕様」

「分かってるさ」

 ディクスは苦虫を噛み潰したような顔で答える。

「ああ、そうだ。ファーンよ」

「うぐ、なんだよ?」

「お前、ユーリには会ったんだよな」

 ディクスが聞いた話ではファーンは神域の門をくぐりあちら側の世界へと渡ったのだという。

「ああ…会ったよ」

「あいつ、どうだったんだ?」

 ファーンは諦めた顔でディクスに返答を返した。

「幸せだっていってた」

「…そうか」

 16年前、後に四聖と呼ばれた三人は自身等の無力に打ちのめされていた。自分たちが英雄と讃えられるたびにそれを否定する声が内から発せられた。

「ならいいさ」

 だから、ディクスはその『借り』を返せる今があることに感謝する。

「ま、あれが何を考えているのかしれねえが、付き合えるところまでは付き合ってやるよ」


※※※※※※※※※


 サーヴァス学院宿舎。

「サーモバリック爆弾。瞬間的に燃料をばらまいて一気に爆発させる、日本では燃料気化爆弾って呼ばれるモンだよ」

 獅道が昨夜の疲れから目を覚ましたのはもう昼を過ぎた頃だった。

「爆発半径8キロとかいうアレっすか。ゾンビの街をよく壊すヤツ」

「ゾンビは知らないけどそれはデタラメだよねえ。ゴーンナイトで精製したのは一つ半径300メートルほどのタイプのヤツ。親父が旧ロシアのブラックマーケットでレシピを見つけたらしいんだけど」

 闇の精霊における最上位『虚ろなる刃 ゴーンナイト』、黒神ラスタナシェルの愛剣とされるソレの正体は武器という概念そのもの。構成さえ分かれば作成できないものはないのだという。

「それをいくつも精製して竜の背中から射出の魔術でブン投げて絨毯爆撃くれてやったわけ」

「あーあーファンタジー舐めてますよね、マジで」

 モナカがため息をはく。

「いいじゃない。どうせ勇者と魔王の決着もついてて俺らはその後始末係だもの。こっから先は人間同士の殺し合い。そうなる前に首筋にナイフを突き立てておくぐらいのことをする必要はあると思うよ」

「抑止力、なりますかね」

 アシェラドの問いに獅道は微妙そうな笑いを浮かべる。

「そうせざるを得なかったとはいえ、元より予定してたことのひとつだからね。相手がそう考えてくれることを願いたいよ。おかげでゴーンナイトも随分削れちゃってしばらく休ませてあげないといけなくなったけど」

「坊ちゃま。次に何事かございましたら、わたくしがおります故に」

「ああ、そのときは頼りにさせてもらうよ」

 ゴーンナイトへの敬意を強く持ち、代わりの役目を行えなかったアシェラドの言葉に獅道はそう答える。

「まあ、あれを使うような機会は当分ないだろうけどな」

「しかし魔族には知られたハズでしょう」

「うん。顕現したのを感知できるらしいからね。今の状況なら彼らはディクスさんを狙うはずだけど」

「『火龍王獄炎殺サーモバリック爆斬』っすね」

「顕現の時期が分かるなら気付かないはずはないからね。ディクスさんにはおとりになってもらおう」

「本人もノリノリだったっすしねえ」

「まあ相手が魔族だけだと思ってるからね」

 獅道は若干罪悪感を覚える。本命は魔族などではなくもっと別にある。

「もっとも今は戦えないからファーンさんがさっさといてくれるのは助かったよ」

「なんでも息子さんに会いたかったから早く戻ってきたらしいっすよ」

「へえ。そうなんだ」

 モナカの意地の悪い言葉にも獅道は淡泊に返答する。

「反応鈍いっすね。嫌いなんですか実のお父さん」

「別に…というのが正直なところだよ。親父は二人もいらないしさ」

「あはは、厳しいっすねえ」

 拒絶ではなく無関心。獅道の返答が恐らくはそのままのモノなのだと言うことをモナカは理解している。

「本当厳しいっすねえ」

 しみじみと言う。

「なんだよ、それ。まあいいや。俺、これから出掛けるから」

「デートっすか?」

「そんなところ。まあモナカさんが取り付けた約束だけどさ。今日は休校だしユリアさんとちょっと街に出てみる予定だから」

「へいへい。いってらっしゃい」

 手を振るモナカを背に獅道は外へと出て行く。



「それで、どうなのあの子?」

 獅道が出て行くのを確認したモナカはアシェラドに訊ねる。

「おや奥方様ですか」

 アシェラドは今目の前にいるのが誰なのかを一目で見抜く。

 ユーリ・シェルダニス、英雄の一人にして魔王の伴侶がそこにはいた。

「概ねは想定通りかと。成り行きに任せるのはいつものことですが、この時点でディクス・ガイバーンを仲間に引き込めたのは大きいでしょう」

「いざとなれば、アレの交渉も考えていたのだけれどね」

「『右腕』については次を待ちましょう。あの方が力を欲する機会は今後いくらでも出てくるでしょうし」

「そうね。ファーンの報告通りであるならばセフィリアは完全に黒。ディクスは魔族の脅威を餌に国家同士の協調を訴えたいのでしょうけど手の内がばれてる以上はそれに乗っかった上で途中で梯子をはずしてくるのは目に見えている」

「ええ。問題はいつ…ということですか」

「そう。少なくとも『私たちの計画』はそれが起きてからではないといけない。そうでなければ連中に餌を与えるだけになってしまうものね」

「『魔導国家シェルダニスの復興』と『魔王国家ゴーンの腐食領域外との国交の成立』。確かに百年のわだかまりを捨て去れるほどの共通の悪役が必要ではありますな」

「私とあの人の夢。もうここに帰ることは叶わないけれども、それでもあの子がそれを継いでくれることを祈っているわ」

「はい。その力になれるようわたくしも努力いたしましょう」

 アシェラドは恭しく頭を下げ、そう口にした。

(もっとも…)

 しかしアシェラドはその行動とは裏腹なことを考える。

(あの方がそのまま予定通りの行動をしてくれるとも思えませんがね)

 獅道が母親とは違う道を選んだ場合、やはりアシェラドは主たる獅道に従うことになるのだから。そして、その可能性は決して低くはないのだとアシェラドは心の中で呟いた。

サーモバリック爆弾を使用しているのは、ほかの爆薬に対して少ない重量辺りでの高い熱量を得られるのでゴーンナイトの変換効率が良いから…という感じで。

元ネタは全ての爆弾の父ですが、某あらいぐまの都市で使用されたようなイメージのフィクション兵器と考えていただければ幸いです。RPGで射出できるタイプもありますが映像見る限りだと対ゾンビには最適そうですね。


これにて獅道戦旗は一区切り。次の話では話の中にも出てきた巨獣との戦闘がメインとなりますが完成度は現状37000文字ほどで全体の2/5くらい。最後まで書き上がってから順に投稿の運びとなる予定ですので少々お時間を頂きます。その間に挿絵でも投稿できたらしたいなと思います。


それと次回は獅道戦旗本筋からは離れた、序章にあった創世神話の触りの解説のようなものを投稿する予定です。ファンタジーというよりは大宇宙時代を語ったSF寄りになりますがこちらもよろしく。

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