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女神来襲~女神様に助けてもらったが対価に王子を寄越せと要求された王妃の話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/10/19

『ああ、どうか、女神様、いえ、悪魔でもいいわ。助けて下さいませ。理不尽過ぎますわ・・・』


 祈りの言葉に悪魔の名を出したわ。

 女神様にいくら願っても叶えてくれない。


 そう思ったら、心の中に誰かの声が届いた・・・低い女の声だわ。





『知っているか?』

『誰?』


 この世界は多元世界の一つにしか過ぎない。あらゆる可能性が併存している。

 観測するまで神すら分からないのだ。


 この世界を統一する原理はまだ解明されていない。


 ヒモ理論も数学的に証明できるが、実験するには膨大なエネルギーが必要だ。


 つまり。



「貴様は理不尽と言うが、当然のことだ。不完全だからな」


「女神様は全知全能だわ!」


「違うな。この世界は完全ではないのだ。何故ならば、我は人族の女神、人を超える事はできず人智の範囲内で万能なのだ。女神がそう言うのだから本当だ」



「何を仰せになっているの?」


 ・・・思わず声に出して話しかけた。

 今、私の前に悪魔が現われている。


 ここは斬首台だったわ。『女神様、いえ、悪魔でも良いですわ。助けて下さいませ』と念じたら、


 女が現われたわ。

 砂漠の民の服を着て、髪は月夜のない夜を思わせる漆黒と思えば碧眼、肌は濃い。いえ、褐色、どこの民族か分からない。博物誌に載っていない。


 まさか、女神教典の五色人?


 心を読むように女は答えた。


「妾は人族の女神、故にこの惑星の全ての人族の特徴を備えている。女神教の発祥は砂漠だぞ?分かっているのか?」



「貴方は本当に何者ですの?」

「だから、女神だと言っておろうに・・・」


【おい、黙れ!】


 突然の罵声で現実を思い出した。

 私は・・・・斬首刑台に首を乗せていたのだわ。


「おい、罪人アステリア、何を独りで話しているか!」


 どうやら、王子達には見えないようだわ。


「気が狂ったのであろう。男爵令嬢殺害未遂の罪・・・後悔させずに死ぬとは残念だ」



 嘘、それは冤罪だわ・・・

 改めて女を見る・・・・宙に浮いているわ。

 また、私に話しかけた。



「助けてやらんこともない。報酬が必要だ」

「ドレスも宝石もございませんわ」


「未来でもらい受ける。貴様の一番大事な存在を寄越せ」


 大事な存在・・・何かしら。お父様、お母様、お兄様?・・・いや、分からない。



「刑を執行せよ!」


 陰が私の頭を覆ったわ。大刀の陰だ。

 殿下の号令で処刑人が刀を振り上げたのが分かる。



「無理強いはしないぞ。さあ、どうする?」


「わ、私は・・・助けて下さいませ・・・」


 すると、女は天を指さした。


 雷の轟きが響き。


 雷が男爵令嬢に直撃したわ。


「な、何だ。マリア!」

「「「マリア!」」」


 処刑人は雷を恐れ、剣をしまう。

 処刑場は騒然となった。やっぱりあの女は悪魔だったわ。


 だが、騎兵達が処刑場に現われたわ。あれは王の旗、直属の近衛騎士団だわ。

 殿下、第二王子のアルケルト殿下もいらっしゃる。


 彼は兄の前に立ち。文書を広げ叱るように王太子殿下に言い放ったわ。



「王命である!!カミーユ公爵令嬢アステリアは無罪!刑の執行を中止せよ!!」

「な、何だと!」


 私は騎兵達によって拘束具を解かれた。


「アステリア様!」


「第二王子殿下・・」

「はあ、はあ、父上を動かせました。証言の多くが買収されたものと判明しました」

「殿下が奔走して下さったのですね」

「公爵家の皆様も懸命に動いていました。私の働きなど些細なものです」



 何て謙虚な方・・・



「お慕い申し上げていました」

「まあ・・・はい」


 私は第二王子と結婚し。陛下は第一王子の不祥事を理由に退位した。


 私は王妃になったわ。



 そして、三年後、出産した。

 生まれたのは男の子だわ。


「アステリアよ!でかした!」

「「「「おめでとうございます」」」


 赤ちゃんの顔を見る。

 なんて、可愛い。


 ‘’一番大事な存在’’



「な、何者かぁ!」

「誰か!」

「警備の者、一体何をしていた!」



 えっ、あの時の女がベッドの脇に現われたわ。

 何て、不吉、まるで魔女だわ。

 護衛騎士が拘束しようとしても女が軽く手を払うと、騎士達は壁まで吹き飛んだわ。


 彼女は赤ちゃんの顔をのぞき込みささやいたわ。



「それがアステリアの一番大事な存在だな」


 声が低いが響く。

 背筋が凍るわ。

 私は虚勢を張る。


「まあ、あのときの方、残念でしたわ。私にとって一番大事な存在は陛下が贈って下さった加護付きのドレスですわ。それを差し上げます」


「嘘だ。赤子にアステリアのエモーションが注がれている。感じるぞ」


「金貨を差し上げますわ!」

「いらぬ」



 私は泣きながら懇願するしかなかった。



「ど、どうか、お願いします。坊やを取り上げないで下さい。何でもします!」


 すると、女は顎に手をあて、少し考えた後。こう言った。



「ほお、なら、妾の欲する物は不可能を可能にすることだ。『灰で編んだ縄』を欲する」


「灰で編んだ縄・・・ですか?」


「三日後、取りに来るぞ。それまでに用意しておけ」

「は、はい」



 また、女は消えた。


 王宮は騒然となった。

 私は陛下に全て正直に話した。


「そうか、そうだったのか。不思議と処刑場に向かうとき。道はすいていた・・・

 魔女の類いだろう・・・」


「陛下、申訳ございません」

「いいのだ。灰で編んだ縄を用意させよう。魔王軍来襲時と準じて布告を出せ!」


「「「「御意!」」」」



 王国中に布告を出した。


「騎士団を全て伝令任務に任じる。王国中から探しあてよ」

「御意!」


 工房、冒険者ギルド、金貨100枚の懸賞金をかけた。



 だが、誰も作れない。

 王国一の工房主も冒険者も見たこと無いと言う。



「なら、魔女を討伐だ。魔女はどこにいる!」

「陛下、魔女は・・・王都の女神教会にいます」


「な、魔女は教会を敬遠するのではないのか?」

「それが・・・・」






 ☆☆☆女神教会



 魔女は女神教会に乱入し枢軸卿の前に現われました。


『ほお、相変わらず枢軸卿は贅沢しているな。金の糸の刺繍の服を着ているとは・・・』


『魔女だ!聖騎士団よ。討伐せよ!』


 枢軸卿は討伐なさいましたが・・・



『な、何だ。剣が曲がった』

『矢が宙に浮かんで止っている』


 そして、聖女様達が聖魔法を放ちましたが。


『魔よ!滅せよ!』


 消えるどころか・・・


『だから、妾が女神と言っておろう・・・』


 全く効かず。

 逆に手をかざし強力な聖魔法を放ちました。


『ヒィ、まるで、女神様・・・』


 枢軸卿の椅子に座り。女神教会に居座っている状態です。




 ・・・・・・・・・・・




「現在、賢者達は魔女の正体を探っています。おそらく神級の・・・邪神であろうと・・・」


「探せ。金はいくらかかっても良い!」

「御意!」



 もう、どうしよもない。

 王宮は籠城体勢に入ったが、あの女に勝てる気が少しもしない。



「カゲよ。あの女を監視せよ!」

「御意!」




 二日経過し、あっと言う間に三日目になった。



 陛下は憔悴し切っている。


「アステリアよ。私も先頭に立って戦う。籠城の指揮を執ってくる。代わりにカゲの報告を聞いてくれ・・」

「はい・・・」

「すまない。産後なのに・・・」



 私はベッドで横たわったままカゲの報告を聞いた。


 絶望の話ばかりだ。



「王妃殿下、魔女は王都を歩き回り。いえ、突然、あちこちに現われます。全てを掌握しておりません」


「構わないわ・・・何かヒントになるのかもしれないわ」



「あの女は・・・貧民街に現われ・・・」



 ☆☆☆


『貧民どもよ!パンだ!』


 空からパンを降らせたり。



 貧民の結婚式に乱入し。


『何だ。祝祭にエールか・・・なら、妾がワインに変えてやろう』


 エールをワインに変えたりしております。



 まるで女神教典に記されている女神様の奇跡を何らかの方法で再現しております。




 ・・・・・・・・・・・・・



「まあ・・・それほど力があるのね・・・」

「王都市民から人気がございます」



 暴虐を働かないなんて、逆に恐ろしいわ。



「もっと、他に話はないのかしら」


「はい、女神教会に潜入しているカゲの話ですが・・・」




 ☆☆☆



 女の子が魔女に懐いています。



『あ~、あああ~!』

『ほお、可愛い子だのう』


 抱きついても嫌がりません。

 その子はマーシー、5歳です。知能に障害があり女神教会に捨てられ、焼却炉の番をして食事をもらっている子です。



『フムフム、ほお、今日も日没まで焼却炉の番をしていたのか。感心な子だ。偉いぞ。枢軸卿より働いているではないか?』


『あ~、ああああーーー』


 そして、炊事番に


『おい、お前、金をやるから、この子の食事を普通にしろ。時々お菓子もやれ』

『はい・・・』


 空間から金の延べ棒を取り出しあれこれ指示を出しています。



 マーシーはお礼に貧相な野草をあの女に贈りますが。


『あ~、ああ~』

『おお、花を贈ってくれるとは、野草か。マーシーは野草の美しさを知っているな』


 ええ、貧相な花でも大喜びです。






 ・・・・・・・・



【こ、これだわ!】



 私は確信した。この子にヒントがある。


「マーシーという子を呼び出しなさい・・・いえ、私が行くわ」

「王妃殿下、自ら・・・」

「教えを請いに行くのよ」


 あの処刑の時を思い出した。



『人智の範囲内で万能』と言っていたわ。





 ・・・・・・・



 三日目の23時59分にあの女は音もなく部屋に現われた。



「アステリア、契約に基づき赤子をもらうぞ」


 赤ちゃんのベッドに近づき乱暴に首根っこを掴もうとしたわ。

 ですから、私は。



「ご希望の『灰で編んだ縄』をご用意しましたの」


 ピクッと女は動きを止めたわ。


「ケリー、見せてあげて」

「はい、王妃殿下」


 メイドに恭しく盆の上に灰で編んだ縄を乗せて女に見せた。



「ま、まさか、人族ごときが用意出来るとは・・・」

「これでご退散下さいませ。希望があれば財物なら差し上げますわ」


 女は私の言葉を聞かずに頭を掲げ天井を見て叫びだしたわ。



【ああああ!この灰で編んだ縄を用意した者は知恵者に違いない!もし、人族が彼女を大事にしたら、人族は万全であろう。変な知恵をつけた!】



 そう叫んで消えた。


「王妃殿下!赤ちゃん。いえ、王子殿下は無事ですわ」

「ええ、やりましたわ・・・」


「でも、あの女、何が目的だったのでしょう」

「何か、最後の台詞は棒読みだったです」

「何か『彼女を大事に』と言っていました。まるでマーシー殿が用意したと分かっていた?まさか、それはないか?」


「いいのよ。私にはやることが出来たわ・・・・」




 ☆☆☆


 今日の夕方、女神教会のマーシーに会いに行ったわ。

 私はカーテシーをして教えを請うた。


『マーシー殿、どうか、灰で縄を編む方法を教えて下さいませ』

『あ~、あああー!』


 マーシー殿はニッコリ笑って、私の手を引き焼却炉に案内してくれた。

 臭い。でも、蓋を開けると、灰で編んだ縄があったわ。


『あ~、あ~』

『これ、これだわ』


 灰で編んだ縄ではない。炭火のように残り火で燃えた縄はまるで灰で編んだ縄のようになる・・・





 ・・・・・・・・・


 ドアの前で警備をしていた陛下が飛び込んで来たわ。



「アステリアよ!あの女は去ったと言うが・・・おお、赤子は無事か。いや、そう言えば名をまだつけていなかった」


「陛下、ゆっくり考えましょう」



 私はそれからマーシーのように障害のある子でも生活出来るように法律を作ることを提案したわ。

 まだ、計画の段階だけど、やってみせるわ。







 ☆☆☆神世


 一羽のフクロウが女神に話しかけた。彼は女神の地上の目だ。


「ホホー!女神様、少々わざとらしかったのではないですか?」


 女神はティーカップを置き。優雅にフクロウに返した。


「それぐらいやらないとわからないのよ」


「ホホー!また、異界の本ですか?」

「そうだ。弱肉強食では社会は滅ぶ。弱い者こそ守らなければならないのだ」


「ホホー!!アマテラス様がそんな優しい考えを!」


「その名を言うな。ヤキトリにするぞ。弱者が虐げられない社会こそ強いのだ。それだけだ」


 ・・・女神はマーシーから贈られた一輪の花を眺めながら言った。

 王国に初めて障害者保護法が出来たきっかけに女神が関わったとは誰も知らない。



最後までお読み頂き有難うございました。

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