追放されて辿り着いたのは、異世界転移者が経営するカフェでした
名前を借りました
フィクションです
「イケメンだから、ウェイターをして」
突然言われた言葉に、頭が『?』で一杯になった。
私は今、アドラステア王国のとある街のカフェで働いている。
生まれはメティス王国。テーベ公爵家の次男で、将来女王になるヒマリア王女の王配になるように育てられた。
私は、これまでの事を思い出していた。
「貴方とは婚約破棄するわ!」
私は、ヒマリア王女から婚約破棄された。
王女の隣には、浮気相手の男爵子息レダがいる。
2人は寄り添っていた。が、ヒマリア王女の婚約者は私、イオだ。
「私は真実の愛を見つけたの!邪魔しないで!」
邪魔したつもりはないが…
「貴方は真面目過ぎてつまらない。レダと一緒にいると楽しい。貴方の顔なんか見たくない!王都から出て行って!」
それが本音なのだろう。
私は最初から嫌われていた。
ヒマリア王女に言われ、私は王都を追放された。
ヒマリア王女は、レダと学園で出会い、恋に落ちた。
学園では、ずっと2人で過ごし、王女の執務は私に押し付け、勉強もしないでレダとデートしていた。
いつかは、こうなるだろうとは思っていた。
私は、2人が結ばれる為に、近いうちに婚約破棄されるだろうとは思っていた。
王都追放までは想像つかなかった。
…どこへ行こう?
今まで、王女の執務を代わりにやり、王配としての教育を受け、忙しくて、どこにも行けなかった。
あの王女と浮気相手がこの国を継いだら、もうこの国はおしまいだろうな…
国を回していたのは、宰相や文官達。
現在の国王も、ほとんど執務を投げていたから、それでやっていけると王女も浮気相手も思ったのだろう。
やっていけるだろうね。今の宰相が生きているうちは。
それなら、いっその事、この国を出るか。
東隣の国アドラステア王国は、小さいが、安定している。
南隣の国アマルテア帝国は、大きいが、内乱が絶えない。
よし、東隣のアドラステア王国にしよう。
私は、王城を出て、まっすぐにアドラステア王国との国境へと向かった。
普通に歩いていたが、よく考えたら国境まで遠いな。馬車でも10日は掛かる。
誰か、商人の馬車にでも乗せてもらえないかな…
情けないが、体力には自信がない。
そこへ、ちょうど後ろから荷馬車が通りががった。
私は、荷馬車の御者をしている、フードを被った人物に
「すみません!」
と大声で呼びかけた。
荷馬車が止まり、フードを被った人物がこちらを見た。顔はフードで見えないが。
「すみません…申し訳ないのですが、国境まで行きたいのです…もしよろしければ、貴方が行く所までで良いので、乗せていただけないでしょうか?」
私は、丁寧にお願いした。断られても仕方ない。
「貴方、貴族の人?」
意外にも、若い女性の声がした。
「はい。貴族です」
貴族が嫌いな平民は多いからな…断られるかも…
「うぉ〜!マジ貴族!」
女性が言った。
なんて?
「私、アドラステア王国から買い出しに来た帰りだから国境は通るよ」
「本当ですか?私は、アドラステア王国に行こうかと思っていて…」
「マジか!じゃあ乗りなよ」
軽いノリで言われた。
「ほら、ここに座りな」
荷台を指差した。私は
「ありがとうございます。助かります」
とお礼を言って、荷台に乗った。
私が座ったのを確認した女性は
「じゃあ動くよ」
と言って荷馬車を走らせた。
「本当にありがとうございます。私はイオと申します」
自己紹介した。
「私はエララ」
「アドラステア王国の方なんですか?」
「まぁ、色々あって、住んでる感じ」
「そうなんですね」
生まれ育った国ではなさそう。
「イオは?」
「実は、婚約破棄されて、王都から追放されたので、アドラステア王国に行こうかなと」
「婚約破棄!?マジか〜!大変だったね」
まさか、労られると思わなかったから、驚いた。
「え、まぁ…」
「じゃあ、行く所ないんだ?」
「そうです」
「じゃあ、行くとこ見つかるまでうちにいなよ」
「え?」
それはありがたいが。良いのだろうか?見ず知らずの私が。
「大丈夫だよ、襲ったりしないから」
「いや…え?」
逆では?
「追放されたなら、お金もないんでしょ?まずは、仕事探さないと」
「そう…ですね…ありがたいですが、ご迷惑では…?」
そんな都合の良い話があるのか?
「私も色々あったから、困ってる人は放っておけないんだ。困ってないなら良いけど…」
「困ってます。ありがとうございます。お世話になります。必ずこの恩は返します」
そんな訳で、私はエララにアドラステア王国へ連れて行ってもらった。
途中途中で野宿をして、ご飯を食べさせてもらった。
見た事のない、白い穀物?が塊になっている。
「おにぎりっていうの」
エララが言った。
「おにぎり?」
美味しそうに食べるエララにつられて、食べてみた。
塩気が効いていて美味しい。
ご飯を食べる時も、寝る時も、エララはフードを外さなかった。
国境ではエララの店の従業員として、何も言われる事なく入国できた。
私1人ではこんなに早く入国できなかっただろう。
また恩が増えた。
何をしたら恩を返せるだろうか。
アドラステア王国に入って3日。
埃っぽいメティス王国に比べて植物が多い。
見た事のない植物もあって、ワクワクした。
私達はエララの店舗兼住居に着いた。
街から離れた所にある、小さなカフェだった。店の周りには花壇があり、花を咲かせている。2階に住居があるようだ。
カフェのテーブル席で、エララが淹れてくれたお茶を飲む。
「ちょっと待ってて」
と言われたから待っていたが、何だろう?
「お待たせ。部屋の用意ができたよ」
私の部屋の用意をしてくれてたのか。
「ありがとう。用意までしてくれて申し訳ない」
「気にしない気にしない」
ついていくと、2階の部屋に案内された。
どこに厨房があり、どこに風呂があるかも教えてくれた。
途中でエララが買ってくれた着替えを、クローゼットに入れる。
「何から何までありがとうございます」
私は、頭を下げた。
追放された身で、こんなによくしてもらえるなんて。
「仮面◯イダーは助け合いでしょ」
エララが言った。
何とかは助け合いでしょ?
何とかの部分が分からなかったが、お互いに助け合うと言う事かな?
「私ができる事なら何でもする」
と、言ったものの、私が役に立つ事は、ほとんど無かった。
ヒマリア王女の執務と王配としての教育と学園での勉強しかしてこなかった。
掃除も洗濯も料理も、エララに教えてもらいながら、覚えていった。
初めてエララがフードを取った時は驚いた。
若い女性だと思っていたが、私より若い?
学生に見えるのに、1人で店を切り盛りしているなんて、すごいなぁ…
黒い髪と目の、可愛らしい女性だった。
荷馬車でフードを取らなかったのは、盗賊対策であると同時に、男から身を守る為でもあったのだ。
私はエララの家の掃除や洗濯、カフェが忙しい時に皿洗いや、配膳をした。
街から離れた店だが、そこそこお客さんが来た。
「珍しいな、人を雇うなんて」
常連の、冒険者風の男が言ったので、名前を名乗った。
「イオです。よろしくお願いします」
「俺は冒険者のガニメデだ。よろしくな!」
「マジ貴族を拾っちゃったんだ!」
エララは、ケラケラ笑いながら言った。
「マジ貴族かぁ…大変だなお前も」
同情するような目でガニメデが見てきたが、何が大変なのかは分からない。だが、ガニメデのお陰で、他のお客さん達とも上手くやっていけた。
「エララ1人だったから、心配だったんだよ。お前が来てくれて良かったよ」
エララが忙しくしている時、ガニメデがこっそりと話し掛けてきた。
「そうですか?」
「どうやら、別の所から来たらしくてさ、見慣れない服着てるし、この国の事を何も知らないし、あんな若いのに店やってるし、でも俺、冒険者だから、ずっとここにいるわけにもいかないし…」
別の所からきた?
「エララの事、よろしく頼むよ。兄としての、お願いだ」
「兄?」
「兄代わりだ」
「俺も兄代わりだ」
ギルド職員のカリストも、横から言った。
「ここに来る皆、兄か姉のつもりだよ」
エララは、常連客から、可愛がられているんだな…
「オムライスお待ち〜」
エララがテーブルに置いた。
「美味そう!」
ガニメデが歓声を上げた。
…美味しそう…
私にも運ばれてきたオムライスを食べた。
ふわふわの卵とトマトのソースが絡み合って、とても美味しかった。
おにぎりにして食べている米も、いつもと違う味で、米だけ食べても卵と一緒に食べても美味しい。
食器を洗いながら考えていた。
今でも思い出す。ヒマリア王女から婚約破棄を告げられた時の事を。
「私の何が悪かったのだろうか…?」
考えていると、すぐにエララに注意される。
「ほら!考えてないで手を動かす!」
真剣に皿洗いや掃除をしていると、過去の事を忘れられた。
エララは、店が終わった後、経理をし、アドラステア王国の言葉や歴史などを勉強している。
ある夜、眠れなくて、庭の散歩でもしようと歩いていたら、エララの部屋の灯りがついていたから、紅茶を淹れてエララの部屋へ持っていった。
「ありがとう!さすがイケメン!」
イケメンとは、顔の良い男の事だそうだ。
私は顔が良いのか…?ヒマリア王女からは真面目過ぎてつまらないと言われたが。顔の事は言われてないから分からない。
「眠れないの?」
「あぁ…」
「なら、そこで腕立てと腹筋しな」
「何をするって?」
エララが指差した所にはマットが敷いてある。
エララが見本を見せてくれた。
私は、どうにかがんばって腕立て伏せと腹筋運動を10回ずつした。
エララは、その間、読書していた。
「いつも読書しているのか?」
私は聞いてみた。
「そうだよ」
事も無げに言うエララ。
「偉いんだな」
「普通だよ」
「そうかな?」
「目標となる人は、もっとすごいよ」
「目標となる人?」
「私の目標となる人は、会社を何社も経営し、慈善事業をし、絵を描き歌を歌い、外国語を勉強し、読書をする」
「…すごい」
そんな人いるんだ…
「だから、私が読書するのは普通だ」
「それなら、私も読書しようかなぁ…」
今まで忙しかったから、読書もできなかった。
「何を読む?少ししかないけど、そこの本棚から持っていって良いよ」
「ありがとう」
少ししかないなんて、何の冗談だ。
私の背より高い本棚に、ぎっしりと本が詰め込まれていた。
「全部読んだのか?」
「下半分は。上の方は、まだ分からない単語とか文法とかあって読めなかった」
見ると、専門の歴史書や、経営や経済の本などだった。
1冊取り、パラパラと捲る。
メティス王国とアドラステア王国の言葉は、ほとんど同じなので、私でも読めた。
「読めそうだから、私が解説しようか?」
「マジ?助かる〜」
エララにそう言われ、嬉しくなった。
役に立つ事があって、良かった。
エララは、見た事の無い料理を店で出している。
料理も教わりたいな…と、グラタンなる物を食べながら思った。
「ピザだ!!」
ガニメデが叫んだ。
「待ってました!!」
カリストも叫んだ。
他の常連客達も騒いでいる。
騒ぐ程に美味しい料理なのだろうか?
常連客達の様子を見ていると
「おぉ〜」
一切れ取ったガニメデが、感嘆の声を上げる。
溶けたチーズがとろりと垂れて、湯気を立てていた。
「うめぇ~!」
あちらこちらで満足の声が上がっている。
「今日来れて良かった!!」
ガニメデが叫んだ。
他の客も頷いている。
…そんなに美味しいのだろうか?
「お待たせ〜」
私の前にもピザが置かれた。
エララを見ると、カウンターに戻ってピザを食べだした。
私も食べてみよう。
一切れ取ると、チーズがとろけた。
熱々だが、溶けたチーズは間違いなく美味しい。
パンのような生地とチーズがお互いの良さを引き立ててあっている。
…これは、騒ぐのも当然だ。
常連客達が、満足そうに帰るのを見送りながら、皿洗いに精を出した。
「私の何が悪かったのだろうか?」
「これからどうなるのだろう?」
私は、時々考えてしまう。
そういう所が真面目過ぎてつまらない…と言われたのだろうか?
「また考え事?」
エララに声を掛けられた。
「私の何が悪かったのかとか、これからどうなるのかとか、色々考えてしまって…」
「考えたら、どうにかなる?」
私は考えながら言った。
「…ならない…かな…」
「過去の事は変えられない。いくら考えても変わらない。これから先の事は、こうなりたい…ってのがあれば、それに向かってやる事やるだけ」
確かに、いくら考えても過去は変わらない。
「こうなりたい…っていうのはまだ分からないけど、もっと上手く掃除や洗濯や料理をしたいし、腕立て伏せと腹筋運動も、もっとできるようになりたい。
読んた事のない本を読みたいし、この街を散策してみたい」
私は、思い浮かんだ事を行った。
「良いじゃん」
エララに言われ、目の前が明るくなった。
「ありがとう」
私は、心から礼を言った。
「じゃ、イケメンだから、ウェイターをして」
「え?」
「テミストって覚えてる?女冒険者の」
「え?はい…」
テミストは、私より背が高い冒険者の女性だ。
「イオの顔見るとがんばれるんだって」
「え?」
顔見るとがんばれる?
「だから、イオがいる時を狙って店に来るって言ってた」
「そうなんだ…?」
「友だち連れて来るから、イオを店においといてって言われたんだよね〜」
私は置物なのか?
「別に、付き合いたいとかじゃないんだよ。見てるだけで良いから」
「見てるだけで良い?」
よく分からない。
「何もしなくても良いし、店にいるだけで良いからさ〜」
「それは……ずっと皿洗いしておけば良い?」
「いるだけって暇だろうから、本読んでても良いよ」
「…仕事をさせてほしい」
「ははは…そうだよね」
そんな訳で、私はウェイターになった。
読んでいただきありがとうございます




