仮面の下の本音
参加者達を監視するモニター室は、地下のさらに奥にあった。
無数の画面が青白く輝き、九つの個室を冷たく映し出す。
机の上には脱ぎ捨てられた狼の仮面が、灰色の毛並みを逆立てて転がっている。
机に突っ伏している男ーー神峰影次。
彼こそが、モニター越しに狼の仮面を被っていた男だった。
額に汗が滲み、ネクタイは緩く解けている。
神峰はため息をつき、画面に映る九つの影を見つめた。
一枝と二乃の言葉が、まだ耳に残っている。
数ヶ月前を、神峰は思い出した。
上司の熊田が、会議室のテーブルに肘をついて言った。
「国際M&A交渉には、嘘や駆け引きの達人が必要となる。そういった人材を発掘してくれ。」
神峰は眉をひそめた。
そんな人材が、世に溢れているわけがないだろう。
そう思った。
だが、そこから事態は狂った。
先輩の栗原が、スマホを弄りながら口を挟んだ。
「人狼ゲームってありますよね? あれ、嘘と駆け引きのゲームって聞くけど、そういう大会みたいなのやったら見つかるんじゃないっすか?」
熊田の目が輝いた。
「おう、いいな! それで、人狼ゲームってデスゲームみたいなイメージあるよな!? だったら、その参加者に死んだら死亡するとか言えば、極限状態での能力が見れるんじゃないか!?」
二人の話は、どんどん盛り上がった。
神峰が「それは犯罪では……」と口を挟もうとしても、二人は聞く耳を持たなかった。
熊田と栗原は、楽しげに計画を膨らませ、最後に揃って神峰を見た。
「じゃあ、そういう事で。後、現場は神峰君に任せるよ!」
神峰は目を丸くした。
言葉が出なかった。
ーーそして、今日に至る。
神峰は机に突っ伏したまま、額を冷たい机に押しつけた。
何故こんな事になったのだろう。
答えは出ない。
ただ、モニターの光だけが、淡々と九つの個室を照らし続けている。
一枝の怒号、二乃の指摘。
二人の言葉が、頭の中で反響する。
神峰は小さく呟いた。
「ガチ勢……怖い……」
声は、モニター室の冷たい空気に溶け、消えた。
仮面は机の上で、静かに転がったままだった。
九つの画面は、参加者たちの影を映し続けている。




