切り込む歩兵
一枝一馬が立ち上がった瞬間、部屋の空気が一変した。
彼の声は、コンクリートの壁に反響し、鋭く切り裂くように響いた。
「お前らの組織、アホなんか!? 人狼ゲームはそういうゲームと違うぞ!? なんでゲームの中で死んだ人間が死亡になるねん! お前、いてこますぞ!?」
狼の仮面は、微動だにしない。
ただ、スピーカーから漏れる声は、わずかに途切れた。
「それは……デスゲームだから……」
一枝はモニターに向かって一歩踏み出した。
苛立ちで肩の筋肉を震えている。
「人狼ゲームにそういうデスゲーム要素組み込んだら、ゲームとして成立せんやろが!?」
狼の声が、初めて怯んだように小さくなった。
「……えっ?」
部屋の九人は息を潜め、互いの顔を見合わせた。
四宮四季は両手を口元に当て、目を丸くする。
七瀬七海は髪を耳にかける仕草を繰り返し、息を殺して見守る。
一枝はさらに声を張り上げ、言葉を畳みかけた。
「アホなお前にわかりやすいように将棋で例えたるわ! お前、将棋の歩が『自分は死にたくありませ〜ん』とか言うて、ボイコット始めたらどうするねん!? お前、それ将棋として成立しとるんか!? 将棋とは違う別のゲームとなっとるんとちゃうんか!?」
狼の仮面の下から、声が震え始めた。
「い、いや……でも、我々の人狼ゲームは……」
一枝は手を振り払うように遮った。
目が血走っている。
「『我々の人狼ゲーム』は……って何やねん、ボケ! お前らの人狼ゲームが人狼ゲームで非ざる物になってるから、言うとるんとちゃうんかい!? そんなしょうもない人狼ゲームごっこやるんやったら、腕相撲大会でも何でもいいから、そっちで勝敗決めた方がええんとちゃうんかい!?」
六車六平は腕を組み、目を丸くして一枝を見続ける。
三木三郎は肩を落とし、画面を見つめたまま動かない。
狼の声は、ますます弱々しくなった。
「え、え〜っと……」
一枝はさらに畳みかける。
その声に、熱がこもる。
「しょうもない事に人狼ゲームを使ってるんとちゃうぞ! お前がやっとる事は、人狼ゲームを乞食に使った、半端デスゲームごっこなんと違うんか!? お前を一番最初に殺したろか!?」
部屋の空気が、凍りついた。
九里九郎の指先が震え、すぐに握り拳に変わる。
八雲八重は背筋を伸ばしたまま、息を止めていた。
狼の仮面は、沈黙した。
やがて、声が途切れ途切れに漏れ出た。
「えと……す、すいません……少し、皆さん待機していて下さい……上と相談してきます……」
モニターの光が、ぱちりと消えた。
青白い輝きが失われ、部屋はコンクリートの冷たい闇に沈む。
九人は互いの顔を見合わせ、言葉を失った。
ただ、一枝一馬だけが、息を荒げながらモニターを睨み続けていた。




