"相互捕食行為"
カーテンを引いた部屋に、二人分の荒々しい息遣い
先に相手の喉を捕らえたのは、躰格に劣る僕の方だった
喉に食い込んだ歯を伝って、口の中に海水の様な甘い液躰が拡がっていく
ごくごくと君の血を飲みながら、僕は顔中を真っ赤に染め、口元だけで嗤った
優勢は長く続かない
眼に指を突き刺される
僕は顔を押さえながら、初めて出すような声で呻く
怯んだ隙に、今度は君が僕の喉に噛み付いていた
振り返ってみると、僕の噛み方は優し過ぎたのかも知れない
君は僕の喉を噛むと、そのまま顎の力で僕の躰を持ち上げ、壁に叩き付けた
ただでさえ喉を圧迫されて苦しい呼吸が、背中を打った事で更に酸素を不足させる
汗が湧き上がる
躰が、ぐっしょりと冷えていく感覚
今なら、全身の汗腺の位置さえ正確に解りそうだった
朦朧とした意識の中、肉躰の反射で僕の四肢が意思に反して暴れているのが他人事のように解った
浮遊感
喉を持ち上げられて、次に叩き付けられたのは部屋のテーブルだった
フィクションの中でしか聞いた事の無かった、木材の壊れる音
一瞬だけ、両眼が眼窩の中で真上を指す
直ぐに両眼は正面に向き直り、続いて先程まで以上の酸素の欠乏が、僕を恐慌で包み込んだ
紅い咳の霧が、繰り返しごほごほと吐き出される
君は、既に喉をいたぶるのに飽きたらしかった
横向きに倒れて躰を曲げた僕に、君が性交のように跨る
僕は蹂躙された姿勢のまま、涙を浮かべて必死に君の躰を両手で押そうとした
君は、びくともしそうに無かった
拳が、側頭部を撃つ
はじめに拳の頭部への激突による痛みが襲い掛かり、次に、その頭部がフローリングの床に打ち付けられる衝撃
脳が揺れたのか暴力を受け過ぎたのか解らないが、瞬間的に僕は記憶を喪い、赤児のような顔で君を視た
首を片手で握られたまま、引きずり起こされ立たされる
無意識に、僕は君の頬を拳で打って居た
べちゃっ、という音と感触は、恐らく血を始めとした僕の躰液によるものと、後は生肉のような君の頬によるものだろう
事実として、君の頬は君自身の生肉で構成されて居る
不意の反撃に動きの止まった君を、足をかけて転倒させる
予想以上に大きい音がして、部屋が地震のように揺れる
家具がぐらぐらと揺れる
そこで初めて僕は、「ああ、人間が転倒したのだな」と現実感を感じていた
そのまま君に馬乗りになる
右手で鼻の下辺りを一撃、二撃
楽しい
叶うならこのまま、なぶり殺してしまいたい
あは……あはあ……と嗤いながら、君の顔を打つ
楽しい
しかし君が躰を捻じると、僕たちは横へ転がりながら完全に躰勢の上下が入れ替わった
上下の入れ替わりざま、眉間をしたたかに幾度も殴られた
隙間風の様な、音がする
それが自分の呼吸の音だと解ったのは、翌日くらいの事だった
瞳孔が開ききり、もう指先一つ動かせない僕に、君は乱暴に口付けた




