第三話「未来で一緒に逃げた“誰か”」
冬堂 要ーー。
四季がチームを率いていたときから、情報屋として何かと裏方を担っていた男だ。十方会になってもそれは変わらず、四季とは基本的に月一の報告会で顔を合わせる程度の間柄となっていた。
「なっつかしー!冬堂、顔変わんなかったんだねぇ」
急な会話の割り込みに、男の眉がぴくりと吊り上がる。
顔どころか全身から『話続けてぇんだが?』オーラが出ているのは他の二人から見ても明らかだったが、四季はお構いなしにニコニコしながら口を開く。
「これが童顔ってヤツか〜。元気してた?」
「シゴトの話遮ってまで俺をけなすメリットあんなら教えてくれよ、女王サマ」
呆れた視線をひとつ寄越し、冬堂の目はすぐにスマートフォンへと戻った。主に会話の相手は龍秋のようで、二人でスラスラと話を積もらせていく。
オレらヒマだねとこぼす夏ニに四季も頷きつつ、懐かしい顔ぶれが揃ったことに改めて目を見張った。
みんな未来じゃ死んだ目をしてるのに...この時は元気な顔だったのねーー。
そんなに私ブラックだった...?と未来の自分の所業を思い返すが、それはもうひどいもので。
気まぐれで末端に手を出しては即日お払い箱にしてみたり、傘下のクラブではvipルームでやりたい放題。気に入らないヤツは龍秋に言っておけば三日後には消えていたりーー四季にとっては、なんともオフホワイトな環境ではあったが。
「...あれだけ好き勝手してたらそりゃー殺されもするかぁ」
「いや、さすがに殺してはないけどさ。でも二ヶ月は入院すると思うよ」
「頭をなくした虎雷頭は烏合の衆だ。使えそうな奴は引き抜いておけ」
「そういうのがいたらもっと機能してるぜ、あそこは...」
ーー私今奇跡的に話に参加してた?他チームの話じゃないんだけどな。
発言でボロが出る前に四季は再び口をつぐんだ。すでに次の話題に移った龍秋と冬堂を眺めながら、短く息をつく。
「……なに?」
視線に気づいて四季が声をかけると、夏二は一瞬だけ目を逸らしてから、頭の後ろで手を組んだ。
「別にー。シキ、静かだなーって思ってさ」
「え、私いつもうるさい?」
「そういうのじゃなくてさぁ。なーんか雰囲気違う気がすんだよね」
夏ニからくすぐるような視線を向けられる。やはり何度見ても愛嬌のある顔をしているのだが、目が猛禽類みたいになってるぞと教えてやりたい気持ちに四季は駆られた。
「そんな目で女子を見つめなーい」
パシンッと軽く目の前にあるおでこを弾く。
...オレ変な顔してた?!と後から恥ずかしくなったのか、夏ニは口元を抑えながらスマートフォンに映る顔を急いで確認していた。
直感...よりかは野生の勘に優れる夏ニを横目に、目線を他の二人に戻す。いつまで堅苦しい抗争の話をしてるんだと口を挟もうかと思っていた四季だったが、いつの間にか話を止めじっとこちらに顔を向ける二人にようやく気づく。
「え、なに。ずっと見てたの?」
「...雰囲気が違うと言われれば...」
「確かに...そうだな...」
でしょー?!と夏ニが乗っかってくる。なんなの?この時の私はそんなに落ち着きがなかったって言いたいワケ?...いや、落ち着きはなかったかもしれない。だって三十歳と十五歳だもの!
訝しげな視線を向けてくる三人を、四季も負けじと見つめ返しながら、待ち受ける未来を思い返す。
ーーこの中に、ともに逃げていた”誰か”はいるのだろうか。
今もその顔は思い出せないのだが、有力候補なら間違いなく目の前の男たちなのだ。
「...ところで、もう私ってみんなとヤった?」
「「「...何を?」」」
突拍子もない発言すぎたのか、三人の頭の上にはクエスチョンマークがはっきりと浮かぶ。
……あ、そっか。
この時点では、まだ誰とも。
「なるほどね…」
――少なくとも。未来で一緒に逃げた誰かは、ここから始まる。




