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第一話「え、これタイムリープってやつ?」

物心ついたときには、パパと名乗る男が2人いて。小学生のころには「弟」を拾い、中学生になるころには「将来の右腕」をあてがわれた。


そこからは自分のチームを作って、ケンカや抗争に明け暮れながら負けたヤツらを飲み込んで、大きくしていった。


裏社会の女王と言われ権利や地位、金を思うままに築いた...シルクのような髪を腰まで揺らす彼女ーー日乃本(ひのもと) 四季(しき)は、破裂するような銃声が聞こえた気がして飛び起きた。


紫の瞳は見開かれ、一筋の汗が頬を伝う。

浅い呼吸。埃っぽい匂い。ーーけれど、痛みはない。


「...は?」


そろりと腹部に手を置き、ペタペタ触ってみるーーが。不思議なことに血はつかず、布地の上からでもわかる薄い体を撫でるだけだ。


「...ナニコレ」


たしかに撃たれた。腹とーー脳天。


死んだはずじゃ...と口を開いたところで、さらに少女は大きく口を開いて止まってしまった。


反転して映し出されているプラチナブロンドは腰までの長さがあり、肌はスキンケアをしたような瑞々しさでふっくらしている。身長は同性の中で頭2つ抜けていたが、そこは変わっていないようだ。


窓に映った自分を見ながら引き続き四季は固まっていたが、驚きで震える右手を唇に添えた。


「昔の...私...」


昔というのは組織(十方会)に膨れ上がる前、不良グループを率いていた時代のことだ。


このときの四季の見てくれは同性から見ても眩しいものであったが、相手が泣いて詫びたとしても、いたぶりを止めない非情さを持ち合わせることでも有名だった。


ぶつかったチームは例外なく再起不能にされ、

最後には“奴隷になるか、社会的に死ぬか”の二択しか残らないーー。

……などという、尾ひれ半分、事実半分の噂が、常に背中にまとわりついていた。


「え、これ……死ぬ間際のタイムリープってやつ?!」


さっきまで私、雨の降る路地裏で撃たれて倒れて、トドメ刺されたんだけど!?ーーと、周りに人がいたら今すぐ掴みかかって、肩を揺さぶって、何が起こったのか叫び出したい衝動を必死に抑える。


続けて四季は「あれ」と小さく声を漏らした。

胸の奥がざわつく。何かーー大事な何かを思い出しそうで、思い出せない。


そういえば、私なんで殺されたんだっけーー。


必死になって逃げていたのは覚えている。

でも、なぜ?

途中まで、誰かと一緒だった気もするのにーー。


名前も、声も、顔も。

“誰か”の手を握っていた気がするのに、相手の顔が、相手の記憶がーーそこだけぱっくりと切り取られている。


思い出そうとするほどーー頭がこんがらがっていく。


いずれにせよ何者かに殺された自分が、組織となる前のチーム時代に飛ばされたことだけは明らかだった。


まず何からしたものかと、四季は人差し指を右のこめかみに当ててポーズをとった。

行動するなら形からーーフットワークは軽いが、何かと気の多い四季のお決まりパターンだ。


「...人の上に乗ったまま、意味不明なことを言うな」


聞き慣れた——けれど記憶より少し高く、物言いたげな声が耳に届き、四季は反射的に振り向いた。


ブラインドの隙間から差す光が、短く刈り上げた銀髪に跳ねて眩しい。

怪訝そうに眉を寄せ、こちらを見下ろす男と視線がぶつかる。


「……タツアキ(龍秋)


その名前を口にした瞬間、心臓が一度だけ強く跳ねた。


タツアキーー(ふじ) 龍秋(たつあき)という目の前にいるこの男。

そういえば昔から、こうして見下ろされる位置にいたーー小難しい顔をしているのは昔からだったか。


しかし昨日までは黒のスーツを着て、長い銀髪を高い位置で一つに束ねていたはずなのに。一体どうして、10年近く前の風貌に変わっているのかーー。


「......やっぱりーータイムリープしたんだ?!私!!」


男を小学生のような、無垢な驚きに満ちた瞳で見つめる四季へ再び龍秋が眉を寄せ、いつもに増して意味がわからんと吐き捨てた。失礼なヤツと四季が唇を尖らせる前に、起きたなら退けというおまけ付きで。


そういえばーーさっきからやけに体が暖かい。じんわりとした心地よさは、体温で温まった布団に近いが、肝心の体温は四季のものだけではなかったらしい。


「ーーなんで私、上乗ってんの?」


「お前が人の昼寝中に乗ってきたんだろうが」


エー!?と可愛く驚いてみるが、龍秋は胡散臭いものでも見るように目を細めてきた。やはり失礼なヤツと唇を尖らせるが、このやり取りもずいぶん懐かしいと感じる。

ーー未来では上司と部下、それ以下でも以上でもない関係...のはずなのだから。


そうそう、確か呼び名はこうだーー。


「アッキー」


仏頂面には似合わない軽いあだ名。

加えて次の瞬間までが、いつもセットだった。


「その名前で呼ぶんじゃない」


思っていた通りの言葉を返し、それでも四季を無理やり退かそうとはしない目の前の男に、女の唇はご機嫌な弧を描いた。


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