第92話 仲間たちの登場〜伸子の原稿 5
台所でせかいをかえる Revolution Starts in DAIDOKORO
第92話 仲間たちの登場〜伸子の原稿 5
いつもよりりりしい伸子の声が、次の瞬間、急にかわいらしく弾んだ。
「――あら、みんなのおなじみ、シマエナガちゃんとキュンタくんも、どこかで一生懸命に作業しているみたいですよ」
スライドの中央には、つるはしを振るうキュンタくんと、そろばんをぱちぱち弾くシマエナガちゃんの姿。
「ぶるぶる、寒いよ……」
「鼻水、じるじる……」
「6たす6たす6たす……まだ1500にならないの? 大通りって1500メートルもあるのに!」
会場の後ろで凛がそっとつぶやく。
「本番はこれからだよ」
隣の響香が息をのむように目を見開いた。
次の瞬間――
スライドの裏から、黒子衣装の二人が現れた。そのうちの一人は、伸子の次女・未希だ。
キュンタくんとシマエナガちゃんの人形がひょこっと顔を出し、舞台の上でゆらりと動き始めた。
人形劇のはじまりだった。
「おみず! おみず!」
キュンタくんが、ぴょこぴょこと跳ねながら叫ぶ。
そこへ、博士の帽子をかぶったシマエナガちゃんが静かに語りかける。
「横浜のシステムが全国に広がることを決定づけたのは、札張での挑戦でした。もしあれがなければ、日本のインフラは今とは全く違う姿になっていたでしょう。そして、その成果を正しく理解し、責任をもって使い続けることが大切なのです」
キュンタくんが小声でつぶやく。
「ちょっと札張、北海道びいきじゃない?」
シマエナガちゃんはくちばしの端をきゅっと上げて――
「どうでしょう?」
そう言って、胸の前で銅メダルをかかげてみせた。
会場から小さな笑いがもれる。
最後にシマエナガちゃんが「えっへん!」と胸を張り、
キュンちゃんが「はーくしょん!」と特大のくしゃみ。
「……あれ? おちがないよ」
「おちは落ちてるよ」
ふたりが足もとを見ると、小さな水道管のパーツが転がっていた。
それを持ち上げ、カチリとつなぐ。
「おちも、つながった!」
会場に、温かい笑いと拍手が波のように広がっていった。
「森の手入れもしなきゃ」
きゅんたが呟くと、シマエナガちゃんがこくりとうなずく。
「水源林、だいじです」
やがてふたりの姿が静かに舞台袖へ消えていく。
残ったのは、あたたかい空気だけ――
ほんの少し胸が熱くなるような、やさしい余韻だった。
伸子の原稿は、そっと幕を下ろす。
伸子と響香が目を合わせた、その一瞬の先で、
物語は“夢のガーベラ鉄道”へと動きはじめる。
◇◆◇ あとがき ◇◆◇
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
どこかで、それぞれの「台所」から、小さなせかいを動かしています。
日々の中にある記憶や香り、音のひとしずくを、どこかで感じていただけたなら幸いです。
つづきは――
次話予告:『第93話 飛行機の中で見た夢〜青いガーベラ鉄道へ(仮)』
心のスイッチが、またひとつ灯ります。
◇◇◇
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お会いできたみなさまへ、心より感謝をこめて。
あなたの一言が、つぎの物語を運んでくれます。
―― 朧月 澪




