第82話 挿話 知覧 1
響香の父の育った町 知覧。
大きくなっちょっね。今年も来たっが と
町に人がこえをかけてくれた夏。
それは、昭和50年のころ。戦後30年をだったころだったけど、そのとき、そんなことは意識しなかった。
知覧茶を封をあけるとき、ときよりあの空がかえってくる。
台所でせかいをかえる Revolution Starts in DAIDOKORO
第82話 挿話 知覧 1
モナリザが来た年、知覧の盆踊りで、一緒に居合わせた光景が、よみがえった。
とはいえ、初対面のふたりにはかわらなかった。
けれども、真智子は、仕事をやりくりして、空港まで送ってくれると言ってくれた。
きのう、もう見納めだと思っていた知覧の巨大扇風機を、
たまたま、彼女の助手席から響香は、再び眺めることになった。
ときどき、ひとりで知覧茶を飲むときに、この空がよみがえる。
父は子ども時代の話をしなかったので、あれは夢だったのかもしれない。
◇
そこには、ぼくと、にいちゃんと呼ばれる青年が立っていた。
扇風機のまだない茶畑が、広がっていた。
にいちゃんは、初めてみかんの木を見た。
だから、屋敷で言ったんだ。
「にいちゃんのぶんもくれって。」
「うそつけ。」って、言われたから、ちゃんばらで勝負した。
勝って、もらった。
怒られたけど、にいちゃんとみかんを食べた。
にいちゃんは北海道ってところから来た。蝦夷のことらしい。
いつも、飛行機の練習に出かけていた。
◇
春に、庭に出てきた葉っぱをみて、にいちゃんが聞いてきた。
「かぼちゃ?」
わからないけど、ふたりで育てた。
葉っぱが六枚目になったところで、にいちゃんは先端の葉を一枚摘んだ。
「てきしん」っていうらしい。
てきしんとは、
葉にこれ以上伸びるな、わかれて次は花をつけろ、と教えることだという。
てきしんをすると、
葉は二手に分かれて黄色い花をつけた。
せんていもした。
二人で見ていたら、しましまがあらわれた。
思い出した。
ぼくが、庭で種を飛ばしたんだ。
夏は、川でそのしましまの立派なスイカを冷やした。
「こんなうまいもんは、北海道にない。」
と、にいちゃんは言って、リンゴの話を聞かせてくれた。
二人であっちこっちにスイカの種を飛ばした。
来年は、スイカ畑だ。
棚にあったみかんをこっそり二人で食べた。
みかんの皮と種をどうしようか、という話になった。
にいちゃんは種を引き出しにしまった。
みかんの種をポケットに入れた日。
にいちゃんは、二度とかえってこなかった。
にいちゃんは、みかんの種と飛んだ。
あれは、ぼくが10歳のころ、昭和20年の知覧のことだった。
昭和20年の翼が、飛んだ。




