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台所でせかいをかえる Revolution Starts in DAIDOKORO  作者: 朧月 澪(おぼろづき みお)
虹の輪の旅 2 

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第70話 崩れたジグソーパズル (伸子の長旅3)

台所でせかいをかえる Revolution Starts in DAIDOKORO

第70話 崩れたジグソーパズル (伸子の長旅3)


ジョーカーが出た日の夢は、白黒ではじまった。

シャッフルの音だけが、遠くで響いていた。


トランプがまたシャッフルされ、切られていく。


そして――ジョーカーが出た。


そして、トレーナーが帰ってきた。彼は明らかに怒っていた。


「何がルールだ。これがルール? これもルール? それもルール?」


トレーナーは大量の書類を机に叩きつけた。

机の上のスパム缶も羅針盤も床に落ちた。

キティがさっき瓶にいけたピンクのバラも、ごん、と音を立てて転がった。


「僕たちは、どうなんだ。ルールと戦っているのか?」


「伸子、ちょっとは意見を言ってくれないか?」


「丹念に書類に落とせば、きっと誰だってわかってくれる。それが君の言う意見だったよな。」


「もう、日本語でしゃべるのも疲れた。眠い。誰か、日本語で訳しておいてくれよ。」


バラ子が伸子の肩を抱いた。


「彼は疲れているのよ。」


無理もなかった。みんな徹夜続きだった。


――そっちのシステムに問題があるのは分かっている。

だから、私たちに見せてほしい。見れば、こんな私たちでも、解決策を見いだせるかもしれない。


それを伝えるために、何枚も何枚も現地語で書類を作った。

しかし、現地の人に突っぱねられた。


「介入しないでくれ。」

「そんなのは上の判断だ。」


その“上”だって、窓口の者は分かっていない。

どこの国でも、井戸番は大事な役職だ。場合によっては、一族の存続すら託されるというのに。


伸子は落ち込んだ。

けれど、トレーナーは大人だった。


しばらくすると、何事もなかったかのようにテーブルにつき、言った。


「ジグソーパズルをしないと眠れない。」


「富士山、きれいな山だね、伸子。」


美しい発音の彼の言葉。それだけで十分だと思った。みんなも。


キティが、「この瓶、水が一滴もこぼれないなんて、奇跡じゃない」と言い、バラをもとの場所に戻した。


けれど、もう一波乱あった。


「僕は、もう水道資料館には行かない。伸子、俺の分もチケット買って入ってきてくれ。別に伸子じゃなくてもいいんだけど。」


「僕が報告書は作る。あんなの見なくたって、ホテルで30分コピペすればすぐにできるさ。わざわざ、入口だけしか見れないなら、足を運ぶ必要はない。」


「それは違う。それじゃズルじゃない?」


伸子はそう思った。


「ディファレント。違う。」


トレーナーがまたテーブルを叩いた。


「だったら、どうすればいいというんだ!」


そう叫ぶと、テーブルをひっくり返した。



ほとんど完成しかけたジグソーパズルが崩れた。

富士の青と空の青が白いタイルの床にこぼれた。


バラ子がギタリストの肩をたたいた。ジェリーがうなずいた。


ギターの音が静かに流れた――いつか聞いた、映画の音楽だった。


みんなは黙々と、ジグソーパズルを組み直した。


もちろん、トムもいた。

トレーナーも、今度は黙って青いピースを集めて、横に渡した。


それが、救いだった。


それからトレーナーは、視察に行かなくなった。

自室で、マイクラばかりするようになった。

* * *


 次話へつづく


* * *


◇◆◇ あとがき ◇◆◇


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

どこかで、それぞれの「台所」から、小さなせかいを動かしています。

日々の中にある記憶や香り、音のひとしずくを、どこかで感じていただけたなら幸いです。


つづきは――


 次話予告:『第69話 カナリアの残響とベネチアの朝』

心のスイッチが、またひとつ灯ります。どうぞお楽しみに。


◇◇◇

感想・ブックマーク・評価などで応援していただけると、今後の執筆の励みになります。


お会いできたみなさまへ、心より感謝をこめて。

あなたの一言が、つぎの物語を運んでくれます。


◇◆◇

次回予告:『第71話 カナリアの残響とベネチアの朝』

◇◆◇

―― 朧月おぼろづき みお

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