表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
台所でせかいをかえる Revolution Starts in DAIDOKORO  作者: 朧月 澪(おぼろづき みお)
虹の輪の旅 2 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/106

第69話 夢のテーブルとシャッフルの音(伸子の長旅2)

台所でせかいをかえる Revolution Starts in DAIDOKORO

第69話 夢のテーブルとシャッフルの音(伸子の長旅 2)

1 カード


伸子は、この頃、よく夢を見た。


失った羅針盤。

スパムの缶。

古ぼけた木のテーブル。


そこに、ある大統領が現れ、トランプを切る。

シャッ、シャッ――

半分に分けてシャッフルし、また切る。

そして、一番上のカードをめくる。

パラリ――


カードの表には、旅の思い出が絵として浮かび上がる。

光がかすかに揺れ、木のテーブルに小さな影を落とした。


今日は、ジグソーパズルをしている場面だった。

トム、ジェリー、バラ子さん、伸子、ギタリスト、キティ、トレーナーの七人が集まり、富士山のジグソーパズルを並べている。


伸子の夢は続く。

今日はどんなカードが現れるのだろう。


大統領の手つきは、昨日と同じようで、少しだけ違う。

カタ、カタ――

シャッフルの音が木のテーブルに響き、失った羅針盤の針がかすかに揺れる。

スパムの缶は静かに光を反射し、空気の湿り気をほんの少し映し出していた。


一番上のカードがめくられる瞬間、空気が少し変わる。

木の香りと紙の匂いが、夢の間に溶け込む。


2 ハート3


今日は――ハートの3だった。


そのカードの赤い模様が、ほんのりと温かさを放つ夢。

カードの表面に、ふっと映し出されるのは、また違う旅の記憶。


今度は海辺の風景だ。

北海道の海とはまた違う表情を見せる、広くて温かく、どこまでも透き通った光景。


水平線まで続く青い海は、光を受けてキラキラと輝き、波が静かに砂を撫でるたび、眩しい白い泡が飛び跳ねる。

伸子は素足になって、小さな貝殻を拾い上げる。

波の泡が指先に弾け、砂浜と海の境界をどこまでも駆けていく。


太陽の光を受けた泡が虹色に瞬き、潮風が頬をなで、海の香りが胸いっぱいに広がる。

水面の光が踊るようにきらめき、伸子の心も軽やかに弾む。


「もう64よ。」


“So what?”(それがどうしたの?)と、皆が口々に返す。

伸子はくすりと笑い、肩をすくめて、少し照れたように砂を踏む。

フランス語で「Mais oui!(もちろん!)」と笑い、

スペイン語の「¡Vamos!(さあ、行こう!)」という掛け声も波に溶けていく。


トムもジェリーもバラ子さんも、笑い声を風に溶かしながら、波打ち際を駆ける。

泡立つ白い波が光を受けて瞬き、小さな貝殻が足元で跳ねる。

光の粒が空中で踊り、皆の笑い声が風に溶ける。

国籍も文化も関係なく、ただ無邪気に遊ぶ時間。


誰かが叫ぶ。

“Catch me if you CAN!(できるならつかまえてみて!)”


全員が笑いながら駆け出す。

伸子は波と光の間を跳ねるように駆ける。

まるで水面そのものに溶け込むような、軽やかで幻想的な感覚。


伸子はふと思う。

「このカードは、私の中の何を映しているのだろう?」


目覚めたあとも、胸の奥に波音と笑い声、きらめく光と波の泡、遠浅の砂浜の温かさが残っていた。



3 キング


二日目の夢。


次の日も、古ぼけた木のテーブル。

この日は、まだスパムの缶はない。


――そうだ。

スパムの缶は、みんなで食べようとトムが買ってきた。


写メを撮って、故郷にメールしたと言ったら、誰かが「それはない」と言った。

それからは、誰もその話に触れなくなった。

故郷にお土産ひとつ買うことさえ、少し気まずくなった。


また、古ぼけた木のテーブル。

木目のざらりとした感触が、夢の中で手に残る。


そこで、大統領がトランプを切る。

シャッ、シャッ――

カードを分けて再びシャッフルし、そして、一番上のカードをめくる。

パラリ――


キングのカードが出た日、ジェリーが言った。


「ジグソーパズルをしようぜ!」


伸子は、ジェリーを心の中で“中井くん”と呼んでいた。

さすが、平成・令和の気遣いリーダー、中井くん。


「やっぱり富士山の絵が一番いいと思って。いいだろ?」

「うん。ありがとう。日本の山を選んでくれて。」

「グランドキャニオンとか、フランスのエッフェル塔もいいと思ったけどさ。」ひとつ作ったら、また次やろうぜ。俺、すごくない? いい考えだろ?」


中井くんはいつもの調子でそう話すと、みんなも「しょうがないな」と笑い、ジグソーパズルを始めた。


そのうち、さっき何にケンカしていたのかも、わからなくなる。

問題の先送りと言われればそれまでだけど、伸子には、あの時あれが最善だったと思う。


中井くんに、拍手を送りたい気持ちだった。


4 終わりのカード


――失った羅針盤。

スパムの缶。

古ぼけた木のテーブル。


大統領がトランプを切る。

シャッ、シャッ――

半分に分けてシャッフルし、また切る。

そして、一番上のカードをめくる。

パラリ――


ジョーカーが出た日は、そこで終わる。


ジョーカーの絵が、秘密を知っているかのようにくすりと笑った。

木のテーブルの上に、静かに風が通り抜け、波の余韻と木の香りが残った。


* * *


 次話へつづく


* * *


 ◇◆◇ あとがき ◇◆◇


カードはいつも無言で、でも確かに“彼らの時間”を記録している。

夢のテーブルの上で、過去と未来がゆっくりと混ざり合う。

その音が、たぶん――シャッフルの音なのだ。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

どこかで、それぞれの「台所」から、小さなせかいを動かしています。

日々の中にある記憶や香り、音のひとしずくを、どこかで感じていただけたなら幸いです。


つづきは――


 次話予告:『第70話 崩れたジグソーパズル(仮)』

心のスイッチが、またひとつ灯ります。どうぞお楽しみに。


◇◇◇

お会いできたみなさまへ、心より感謝をこめて。

あなたの一言が、つぎの物語を運んでくれます。



―― 朧月おぼろづき みお

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ