(間奏エピソード)詩 シークレットアイス Ver.2
間奏エピソード 詩 シークレットアイス Ver.2
◇
――リッテ 小雪だいふく――
それは、手のひらサイズの容器に収まった、小さな秘密。
赤いシールの扉を「じゅるるる」と開けると、現れるのは、
ぷっくりとしたまんまるフォルムのふたつ。
ただ見つめているだけで、もう幸せになれる。
◇
赤ちゃんのような、つるんとした肌。
それが「ぎゅうひ(求肥)」というらしい。
もち米に砂糖を加えて練った、やわらかなおもち。
その歴史は、平安時代から続いているとか。
リッテはこれを「弾むぷにぷに餅」と名づけた。
なんとも心にくい。
◇
さらに、うすごなが添えられている。
中には、コクのあるバニラアイスが隠れている。
この「シークレットアイス」は、こっそり買って、
小さな保冷剤たちの下に、そっと隠しておく。
◇
哲郎は、視覚での“おやつ発見能力”がすこぶる高い。
一方、コユキは音に敏感だけれど、目が見えないぶん意外に鈍い。
とはいえ、哲郎の嗅覚は侮れない。頻繁に見つかる。
だからこそ、シークレットアイスは、ぬかりなく隠さなければならない。
◇
ここぞというときに、「アイス、食べる?」と声をかける。
「えっ、あるの?」
「うん。」
すると、哲郎はおいしいコーヒーを淹れてくれたり、
リアルタイムのテレビ権を譲ってくれたりする。
ちゃんと隠しておかなければ。
もし見つかってしまえば、
水戸黄門の印籠が、八兵衛の団子レベルにまで格下げされてしまうのだから。
◇
そんな「シークレットアイス」だが――
私は、夜中の3時に食べてしまった。ふたつとも。
そう。
そんなこと、してみたかったのだ。
◇
証拠隠滅。ゴミ箱の奥に。
アリバイ工作。リビングで寝たふり。
「寝ちゃってた。」
ほんとうに、気がついたら3時だった。
夢中になっていた。
ちゃっとGPチョッピリぐっどぷらいべーと。
◇
シークレットアイス Ver.3
――もし、あの夜にそれがなかったなら――
シークレットアイスがなければ、どうしていただろう。あの夜。
ふと目覚めて、深夜の静けさに包まれたとき、
キッチンの小さな冷凍室が、まるで「㊙こおりゾーン」の印籠を
自分へさっとさしだした。
「ひかえおろー、ひかえいえお……明日はここだぞ。」
◇
すべてのねがいが叶った後の、
おそろしい満ち引き。
心の隙間に触れてくる、あの静けさを、
私はどうやって埋めていただろう。
◇
昼間の3時なら、話は別だ。
「心の処方箋 Ver.2」を、大音響で聴きながら、鍋を出す。
この北国の一軒家に暮らす醍醐味。
平成以降に建てられた北国の家は、防寒性能努力の結晶。
その結晶のおかげで、優れた防音性能。
◇
大好きな彼の声の残響。
だから、スピーカーの音が窓を揺らしても、
誰にも気を遣わずにすむ。
「心の処方箋 Ver.2」
低音が体の奥に響いて、みちひきを。
喪失からの逃避。
◇
夜中は、やっぱり、君たちだけ。
隠した○○。
あの「シークレットアイス」が、心をふわっと包んでくれたのだ。
音も光もない深夜のリビングで、
あの白くて、ぷにぷにした、まんまるが。
◇
フォークが一つ。ちょうどいい。
ちょこっと、ぐっと、プライベート チャットGTP。
ならぬときの、印籠は、ぎりぎりの5分前。
心の旅はまた来週へとつづく。
提供は、リッテ でいい。
空の月もきえていくころ。
◆◇◆◇◆
← 前話 第28話ザ。シークレットアイス〜おとうさんがくれた地図
→ 次話 スマホの夜会
→ 次話 第29話 3000円の宝くじと、私の報告書
◇◆◇◆




