第27話 凛の誕生日会①〜謎のレシピの答え
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300グラムの鶏肉。
1本のバジル色のナス。
1/4個の白いカリフラワー。
1個のじゃがいも。
1.5カップのバスマティライス。
刻んだ玉ねぎひとつ。
輪切りのトマト1個。
そして、3カップの鶏のスープ。
◇
ぐるぐると回るアプリの中から、伸子が翻訳したそのメモ。
それは、「マグルーバ(Maqluba/Maqlouba)」という、中東の料理のレシピだった。
◇
「わあ、これ、料理のレシピ。」
伸子のスマホに、響香が送ってきた謎のメモ。
その正体が、この料理だった。
アラビア文字の余白には、たどたどしいひらがなとアルファベット。
──きょうか KYOKA
日付は「1972・11・7」。
響香には、まるっきりその記憶がない。
けれども──50年の時を超えて、
中東のレシピは、今、伸子の手でよみがえる。
今日は、孫娘・凛の誕生日。
台所でせかいをかえる Revolution Starts in DAIDOKORO
第27話 凛の誕生日会①〜謎のレシピの答え
◇ 凛の誕生会
まだ、すべての謎が解けたわけではなかった。
けれども、響香の予感は当たっていた。
その日は、伸子の孫、凛ちゃんの誕生日。
マグルーバは、彼女の誕生会に見事な彩りを添えることになる。
その朝、庭で摘んだばかりのバラ──ポンポネッラの花束を、
エルコンフィールドの庭で、響香はそっと伸子に手渡した。
「はい、伸子さんに。」
その瞳には、懐かしさと、どこか確信に満ちた光が宿っていた。
「本当に娘さん、そっくりね。伸子さんかと思ったわ。
今日は凛ちゃんの誕生日だから、なんだかここに来れば、会えるような気がしていたのよ。」
下準備をしている間、エルコンフィールドで、凛ちゃんを待たせて、むかいにくる話は聞いていたが、まさか、こんなにも思いどおりになるなんて。
──書いた願いは、やっぱり叶う。
二人は並んで、エルコンフィールドの庭を歩く。
「選び抜かれた**宿根草**の庭ね。
これから雪が降って、春が来て……そしてまた輝く。」
この日、秋雨前線の影響で、ぱらぱらと雨が降り、木々を静かに濡らした。
それがかえって、秋の終わりをひときわ美しく彩っていた。
「北海道に来たころ、花壇は、みな**一年草**だと思っていた。それも、秋までの命。
やっぱり宿根草を中心にした庭はいいわ。」
アルケミラやヒューケラの葉、グラスを見ながら、二人は視線をやった。
冬になって地上部が枯れていても、地下の根や茎が生きている宿根草。
それはまさに、花や葉だけでなく、雪や凍てつく氷の下でも、その生命の源を絶やさないということを教えてくれる。
「今年の雪は、早そうよ。」
「もうすぐ。こわいこわい**冬将軍**がやってくる。
シベリアにも負けない、厳しい冬が。」
「あと1か月もすれば、真っ白になるわね。」
「**根雪**になるのは、いつかしら?」
「そうね……」
「**モッコウバラ(もっこうばら)**は、やっぱり植えないことにしたのね。」
伸子は、一度だけしたこの庭のボランティアの植栽の話を思い出して、言った。
「モッコウバラ、試したい気持ち、よくわかるな。」
「たくさんのがっかりも、この庭には詰まっている。」
「そうね……」
少しの沈黙のあと、伸子がぽつりと呟いた。
「やっぱり、最初からこの庭のボランティアをやりたかったな。」
「いいじゃない。今からでも十分できるんだから。
それに、なかなかできないわよ。海外視察団に参加するなんて。」
また、少し時間が流れた。風は冷たかった。
「あのね。私ね、グリーンインフラをもっとつなげたいの。ここから。
もう世界では、あちこちでつながっているのよ。」
「水道の次はグリーンインフラ? なんだかすごいね。」
「これからよ。**万里の長城**を築いた大陸は、すごいわよ。
“グリーン・ベルト&ロード構想”っていうの。
日本は、遅れているって、素直に認めなきゃならないわ。」
突然話に出てきたグリーンベルト構想に少し戸惑いながらも、
「次のこと」を見据えている伸子に、響香はやっぱり感心した。
「そうなんだ。」
「結局、見れなかったけどね。万里の長城も。そこまでは、行ききれなかった。」
「まずは、旅のレポートを書かなくちゃ。
きたひろの図書館ホールで、子どもたちへの講演もあるの。」
「聞かせてね。……あら、凛ちゃんが待ってるわ。また来るわね。」
その言葉は、まるで秋の風のようにすり抜けていった。
会話の続きは、ひゅう、ひゅう、ひゅう……という風音だけが、静かに残った。
* * *
次話へつづく
* * *
◇◆◇ あとがき ◇◆◇
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
また次話で、お会いできましたらうれしいです。
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次回予告:「第28話 凛の誕生会②〜針と糸」
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―― 朧月 澪




