第24話 《挿話》凛の秘密基地
伸子が異国にいるあいだ、凛はよく児童館「めだか」に通っていた。
小学生になり通う回数は減ったけれど――そこは今も、凛にとって大事な“帰れる場所”である。
台所でせかいをかえる Revolution Starts in DAIDOKORO
第24話 《挿話》凛の秘密基地
♪
めだかの学校は川の中
そーっとのぞいてみてごらん
みんなでお遊戯しているよ♪
♪
さっぱり市手穂区には、この歌を思い出させる場所がある。
それが児童館「めだか」。
伸子の孫、凛がときどき訪れる場所だ。
◇
この「めだか」は、凛のもうひとりのおばあちゃん・春江さんがつくった。
児童館といっても年齢制限がないため、利用者の平均年齢は三十七歳――ちょっと変わった場所である。
◇
そんな「めだか」に秘密基地が生まれたのは、ほんの成り行きだった。
最初は、こっそりゲームをするための小さな隠れ家。
きっかけを作ったのは、厳島哲郎だった。
しかし哲郎は、いつしか来なくなった。
どうやら彼の何気ないひと言が、春江の地雷を踏んだらしい。
――とはいえ、そんな大人のさざ波が子どもたちの遊び場に届くことはない。
◇
凛が工作したくて、春江と一緒に「めだか」に来た日のこと。
きっかけは、旅先から伸子が送ってくれたお菓子の箱だった。
海外から届いたその箱は、捨てるにはもったいない。
凛は思わずつぶやいた。
「なにか素敵なものが作れるかも」
ちょうど遊びにきていた子どもたちが声を上げる。
「それ、秘密基地にぴったりじゃない?」
「『めだか』の中に特別な場所つくろうよ!」
常連の子たちはゲーム空間を作りたかったが、凛たちはすっかり基地作りに夢中だった。
けんちゃん。
一つ年上のあかねちゃん。
三人は《プロジェクト・凛》を立ち上げた。
◇
秘密基地の誕生
基地づくりが始まった。
リビング、台所、三人それぞれの小さな部屋までできた。
凛の部屋には、異国の香りがただよう。
伸子から届いた段ボールには、外国語の文字、大判の布、小箱……。
凛がひらめくたび、カラフルな空間が広がっていく。
けんちゃんは、日本の箱を集めてきた。
近所やスタッフを巻き込み、素材集めに奔走する。
あかねちゃんは、牛乳パック集めに夢中になった。
一リットルパックをメーカーごとに分け、詰め物をして積み上げる。
その整然と並んだ様子は、まるでドイツの街並みのようで、ただの廃材が誇り高い建築素材へと変わっていった。
◇
牛乳パックの未来都市
牛乳パックで作られた世界は、
一リットルサイズの長方形がきちんと並び、まるでドイツの街並みのような秩序とあたたかさがあった。
その“リットル牛乳レンガ”の作り方はこうだ。
ジップロックに水を入れて空気を抜き、
それを空のパックに差し込む。
するとたちまち、ひんやりと重みを持った“建築資材”が生まれる。
あかねちゃんは、その重さを
「メダカのうがいコップ2杯分」で測る。
基礎部分に使うときは4杯分の“ヘビータイプ”を作る。
「ヘビータイプ」の名は、あかねちゃんのひらめきだった――
“じゅしょう(十勝)”。
◇
メーカーごとに微妙に違う色味を活かして並べると、
それだけで未来都市の骨組みが浮かび上がる。
春には、桜の下の牛の絵が整列した。
秘密基地で最初に作られたのは、なんと“ロッカー”だった。
ドジャースのロッカールームをまねた、三人の憧れの棚だ。
ランドセルをならんでいれるその空間は、シニア児童を唸らせた。
◇
合言葉
秘密基地には“合言葉”があった。
「ひらけぽんぽっきー」
「おどるポンポコリン」
「ひょっこりひょうたんじま」
知っている子だけが入れる、特別なルールだ。
噂はすぐに広がり、基地は大人気になった。
三人は新しい仲間を迎えて、ますますにぎやかになっていく。
◇
未来の街へ
秘密基地での遊びは、いつの時代も「おままごと」。
令和の「おままごと」は、プロフェッショナルごっこへと変わり、
やがて「未来の街」づくりへと広がっていった。
――オフィス。
パソコンでテレワークごっこをして、画面越しに会議。
――カフェ。
タブレットで注文のやりとり。
ピザやパフェに笑い声が弾む。
――薬局。
箱のおもちゃ薬を棚に並べて、接客の練習。
上級生が持ち込んだドローンは街の“配達係”になり、
ソーラーカーは床に描かれた道路を軽やかに走った。
「めだか」の片隅で、未来都市はゆっくり育っていく。
アミューズメント会社もできた。
◇
ドームカラオケ大会
ドームカラオケ大会の構想が生まれたのは、凛とあかねちゃんの発案だった。
きっかけは、ふたりの好きな曲――おばあちゃんから教えてもらった昭和メロディー。
「札張ドームで道民運動会があるなら、カラオケ大会もあっていいよね!」
大会はエントリー制で、観客投票で歌う人が決まる。
おばあちゃんの好きな歌が会場いっぱいに響く日を、二人は本気で夢見ていた。
◇
こうして秘密基地は、子どもたちの小さな台所のような“創造の空間”になった。
小さな発見と遊び心。
そのひとつひとつが、凛たちの未来都市を育てていく。
* * *
次話へつづく
* * *
後書き
凛たちの秘密基地の扉を開けると、
そこには想像と遊びが渦巻く小さな世界が広がっている。
けれど、順風満帆とはいかない――
それもまた、子どもたちのリアルな冒険のひとつだ。
第25話《挿話》凛の秘密基地のその後
第26話《挿話》にんぎょひめ ― ひと晩、孫の凛と語る物語 ―




