表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
台所でせかいをかえる Revolution Starts in DAIDOKORO  作者: 朧月 澪(おぼろづき みお)
ピロリンの音と共に 2枚目の謎のメモ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/106

第11話 ピロリンの音とともに 虫たちの行列

台所でせかいをかえる Revolution Starts in DAIDOKORO

第11話 ピロリンの音とともに 虫たちの行列


響香の庭は、伸子の帰国によって、ふたたび明るさに満ちていった。


思い出のストリートアルバムが、久しぶりに耳もとでそっと再生されたみたいに。


音と色が、じんわりと庭に戻ってきた。


ようやく切った一輪のバラ、ポンポネッラをテーブルの上に飾る。


響香のキッチンからの視界に、コロンとしたローズピンクの蕾がゆっくりと――

たしかに、ひろがっていく。


台所仕事のわずかな隙間時間に、その姿を写真に収めようと、スマホを探した。


探した果てに、さっき着ていた庭用のジャンバーから、スマホを取り出す。


響香は、スマホの画面をじっと見つめる。


気づけばまた、伸子のLINEページを開いていた。


伸子の台所に飾られている薔薇――アンジェラの写真。


光り輝くキッチンのステンレス。

ふんわりとしたピンクのグラデーションの花びら。


わずかに見える中央の芯。

黄色い雄蕊たちの存在が、そのピンクの深さを語っていた。


旅の最中、とうとうコメントをよこさなかった伸子から、

二年ぶりに届いたメッセージ。


「色々見てきたけど、一番すてきなのは、ここだわ。」


北広嶋の自宅のキッチンの輝くステンレスと、庭のバラ・アンジェラの写真の下に添えられていた。


「伸子さんたら、チルチルミチルの青い鳥のようなことを言うのね。」


――幸せの青い鳥は、我が家にあると。


伸子のコメントを読み返すうちに、

響香の思考は、伸子のことでいっぱいになった。


結局、写真も撮らずに、スマホを人差しで下から上へと動かしているときだった。


これを「スクロール」という動作だと、つい最近覚えたばかり。


その最中――


「ピロリン。」


不意に鳴ったその音は、実家からのLINE通知だった。


「例の、謎の……」


添えられていたのは、幼い子どもの書いた、たどたどしいひらがな。


その下に、ミミズ、芋虫、そして長いしっぽの虫の絵。


何段にもわたって列をなし、ずるずる、もぞもぞ……と。


線は、ボールペンで描かれたような跡。

ときおり、くねりながら、紙の上を這い回っている。


行列の最後には、アルファベットの筆記体。

くるりと巻かれた線が、象形文字のようにも見えた。


そして、最後の最後には――


はっきりした数字。


1972・11・7。


まるで虫の行進。

右から左へ、ずるずる、しゅるしゅると。


その数字へと、じわじわ降りていく。


「これが、例の謎の……」


そうつぶやいた、そのとき。


手が、すべった。


「あつっ。」


よりによって、その“虫行列の写メ”を、伸子に転送してしまった。


あわてて、虫たちを人差し指で連打する。


「送信取り消しって……長押し、って……」


押せば押すほど、うまくいかない。


「あ、あ、あ……」


ミミズ、芋虫、そして長い長いしっぽの虫たち。

いっぺんに送り出されていった。


まるで何出茂薔薇子のいたずらみたいに。


先日送った「バラを抱えた女の子のスタンプ」も、画面に残ったまま。

響香は、それをまた、意味もなく連打した。


その瞬間。

画面に小さく、「既読」の文字が灯る。


「……また、やっちゃった。」


でも、その「既読」の光に、ふっと口角がゆるんだ。


響香は、椅子に腰掛け、伸子に電話をかける。


電話を切ると、キッチンの鍋から「ぐつぐつ」といい音がした。


玉ねぎの甘い香りが広がり、響香はスマホをそっと抱きしめる。


湯気が頬にふれて、思わず、笑みがこぼれた。


* * *


 次話へつづく


* * *

◇◆◇ あとがき ◇◆◇

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

また次話で、お会いできましたらうれしいです。

◇◆◇

次回予告:「第12話 ピロリンの音とともに――アンジェラの咲く」

◇◆◇

―― 朧月おぼろづき みお

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ