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7.「魔法の修行」

「魔法の達人ですか? それなら、フローズウォーレン公爵令嬢であるアイフィーさまの家庭教師をしておられるチーウィさまでしょう。王国一と言われる宮廷魔術師でいらっしゃいますから」


 流石にもうそろそろ魔法の修行をしたかったので問うと、レリナは迷わず一人の名を挙げた。基本的に平日の昼間に、俺と同い年で幼馴染みであるアイフィーの家に行けば、チーウィに会えるらしい。


「〝怠惰変態木馬豚〟があたしに会いに来るだなんて、珍しいじゃない」


 早速会いに行くと、アイフィー・フォン・フローズウォーレンは仁王立ちで暴言を吐いた。っていうか、その仇名を使うのは、うちのメイドだけじゃなかったのか? どっかから漏れたらしい。しかも、うちには無い接頭語までついてるし。


 ドレスに身を包んだ水色のツインテールの彼女は、氷魔法と雷魔法を得意とするが、氷魔法が好きなので、そちらばかり使っているとのことだ。

 

 なお、事前情報をくれたレリナは、今日は置いてきた。

 「私の目の届かない所で、二人っきりで会うだなんて。浮気ですね? いやらしい」と、冷たい視線をぶつけられたが、スルーした。いや、少なくとも三人はいるだろうが。


「ていうか、あたし忙しいんだけど。何の用なのよ?」


 高慢な態度に、俺は素早く思考する。


 レリナいわく、アイフィーは、魔王に殺された父親の敵討ちのために、必死にトレーニングしてきた。その結果、氷魔法はこの歳で既に最上級魔法まで窮めており、自分の強さに自負があるのだろう。


 こういう手合いには、分かりやすく下手に出てやった方が良い。


「頼む、お前の家庭教師を紹介してくれないか?」

「え!? あの〝怠惰変態木馬豚〟が、頭を下げた!?」


 驚きのあまり目を見開き後退るアイフィー。


「俺は魔法を修行して、もっと強くなりたいんだ!」


 理由を説明した上で、俺は更にもう一押しした。


「お前だけが頼りなんだ、アイフィー」

「! あ、あたしだけが……!?」


 アイフィーは、「ま、まぁ、確かにあたしは超有能だし?」と、目を逸らしながら頬を赤らめると、言葉を継いだ。


「しょ、しょうがないから、あたしが力になってあげるわ。あんたダイエットしたみたいだし、あんたなりに頑張ってるみたいだし」


 よし、上手くいった。


「チーウィを呼んだのは、お前なのだ?」


 アイフィーの執事が連れてきたのは、緑色ボブヘア幼女だった。


「失礼だが、本当に王国一と言われる宮廷魔術師のチーウィなのか?」

「本当に失礼なのだ。チーウィはチビと言われることを何よりも嫌悪するのだ」

「いや、それは言ってねぇよ」


 アイフィーはその反応に慣れているのか、「チーウィはれっきとした成人よ」と横から口を挟む。


「彼女はちょっと若く見られるだけよ」

「いやちょっとて」


 コホンと咳払いして仕切り直した俺は、早速用件を伝えた。


「チーウィ。俺はロガス・フォン・スイサジェドだ。頼みがあるんだが、俺に魔法を見せてくれないか? 全属性の最上級魔法を一度ずつ見せてくれたら、それで良い。最高の手本を見て、魔法の修行をしたいんだ」


 全属性を扱えるという、王国内で唯一――どころか、世界でも一人しかいないのではないかと言われる存在が、目の前の幼女もどき宮廷魔術師だ。


 チーウィは、「そんな面倒くさいこと、お断り――」と言い掛けるが、俺に向けて手を翳すと、「いや、待つのだ。これは――」と、何かに気付いた。


「お前、面白いのだ! 特別に見せてやるのだ!」

「おお! ありがとう!」


 全属性の魔法を発動出来るらしいから、もしかしたら、俺のステータスも覗き見ることが出来て、俺が転生者であることとか、俺の剣術レベルとかも把握したのかもしれない。


※―※―※


「おおお! スゲー!」


 チーウィは、フローズウォーレン公爵家の中庭にある訓練場にて、何度受けても壊れない魔導具の一種である的に対して、炎・水・氷・雷・風・土の最上級魔法を飛ばしてぶつけるところを見せてくれた。


 魔法は普通一つの属性しか使えないらしいから、彼女は化物だ。


 アイフィーは、「ま、あたしも二種類は使えるけどね!」と薄い胸を張る。


 ちなみに、彼女も〝剣魔闘大会〟に出場していたのだが、途中で〝半端な攻撃魔法は全て無効化する〟聖鎧と聖盾を装備したピュルピとぶつかってしまい、魔力が切れるまで魔法を放ち続けたが、かすり傷一つ負わせることが出来ず敗れたと、この家に訪れる前にレリナから聞いた(アイフィーは膨大な魔力を持っているらしく、決着がつくまでに結構時間が掛かったらしい)。


「ありがとう、参考になったよ」


 「これくらい、御安い御用なのだ」と、無邪気な笑みを浮かべる幼女にしか見えないチーウィ。横にいたアイフィーが、俺の視界に入り、何かアピールしている。


 ん?

 礼を言って欲しいのか?


「アイフィーもありがとうな、これで修行が出来る」

「本当、あたしが寛大で良かったわね」


 片目を瞑りながらアイフィーが応じる。


 イマ、録画出来たか?

《はい。貴方が頭を下げた瞬間からの全てを録画しています。今お伝え出来る情報は以上です》


 いや、出来ればそこは録画して欲しくなかったんだが……


 いずれにしても、イマによると、体内の魔力の流れも完全に把握して映像化しているらしく、俺自身の体内の魔力の流れも同様にイマが可視化、チーウィの映像と重ねることで、違いを明確化、そこに近付けるための練習を効率的且つ具体的に行えるようだ。


 こうして俺は、全属性の最上級魔法を訓練するための下準備を完了した。


※―※―※


 それから一年間。

 俺は、例の何度受けても壊れない的という魔導具と魔力増強剤を父に買ってもらい、魔法の修行を行った。


 流石、怠惰で変態ではあるが才能だけはあるロガス、なんと、全属性の魔法を習得出来てしまった。


 魔法の修行中は、魔力増強剤を毎日飲んでいた。

 これまたチート薬だが、やはりほとんどの者が飲まない。


 膂力増強剤と同じく、匂いを嗅いだだけで吐き気を催す程の不味さと、〝飲んだ後、気絶するまで魔法を発動し続けなければならない〟からだ。


 そこまで行って、やっと少しだけ魔力が増える。

 俺はそれを一年間続けて、常人離れした魔力を獲得した。


 魔法は、炎や氷柱など、発動後にその動きを操作出来るようになった。


「くっ! また駄目か……」


 これで自殺出来ると喜んだ俺だったが、自分に当てることが出来なかった。


 理由は分からない。

 本能的に、自分で自分を傷付けることを拒否してしまうのだろうか?


 こうなると、あと出来ることと言えば、斬撃と同じように、真っ直ぐ遠くに飛ばした後で追い付いて食らう、というくらいだが、斬撃で失敗している上に、既に動きを操作しても当てられないという嫌な実績もあるため、上手くいくとは到底思えなかった。


 う~ん……悩ましい……

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