表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/13

5.「剣魔闘大会で自殺」

 時は少し遡って。


 実は、イマから「勇者が〝剣魔闘大会〟に参加する〝可能性がある〟」と聞いた瞬間、俺は確信していた。


 あ、こりゃ参加するわ、と。


 俺が大量の〝破滅フラグ〟を持ち、あらゆるルートで死亡する悪役貴族だと言うなら、ここで勇者が来ない訳が無いからな。


 で、俺は思ったんだ。


 〝これは使える〟と。


 イマは〝雷魔法を得意とする勇者〟と言っていた。


 彼女に聞いたところ、聖剣は、〝雷魔法〟などの攻撃魔法を刃に食らうと、それを纏った状態で、自分の攻撃に転用出来るらしい。


「じゃあ、自殺に使えるじゃねぇか! しかも、〝魔法剣で自殺〟とか、超格好良い!」


 〝世界一美しい自殺〟と〝世界一格好良い自殺〟が同義かどうかは意見が分かれるところかもしれないが、少なくとも〝美しい〟と〝格好良い〟はどちらも見た目に関する褒め言葉だし、ベクトルの向きはそう違ってはいないから、まぁ問題ないだろう。


 ということで、最初はレリナが同行するのはどうかと思っていた俺だが、こうなった以上、彼女が一緒にくることは実に都合が良かった。


※―※―※


 そして、〝剣魔闘大会〟当日。


「ふんがあああああ!」

「ほいっと」

「ぎゃああああああ!」


 フルプレートアーマーに身を包んだ巨漢による戦斧の一撃を素早く避けながら懐に潜り込んだ俺は、鞘に入れたままの聖剣でぶん殴り、吹っ飛ばす。


 王都の闘技場コロシアムは、俺たちが今いる石造りで円形の舞台と観客席との間に、魔法障壁が張られており、先程の男はそれにぶつかって、気絶した。


 という感じで、俺はトーナメントを順調に勝ち上がっていった。


「いや、ていうか、さっきのあれ、十五歳未満なのかよ!? 発育良過ぎだろ!」


 〝剣魔闘大会〟は、十五歳未満の部と十五歳以上の部に分かれており、十五歳未満の部は賞金が金貨十枚で、十五歳以上の部が、金貨百枚だ。


 この異世界では、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨がそれぞれ十円、百円、千円、一万円、十万円なので、俺たちの部の賞金が百万円で、十五歳以上の部が一千万円となる。


 本当は十五歳以上の部が良かったが、こればっかりは仕方が無い。


 この大会はその名の通り、剣と魔法の両方を使って戦ってOKだ。ちなみに、もしスキルがあれば、それもOK。


 相手を殺したら失格で、場外もそう。あとは降参した場合も失格だ。


 モンスターに負けない強者を育てるために国が主催しているらしく、国王が、観客席の高い位置に周囲を遮って作られた特別席にて、高みの見物をしている。


※―※―※


「陛下の右隣にいらっしゃるのは、エイジェ・フォン・リージェンス公爵です」


 次の試合までの間に、観客席に一旦戻ると、レリナが教えてくれた。


「諜報活動と暗殺を専門としている公爵家の御当主さまで、最近頻発しているモンスターの襲撃を三回連続で予想して全て的中、王都襲撃を未然に防いだことで、王から褒められました」

「へ~。すごいな」

「その功績から、特別に、それまでは国王が自分の息の掛かった近衛兵たちに任せていた王の護衛を、任せてもらえることになったとのことです」

「ふ~ん」


 王の隣に立つ中年男性は、立派な髭を蓄えている。

 髭を見ると、ディコネウスを思い出してしまう。まぁ、色も年齢も違うけど。


※―※―※


 そうこうする内に、俺は決勝まで進んだ。


「聖剣を横取りするとか、信じられないっす! この勇者ピュルピが、ぶっ殺してやるっす!」


 相手は、女勇者ピュルピだった。

 赤色のショートヘアが印象的な、元気一杯な美少女だ。


「いや、そんなに言うなら、お前が先に取りに行けば良かっただろうが」

「物事には順番というものがあるっす! まずは聖鎧、次に聖盾、最後に聖剣っす! って、うわぁ! 急に何するっすか!?」

「へ~。聖剣の斬撃を受けても斬れないとは。本当に聖鎧と聖盾なんだな」

「いきなり攻撃してくるとか、信じられないっす! 野蛮っす! ぶっ殺すっす!」

「野蛮とか、どの口が言うよ」


 ピュルピは、長剣を手に「たあああああああ!」と走ってくるが。


「おそっ」

「くっ!」


 どうやら聖鎧と聖盾という至高の防御力と引き換えに、敏捷性を失ったようだ。


「たあああああああ!」

「だから遅いって」

「に、逃げるなっす!」

「追い付いてみろよ」

「ひ、卑怯っす!」

「戦いに卑怯もクソも無いだろ」


 開始から数分で既に「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」と、大きく呼吸を乱すピュルピは、「頭に来たっす! もう許さないっす!」と、天に手を翳した。と同時に、一瞬で頭上に暗雲が垂れ込める。


「『サンダー』!」


 来た! っていうか、手からじゃなくて、空から落とすのか!


 俺は嬉々として聖剣を上に掲げるが。


 ドーン


「………………あ」

「………………」


 外れた。


 しかも、雷が落ちた場所は、俺から数メートル離れている。

 石造りの舞台の一部を貫通、その下の地面が抉られ、土埃が舞う。

 無駄に破壊力だけはあるようだ。


「い、今のは、えと、その……れ、練習っす!」

「家でして来い」


 あと、上空の魔法障壁に当たらなかったな。

 魔導具が故障してるのか? まぁ、好都合だが。


 「コホン」と、咳払いで仕切り直したピュルピが、「つ、次が本番っす!」と、再び手を翳す。


「『サンダー』! ……あ、あれ? い、今の練習っす!」


 しかし、当たらない。


「『サンダー』! ……な、なんで? 今のも練習っす!」


 悲しいくらいに当たらない。


 舞台が穴だらけになり何度も地面が抉られたせいで、土埃が充満して、俺たちがいる舞台どころか、観客席の方も見えなくなる。


 っていうか、ずっと聖剣を頭上に向けてる俺も、「アイツ何やってんの?」みたいな目で見られてるだろうし、恥ずかしいんだが。

 早くしてくれ!


 そして、とうとう、その時が来た。


「こ、これで、百回目っす!」

「よく魔力持つな。流石は腐っても勇者か」

「腐ってないっす! 新鮮っす!」

「お、おう……」

「今度こそ! 『サンダー』!」


 雷が襲い掛かる。


 ドーン


「よし!」


 狙い通り、俺が真っ直ぐに掲げる聖剣に。


「やった! 倒したっす! ……って、あれ? なんで死んでないっすか?」

「お前『ぶっ殺す』って、本当に殺すつもりだったのか? 勇者こわっ」


 バチバチと放電現象を起こしながら、雷撃を纏った聖剣の刃が光り輝く。


 か、格好良い!


 間違いない!

 これは、〝世界一格好良い自殺〟だ!

 それに、うん、この見た目は、〝世界一美しい自殺〟と言っても差し支えないだろう!


 高揚感と共に、俺は聖剣の刃が自分の胴体に向くように、逆方向に持つ。


「長すぎて柄を持てないから、剣身を手で持って、と」


 満を持して、俺は聖剣で、自分自身の腹を貫いた。


 見たか、レリナ!

 これが〝世界一美しい自殺〟だ!


 観客席に目を向ける――が、土埃で見えない。

 くそっ! こんな時に!

 早く晴れろ!


 少し待つと、ようやく姿が見えたレリナは、悲しみで泣き叫んで――いなかった。


 それどころか、俺を見てすらいなかった。


 レリナの視線を追って、振り返ると。


「………………え!?」


 特別席に座る国王の右隣に佇んでいた護衛のリージェンス公爵が、雷撃に貫かれていた。

 凝縮された雷が、槍のような形をしている。


「あ、そう言えば、聖剣で自分自身を傷付けることは出来ませんよ?」

「それもっと早く言って!」


 レリナに掛けられた言葉に、思考する。

 道理で全く痛くないはずだ。感電もしていないし。


 貫通した――のではなく、身体を擦り抜けたのか、この剣。


 抜いてみると、聖剣が纏っていた雷撃は消えていた。


「………………」


 あれ?

 これって、もしかして……?


 俺の真後ろには、王とリージェンス公爵。


 俺が貫いた時の角度からすると。


「俺が雷撃を飛ばしたってことじゃん!」


 慌てて俺は跳躍、特別席に着地する。


「し、しっかり! 今すぐレリナが回復魔法を掛けるから、気を確かに!」


 リージェンス公爵の肩を揺さぶる俺だったが、彼はピクリとも動かない。


 あ、ヤバくない、これ?


 貴族殺しの罪――しかも犠牲者が公爵となると、流石の貴族令息でも、重罪を言い渡されるんじゃね? 下手したら死刑とか。


 嫌だ!

 俺は〝自殺〟したいんだ!

 殺されたいんじゃない!


「王さま、ち、違うんです! 俺は、ただ自殺したかっただけで――」


 必死に弁解しようとすると。


「よくぞ儂を助けてくれた! 感謝するぞ!」

「………………へ?」


 その後、王を暗殺から救った英雄として、俺は金貨千枚(一億円相当)を貰った。

お読みいただきありがとうございます!

もし宜しければ、ブックマークと星による評価で応援して頂けましたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ