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4.「聖剣と山での自殺と金儲けの手段」

「あれ? なんかモンスターが大量に死んでる。なんで?」


 リベーネが去った後、周囲の異変に気付いた俺は、よく分からないが、執事長でもあるディコネウスに片付けさせた。


「ぼ、坊ちゃま! 一人で全て倒されたのですか!?」

「いや、俺はここで、魔法盾に斬撃をぶつけて跳ね返す練習をしていただけで――」

「何と!? では、斬撃で討伐されたのですね! 流石です! 坊ちゃまは歴史に名を残す剣豪となられる方に違いありません!」


 何かすごい褒められた。


「おおおお! 流石は我が息子だ! 近頃モンスターが都市内部にも出没するとは聞いていたが、あれだけの数のオークを、たった一人で駆逐してしまうとは! 強くなったなぁ! 何とも頼もしい! 儂は嬉しいぞおおおおおお! おおおおおん!」


 食事の席で、父が号泣して、またメイドからバスタオルを渡されていた。


 う~ん。

 本当に倒した実感がないんだが。


 ま、いっか。

 確かに斬撃で倒したっぽいし、世話になってるこの家のみんなを守れたなら、良かった。


※―※―※


「最強の剣ですか? それは聖剣です」


 俺の問いに、レリナが即座に答える。


 そろそろ魔法の修行を始めたかったのだが、一年みっちりと剣術の特訓をしてきたこともあり、剣の質にもこだわるべきだなと思い至ったのだ。父から貰った長剣に特に不満は無かったが、〝世界一美しい自殺〟をするならば、剣も世界一であるべきだろう。


「では、デートですね」

「おい、何故お前も一緒に行くことになってるんだ?」

「だって、聖剣がどこにあるか、御存じないですよね、ロガスさま?」

「くっ」


 ということで、俺はレリナと二人きりで、幌馬車で聖剣が奉られている神殿へと向かった。


 こう見えて俺は公爵令息であるため、御者も伴わず旅をするなどということは、本来ならば有り得ない。


 当然父は反対したのだが、ディコネウスが、「今や坊ちゃまの剣技は、私のそれを凌駕します。盗賊の類はもちろん、並のモンスターであれば、束になっても敵わないでしょう」とお墨付きをくれたおかげで、渋々納得してくれた。


「お前が御者も出来るとはな」

「ふふ。惚れ直しましたか?」

「はいはい、惚れ直した惚れ直した」

「あー。心がこもっていませんよ、その言い方」


 二頭立ての馬車の御者台に並んで座りながら、俺たちは街道を東に進む。


「着きましたね」

「ああ、やっとだ」


 二回の野営を挟み(寝間着姿のレリナに襲われそうになるのを何とか回避しつつ)、三日後、国王が直接統治する中央の領地との境目にある神殿へと到着した。


 ちなみに、途中でゴブリン・オーク・ハーピーなどに遭遇したが、問題なく切り伏せることが出来た。


 白亜の神殿の中に入ると、最奥にある祭壇に、それは突き刺さっていた。


「これを抜けば良いんだな」


 俺が手を掛けると、「ロガスさま、ファイトー」と、後ろから声が掛けられる。


「ふんぬッ!」


 かたっ!

 おもっ!


 ビクともしない。


「あ、言い忘れていましたが、聖剣は、勇者じゃないと抜けないそうですよ」

「それ最初に言えよ!」


 そりゃ抜けない訳だ。


 レリナいわく、当時の勇者によって魔王が封印されてからというもの、千年間誰にも抜けなかったらしい。


 だが、ここまで来て諦める訳にはいかない。


「ふんぬうううううううう!」


 これまで一年間、身体を鍛えまくり、膂力を増強しまくってきたんだ。


「ぬぬぬぬぬうううううううううう!!」


 今活かさず、いつ活かすっていうんだ!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 雄叫びが響いた直後。


 ゴゴゴゴゴゴッ


 およそ聖剣らしからぬ音と共に、抜けた。


「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……見たか! 抜けたぞ!」

「御見事です、ロガスさま。〝台座ごと〟引き抜くだなんて、勇者もビックリです」


 俺が天高く掲げるのは、聖剣によって持ち上げられた台座だった。


「問題ない。はああああ!」


 ガンッ

 ガンッ

 ガンッ


 神殿の床や壁にぶつけて、台座部分を綺麗に剥がした。


「ふぅ」


 こうして俺は、聖剣を入手した。


 っていうか、今更だけど、勇者じゃない俺が獲得して良かったんだろうか?

 ま、良いか。


※―※―※


 帰宅した後、せっかく父が長剣をくれたのにと謝罪すると。


「本当に聖剣を抜いただと!? 我が息子ながら凄過ぎるぞ、ロガス! おおおおおん!」


 父は逆に感動してくれた。

 涙脆過ぎるけど、良い父ちゃんだなぁ。


※―※―※


 翌日。


「見せてやる。〝世界一美しい自殺〟を!」

「楽しみにしています」


 俺は、レリナと共に領内の山の中腹にある、見晴らしの良い広場にいた。

 無論、彼女の目の前で自殺するためだ。


「はああああ!」


 聖剣で斬撃を遠くに飛ばした俺は、高速で走って追い付くと跳躍、空中で先回りした。


 どうだ!

 このために聖剣を手に入れたんだ!


 硬度・切れ味共に世界一の聖剣であれば、普通の剣よりも少し遅い斬撃も生じさせることが出来るのではないか、という俺の考えは正しかった。

 おかげでこうして、先回り出来る。


 俺は、自身の斬撃を身体で受けた。


「ぐぁっ!」


 が、上手くぶつかれず、右腕が斬り落とされただけで終わってしまった。


 くそっ! 本当は胴体を真っ二つにする予定だったのに!

 やっぱり、自分の斬撃に追い付いて斬られる、というのは、難易度が高過ぎたか。


 激痛を感じつつ反省する俺の右隣に。


「惜しかったですね。『ウルトラヒール』」

「!?」


 俺の右腕を手にしたレリナが現れ、俺の肩に一瞬でくっつける。


「お前、どうやって!? ここ空中だぞおいっ!」

「あ、そう言えば言ってなかったですね。実は、私も膂力増強剤を飲ませてもらっていたんです。毎日」

「はああああ!?」


 揃って着地する俺たち。


 どうやら、この一年、俺が修行している裏で、レリナもまた、俺の動きについていけるようにと、トレーニングしていたらしい。


「なんか薬の減りが早いなぁと思っていたが、道理で……」


 ふと、右腕が動かないことに気がつく。


「あ、まだ神経を繋いでいないので。ちょっと待って下さいね。よいしょっと」


 俺の右腕を勝手に持ち上げたレリナは、俺の手を自身の頭に当てて、撫でさせる。


「えへへ」


 クールに見える彼女が、にへら~と笑う。


「治せ」

「でも、あともう少しだけ――」

「良いから治せ」

「……分かりました」


 悲しそうな表情の彼女が、俺の手を外して、「『ウルトラヒール』」と呟いた直後。


「え? なんで……?」

 

 俺は、自分の意思でレリナの頭を撫でた。


「こんなことで良ければ、いくらでもやってやる。だから、自分でやろうとするな」

「!」


 レリナの顔が、パァッと明るくなる。


「じゃあ、一日十時間ほど撫でて下さい」

「無茶言うな」

「噓つき。いくらでもって言ったのに」

「いやいや、物には限度があるだろ」


 ま、しょうがないから、時々はやってやるか。


※―※―※


「俺たち二人分の膂力増強剤を購入しており、更にこれからは、そこに魔力増強剤も買うことになる訳だが、そうすると、スイサジェド家の家計はどうなる?」

「近い内に破綻します」

「ですよねー」


 レリナの答えに、俺は溜め息をつく。


「何か、俺でも出来る金儲けの手段は無いか?」

「それなら、打ってつけのがありますよ。〝剣魔闘大会〟です」


 レリナいわく、四年に一度行われる大会で、丁度一週間後に王都で開催されるらしい。


「ここから王都までは馬車で片道六日か。よし、じゃあ、出場するぞ」

「またデートですね」

「何故またお前も行くことになってるんだ!?」

「だってロガスさま、御者出来ませんよね?」

「うっ」


 何か、全部レリナの思惑通りに進んでいて、悔しいんだが。


《〝剣魔闘大会〟には、勇者も出場する可能性があります。勇者との接触は、高確率で破滅フラグに繋がりますので、ご注意ください。今お伝え出来る情報は以上です》


 脳内にイマの声が響く。


「また頭の中で、他の女とイチャイチャしていますね?」

「!? お前、イマの声が聞こえてるのか!?」

「いいえ。でも、毎回ロガスさまが鼻の下を伸ばしているので、一目瞭然です」

「嘘をつくな、嘘を」

「ああ、いやらしい。浮気です」


 まぁ、あくまでも〝可能性がある〟というだけだからな。

 勇者が出場しない可能性だってある訳だ。


 そんなに気にすることもないだろう。


※―※―※


 一週間後。


「聖剣を横取りするとか、信じられないっす! この勇者ピュルピが、ぶっ殺してやるっす!」


 俺は、女勇者と戦っていた。

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