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3.「変態令息を暗殺しようとしたメイド(※リベーネ視点)」

 リベーネは、十四歳。レリナと同い年だ。


 ホワイトブラット王国南部の村で生まれた彼女は、優しい両親と共に、幸せに暮らしていた。


「パパ! ママ! 大好きなの!」

「そうかそうか。本当にリベーネは良い子だな」

「うふふ。私もリベーネが大好きよ」

「えへへ」


 だが、ある日。


「……リベー……ネ……逃……げ……」

「いやあああああ! ママああああああああ!」


 村がゴブリンたちに襲われ、リベーネを庇った母親が死亡。


 狩りから戻ってきた父親は、村の男たちと力を合わせて何とかゴブリンたちを倒した。


「城壁も無い小さな村では、娘を守れない」


 父親は、ロガスが住んでいる都市アイゼデラリアへと引っ越した。


 国王が直接統治する中央の領地には、その中心に王都があることもあり、王都以外の都市も大きいが、その分物価も高い。


 そのため、栄えてはいるものの中央の領地の都市ほどは物価が高くない、西隣にあるスイサジェド公爵が治める領土内で一番大きな都市アイゼデラリアへとやってきたのだ。

 

 ちなみに、王国南部は村が多くて街が少なく、街の規模も小さい。

 基本的に北部の方が栄えている。


「パパ、しへーだんの服と剣、格好良いの!」

「はっはっは~。そうだろそうだろ」


 狩人だった父親は、スイサジェド公爵が募集していた私兵団団員テストに合格、晴れて公爵家にて働けることとなった。


 モンスター討伐へと赴く際には危険手当がつくし、戦いが無く訓練のみの際も、公爵家の使用人扱いで、きちんと給金が貰える、安定した職業だ。


 母親がいないのは寂しかったが、その分父親は全力で愛情を注いでくれた。


 これからずっと、二人で暮らしていくんだ。


 そう思っていたが。


「私がついていながら、誠に申し訳ない」

「……ウソ……」


 ある日、父は死体になって帰ってきた。


「なんで!? 団長さんは、すごく強いんでしょ!? なんで団長さんが一緒にいたのに、パパが死んじゃうの!?」

「……全ての責任は私にある。本当に申し訳ない」


 頭を下げるディコネウスさんを、思わず責め立ててしまった。


 父は、動物相手に狩りをしてきた人だ。

 モンスター相手の戦闘は、正直得意ではなかった。


 それでも、その熱意を評価されて、精鋭ばかりの私兵団への入団を認められた。

 安全な都市で娘を生活させるために、良い仕事を得ようと必死だったのだろう。


 毎日懸命に訓練を行ったが、精鋭部隊の中では、それほど強い方ではなかったのかもしれない。


 だって、後にも先にも、戦闘で死んだのなんて父くらいのものだったから。

 当然、重傷を負う者は出てくるけど、決して死なせはしない。


 数年間の間に、何度もモンスター討伐に派遣されて、団員百人中死亡者は一人だけ。

 それは、ディコネウスさんがどれだけ優秀な指南役で、素晴らしい指揮官であるかを如実に語っていた。


「儂からも謝罪させてくれ。本当に申し訳無かった」


 もう一人、上等な服に身を包んだ中年男性が現れて、頭を下げた。

 彼は、スイサジェド公爵だった。


 今なら分かる。

 平民の小娘なんかに、最高位の爵位である公爵が頭を下げることの異常さが。


 でも、当時は分からなかった。


「もしよかったら、儂の家のメイドにならないか? 別に働かなくとも良い。形式上メイド、ということにしておかないと、養子に迎え入れたのかと外から余計な疑念を抱かれかねんからな。衣食住は全て提供する。どうだ?」

「………………分かったの」


 そのままだと路頭に迷うことになるため、選択肢は無かった。

 それに、父が訓練した場所を見てみたかった、という思いもあった。


※―※―※


 スイサジェド公爵家で暮らし始めて、すぐに分かった。


 練兵場で訓練する私兵団団員たちは、ただのトレーニングだというのに、まるで戦っているかのような、皆鬼気迫る様子だった。


 そう。

 みんな、命懸けなのだ。


「もしも俺が死ぬことがあっても、私兵団やスイサジェド公爵を恨んだりしないで欲しい」


 そう言えば、生前父がそんなことを言っていたのを、思い出した。


 スイサジェド公爵が言うには、父は、「万が一そうなった時には、娘をメイドとして雇って頂けませんか」と、お願いしていたらしい。


「……パパ……」


 自分の力不足を痛感していた父は、娘のために打てる策を全て打っていたのだ。


「旦那さま! リベーネも働くの! ううん、働かせてください! パパと同じ、このスイサジェド公爵家で!」


 その瞬間、リベーネのメイドとしての人生が始まった。


※―※―※


 メイドの仕事は、多岐にわたる。

 掃除、洗濯、ベッドメイキング、整理整頓、料理人が作った料理の給仕、庭の手入れ、日用品など必要物品の購入などなど。


 大変だったが、遣り甲斐もあった。


「わぁ~! これが、リベーネが自分で働いて得たお金なの!」


 最初の給金を貰った時は、すごく嬉しかった。


 父が死んだ直後は、ディコネウスさんのことも、旦那さまのことも、正直恨んでいた。


 でも、今では本当に感謝している。


 ただの平民だったのに、こうして雇ってくれたことを。

 生きる場所を、居場所を与えてくれたことを。

 

 でも、リベーネには一つだけ、不満があった。


 たった一つ。

 本当に一つだけなのだが、この仕事の致命的な欠点。それは。


「そんな格好で恥ずかしくないのか?」

「あ、あんたがやったの!」


 旦那さまの〝三角木馬豚〟――もとい、変態令息である、ロガスだった。


 メイドたちを下着姿にして、目隠し・亀甲縛りした上で三角木馬に乗せて、耳元で言葉責めする真性のド変態。


 旦那さまには感謝している。


 旦那さまは、ディコネウスさんを指南役として迎える前は、自ら私兵団を率いており、その戦闘能力と統率力、何より人望を高く評価されていた。


 更には、公爵としての領地運営の手腕も申し分ない。

 民たちから愛される領主さまなのだ。


 しかし、こと息子関連となると、視野が極限まで狭まり、常識的な判断が出来なくなるようだ。


 溺愛し、甘やかし、息子の変態性を認識出来ず、メイドたちが被害に遭っていることさえ気付かない。


「地獄なの……もう、限界なの……」


 いつか好きな人が出来て、その人と結ばれる。

 その時まで、清く美しい身体を、大切にしておこう。


 年頃の少女らしく抱いてたリベーネの幻想は、一瞬で砕かれた。


 別に裸に剥かれた訳でもない。

 触られてもいない。


 が、好きでもない男の前で服を脱ぐことを強制され、目隠しされて縛られて、三角木馬に乗せられ、言葉責めされたのだ。


 純情な乙女からすればそれは、凌辱され、汚されたのと同義だった。


 数年間耐えに耐えてきたが。


「殺してやるの!」


 リベーネの心は、爆発寸前だった。


※―※―※


「まずは武器なの!」


 公爵家のメイドという立場は、好都合だった。


 リベーネは、日常品を買いに行くついでに、武器屋で短剣を購入した。

 無論、自分の金で。


 衣食住全て保障されている彼女は、この数年貰い続けてきた給金の大半が手付かずで手元に残っており、経済的な余裕があった。


「モンスターは嫌だけど、タイミングとしては良かったの」


 最近、何故か都市内部にもモンスターが出没することが多くなってきたことで、自衛のためにと、女性でも扱えるような軽い短剣が販売され始めていた。


 更に、モンスターを確実に仕留めるためにと、ナイフや鏃に塗る用の毒も道具屋で販売されていた。


 もちろん、平民が気軽に購入できるようなものではない。


 だが、リベーネには、公爵家のメイドという最強のカードがあった。


「おお、スイサジェド公爵さまの。それなら安心ですね」


 身分証明代わりのスイサジェド公爵家の紋章を見せることで、毒薬の購入も問題なく行えた。


「あとは、これで刺すだけなの!」


 花壇の中に隠れて、ロガスが通り掛かるのを待つ。


「あんな地獄のような辱めを、何度も何度も……! 絶対に許さないの! ぶっ殺してやるの!」


 そう言って、毒薬を刃に塗った短剣の柄を握り締める。


 よし、やってやるの!

 今こそ、殺してやるの!


 そう思って、花壇の中から飛び出そうと思ったのだが。


「…………別に急ぐ必要はないの。武器は既に揃ってるの。もう少しだけ生かしておいてやるの」


 足が動かなかった。

 これだけ恨んでいても、〝人を殺す〟ということは、簡単なことではないようだ。


※―※―※


 何となく後をつけていくと、ロガスは練兵場で訓練を見学していた。


「パパみたいに私兵団に入るつもりなの? 怠惰で変態なあんたなんかに、そんなこと出来るわけがないの! もし訓練に参加なんかしたら、根性ゼロのあんただと、一秒も持たないの!」


 ぐうたら変態令息の、ただの気まぐれ。

 そう思っていたのだが。


「嘘!? なんでなの……?」


 あろうことか、その日からロガスは、訓練場にて一人でトレーニングを開始した。


「また今日もやってるの……」


 絶対に続かないと思っていたのに、来る日も来る日も、彼は木剣を振り続けた。


※―※―※


 三ヶ月後。


「本気なの!?」


 ロガスは、ディコネウスさんに模擬戦を申し込んだ。


「ほら、言わんこっちゃないの」


 負けてしまったが、ロガスは必死に食らい付こうとしていた。


「以前のアイツとは、何か違うの……。……変わったの……? それとも、変わろうと努力してるの……?」


 ふと、娘を養うために必死に働いていた父の姿と重なる。


「違うの! パパとは全然違うの! それに、変わったから何だって言うの!? そんなことで、犯した罪は消えないの! リベーネがされた仕打ちは消えないの!」


 ともすれば絆されそうになる心を、ブンブンと頭を振り、何とか持ち直した。


※―※―※


 それからもロガスは、毎日一人で訓練して、週に一度はディコネウスさんと模擬戦を行った。


 六ヶ月後には、元騎士団団長であるディコネウスさんと引き分けるまでに強くなった。


「本当にすごいの……! 変態の癖に……」


※―※―※


 そして、転生から一年後。


 この一年、必死に努力するロガスの姿を見てきた。


 正直、もう以前のような強い殺意は抱けなかった。


 が、あの酷い仕打ちのせいで負った心の傷が癒えたかと問われれば、それは否だ。


「やっぱり、殺すの……! ちょっと変わったからって、それで許せる訳ないの!」


 とうとう昨日、彼はディコネウスさんに勝ってしまった。


 そして、今日。


「今度こそ殺してやるの!」


 リベーネは、毒薬を塗った短刀を手に、決意を新たにした。


 ロガスは、魔法盾に向かって斬撃を飛ばしている。


 後ろを向いているので、攻撃は当てやすい。

 しかし、盾に当たった斬撃がランダムに飛んでくるので、こちらの身も危ういので、迂闊に近付く訳にはいかない。


 暫くは様子を見るの。

 疲れ切って動きが止まった時がチャンスなの。


「そうだ! あの屈辱を忘れるな!」


 よく分からない雄叫びを上げながら、ロガスは長剣を振るい続ける。


※―※―※


 数時間が経過した。


 汗だくになり、肩で息をしながら、苦しそうな表情で、しかしロガスは斬撃を飛ばし続ける。


「なんでなの……? なんでそこまでするの……?」


 女であるリベーネには分からないが、「強くなりたい」という、男特有の憧れからだろうか?


 それとも、強いモンスターを討伐して、名を上げたいという野心だろうか?


 しかし、彼は公爵家の令息だ。

 そんな危険を冒さなくとも、将来は安泰なはず。


「……はぁ、はぁ……俺が〝自殺〟する時には、絶対に誰も巻き添えにしない……」

「〝必殺〟する時? 絶対に誰も巻き添えにしない?」


 乱れた呼吸で、ロガスが何か呟いた。


 聞き取り辛かったが、多分〝必殺〟すると言っていた。

 〝必殺〟……殺す、ということだろうから、恐らくはモンスターとの戦いだろう。


「つまり、モンスターを倒す時には、絶対に誰も巻き添えにしない、ということを言いたいの?」


 そんな信念がアイツにあるの?

 そんなの、信じられないの!


「むしろ、俺が〝自殺〟する時に誰かが死にそうになっていたら、俺が守ってやる。俺が〝自殺〟する時に死ぬのは俺だけだ。他の誰も死なせない」

「〝必殺〟する時に誰かが死にそうになっていたら、俺が守ってやる? 俺が〝必殺〟する時に死ぬのは俺だけだ? 他の誰も死なせない?」


 自分を犠牲にしてまで、仲間を守るってこと?


 でも、誰を?


 この一年間で、アイツが剣を交えたのは、私兵団団長である、ディコネウスさん。

 でも、当たり前だけど、ディコネウスさんは守る必要なんてないくらいに強い。


 とすると。


「私兵団の団員たちを守ろうとしてるの?」


 でも、なんで?

 なんでそんなことを?


「そうだ! あの屈辱を忘れるな!」


 その時、ロガスが数時間前に叫んだ言葉が脳裏を過ぎった。


 あの瞬間から、彼が放つ斬撃の数が飛躍的に上がった気がする。


 〝屈辱〟だなんて、余程大きな出来事があったに違いない。

 まだ十二年しか生きていない彼にとっての、大きな出来事とは?


「はっ! まさか!?」


 刹那。

 一つの考えに思い至った。


 ロガスの母親は、彼が幼い頃に病死していると聞いた。


 が、もしもそれが〝嘘〟だとしたら?


 そう偽らなければならない程の、酷い最期だったとしたら?

 例えば、もし〝モンスターによって生きながら喰われた〟としたら、それこそ〝酷い最期〟に他ならない。


 そんな奥方さまの最期を、ロガスは〝あの屈辱を忘れるな〟と叫んだのだ。


 そしてそれが、モンスターへの憎しみへと変わり、狂気的とも言える訓練へと彼を駆り立てることとなったのだろう。


 彼は、強くなることで、奥方さまのような悲劇を二度と起こさないことを魂に誓っている。


 だから、私兵団の団員たちを守ろうとしているのだ。


 更に言えば、私兵団の団員の中でも特に、唯一死亡した者に――父に対する気持ちは言葉に出来ない程に強いだろう。


 一年前までメイドに対してあの変態プレイをしていたのは、きっと奥方さまを最悪の形で失ったショックで頭がおかしくなっていたからだ。


 今の彼は、心を入れ替えて、奥方さまを失った心の傷を癒やすために、そしてもう誰も失わないために、必死に努力を重ねている。


「でも……そんなこと急に言われても、信じられないの……」


 俯いた、その時。


「プギィッ!」

「!?」


 リベーネの背後に、豚の顔をしたモンスターであるオークが出現した。

 

 他の都市での報告は聞いていたけど、まさか、うちの領土でも出没するだなんて!

 

「ヒッ! こ、来ないでなの!」


 バッと、短剣を向けるが。


「あっ!」


 恐怖で手が震えて、短剣が地面に落ちてしまった。


「プギィ~」


 オークが、下卑た笑みを浮かべて、リベーネに手を伸ばす。


「い、いや!」


 後ずさるも、躓いて転んでしまう。


「や、やめてなの!」


 声が震え、涙が溢れる。


「プギッギッギッ」


 懇願も虚しく、オークの手が、リベーネに触れる、寸前に。


「プギイイイイイイ!」

「!?」


 オークの首が宙を舞った。

 一瞬遅れて、身体が倒れる。


 リベーネが座ったまま振り向くと、そこには、何事も無かったかのように、ひたすら剣を振り続ける少年の姿があった。


「あ、そっか……斬撃なの……」


 何が起こったかを理解した直後。


「プギィッ!」

「!」


 再びリベーネの背後から、新手が現れたが。


「プギイイイイイイ!」


 今度は彼女に手を伸ばす間も無く、斬首された。


「「「「「プギィッ!」」」」」


 一体どこからこれだけの数が、と思う程の〝オークの軍勢〟が現れて、仲間を倒したロガスを明確な敵として認識、一気に襲い掛かろうとするが。


「「「「「プギイイイイイイ!」」」」」


 次々と首が空を飛ぶ。

 全く近付くことが出来ない。


「「「「「プギィッ!」」」」」


 更に援軍が現れるも。


「「「「「プギイイイイイイ!」」」」」


 やはり、結果は同じだった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「すごい……! 一人で全部倒しちゃったの! しかも、後ろ向いたままで!」


 あちらこちらに、オークの死体が転がる中。


「今は死ぬべき時じゃない、ということだ」

「!」


 その言葉に、リベーネは全身を貫かれた。

 涙が溢れ、頬を伝う。


 ロガスは、全て分かっていたのだ。


 リベーネが彼をずっと尾行していたことも。

 彼の命を狙っていることも。


 そして、オークの襲撃すらも。


 母親の酷い最期にショックを受けていたとはいえ、彼がリベーネにした仕打ちは、謝罪した程度で許されるものではない。


 だから、ロガスは茨の道を進むことにした。


 それは、〝変わろうと努力すること〟。

 〝変わった自分〟を見せること。

 

 そして、今後の人生全てを懸けて、奥方さまやリベーネの父親のような被害者をもう生まないように、私兵団を守ること。


 否、きっと彼は、この地に住む領民全てをモンスターの脅威から守ろうとしているのだ。


 どのような方法かは分からないが、オークの襲撃を事前に察知していた彼は、ここで〝豚顔〟のオークを倒すことで、かつて〝三角木馬豚〟と揶揄された自身との決別を図った。


 元々トレーニング開始一ヶ月後には既に痩せていた彼は、オーク討伐により、〝三角木馬豚〟だった自分から完全に生まれ変わることに成功した。


 そして、〝もしも自分に対して暗殺を仕掛けたならば、返り討ちにしてしまうか、そうでなくともそれが当主にバレたら死刑になってしまう〟であろうリベーネを「今は死ぬべき時じゃない」と、オークたちから何度も救ってくれた。


 しかも、その声掛けをすることで、「暗殺なんてやめておけ。そんなことをしたら、俺じゃなくてお前が死んでしまうのだから」と、優しく諭して、止めてくれたのだ。


「こんなに深いお考えをお持ちだったなんて、知らなかったの……! しかも、何度も命を救っておいて、でも知らんぷりで、お礼の一言すら要求しないの! あたかも『訓練のついでに倒しただけ』みたいな感じで! こんなの、ずるいの!」


 居ても立っても居られず、リベーネは走り出した。


「ん?」


 気配に気付いたロガスが振り返る。


 疲労困憊で汗だらけ、斬撃で飛び散った土で全身が汚れた彼は、しかし誰よりも――それこそ王子様よりも輝いて見えて。


「ロガスさま! リベーネは勘違いをしてたの! 命を救って下さった御恩に報いるために、これからはロガスさまに忠誠を誓い、一生尽くすの!」

「………………へ?」


 またそんな、「え? 何言ってるんだ?」みたいな顔で惚けちゃって。


 うふふ。そういうところも可愛いの! 大好きなの!


 リベーネは、呆然とするロガスを置き去りにしたまま、笑顔でスキップしながら屋敷の中に戻っていくのだった。

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