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18.「アイフィーとピュルピの決闘」

《警告します。〝王都全滅バッドエンド〟の破滅フラグが立ちました。今お伝え出来る情報は以上です》


 イマの声が脳内に響いたのは、学園に戻った日の昼休憩に入った直後のことだった。


「ピュルピ、あたしと勝負なさい!」

「望むところっす!」


 この日、俺が戻って来るのを見計らっていたかのように、アイフィーが決闘を申し込み、ピュルピが即快諾した。


 その瞬間、イマの声が脳内に流れたのだ。


「……面倒くさいが、様子を見るしかないな……」


 何せ、〝王都全滅バッドエンド〟だ。

 〝ゴールデンヘイズ剣魔学院全滅〟でも大変なことなのに、〝王都全滅〟となったら、何人死ぬことになるのか、見当もつかない。


 それだけは絶対に阻止しなくては。

 ここで暮らしている以上、俺が自殺をする可能性が一番高いのはこの街だ。

 となると、この街の人々が殺されるのは、許されない。


「勝った方が、ロガスを手に入れることが出来るのよ!」

「師匠は、自分のものっす!」

「おい、ちょっと待て」


 訓練場に着いたと同時に、聞き捨てならない台詞が飛び交う。


「そうなると、私も黙っていられませんね」

「いや、せめてお前は傍観してろ。これ以上話をややこしくするな」


 ポキポキと首を鳴らしながらウォーミングアップし始めるレリナを、俺は止める。


 回復魔法を得意とする彼女だが、今でも俺と同じように魔力増強剤と共に膂力増強剤も飲み続け、トレーニングを続けており、その身体能力だけで、並の冒険者たちなら軽く蹴散らせるほどの実力を有しているのだ。


「でも、良いんすか? あんたの御自慢の魔法は、自分には効かないっすよ?」


 ちゃんと聖鎧と聖盾を装備したピュルピが、小馬鹿にするよう問い掛ける。


「〝剣魔闘大会〟の時のあたしと同じだと思ってると、痛い目を見るわよ?」


 不敵な笑みを浮かべたアイフィーは、跳躍した。


「はっ!」

「なっ!?」


 猛スピードで飛んできたナイフを、ピュルピは慌てて盾で弾く。


 どうやら、跳躍の直前にスカートを素早くたくし上げて、太腿に装着したバンド型ケースに収納しておいたナイフの一本を投げたらしい。


「大したもんだ。この短期間で、投擲術を身に着けていたとはな」


 それは、並の魔法は一切効かない勇者の装備を身にまとっているピュルピ対策であり、ひいては俺との対戦も念頭に置いてのことだろう。


「ほらほら、どうしたの? その程度なの、勇者の力って?」

「くっ!」


 縦横無尽に飛び回り、時折地面に落ちたナイフを回収しながら、アイフィーはナイフを投擲、鎧に守られていない顔と首を的確に狙い、ピュルピは防戦一方だ。


「こうなったら! 『サンダー』!」

「!」


 ピュルピが手を翳すと、一瞬で頭上に暗雲が立ち込め、アイフィーのすぐ傍に雷が落ちた。


「危なかったわ……コントロールはまだ未熟だけど、〝剣魔闘大会〟の時に比べたら、格段に成長してるわね……」


 冷や汗を拭いつつ、アイフィーは、「早めにけりをつけるわ!」と、右手にナイフを構えたまま、左手をピュルピに向けた。


 と同時に、アイフィーの周囲に、無数の氷柱が出現する。


「迫り来る幾多の氷柱の中に、ナイフを紛れ込ませるわ。高速で飛んでくる大量の飛翔物の中で、ナイフだけを正確に見抜けるかしら?」

「くっ! 考えたっすね!」


 ピュルピが、「その前に、倒すっす! 『サンダー』! 『サンダー』! 『サンダー』!」と、雷魔法を連発し、アイフィーが、「『アイシクルレイン』!」と叫んだ直後。


「そこまでじゃ」

「「!?」」


 アイフィーとピュルピの動きが止まった。

 と同時に、氷柱も、雷撃すらも、途中で止まる。


 動けない……!

 何だ、これ!?

 周囲の人間の動きと、更には魔法自体の動きすらも止める能力!?


「学院長!」


 現れたのは、この〝ゴールデンヘイズ剣魔学院〟のレイビヤート学院長だった。

 コイツがやったのか!?


 並の魔法なら弾いてしまう聖鎧と聖盾を装備したピュルピに魔法を食わらせるとか、やっぱりただ者じゃない!


「待っておったのじゃ、この瞬間を。膨大な魔力を持つ二人、特にその内一人は勇者というお主らが、同時に魔法を行使する瞬間を」

「何が狙いだ!?」


 今まで鍛え上げた膂力と、膨大な魔力で、ほんの少しずつだが、俺は強引に動けるようになってきた。


「ほう。儂の魔法を食らって、まだ動けるとはな。この二人ではなく、お主でも良かったかのう」


 レイビヤートは、「何が狙いかと問われれば、ささやかな願いを叶える為じゃ」と言うと、更に言葉を継いだ。


「不老不死という、願いをのう」

「「「!?」」」

「そんなこと、出来る訳――」

「そうじゃのう、そんなこと、普通は出来んじゃろう。じゃが、それが出来る者が、もしいたとしたら?」


 この爺さん、何を言ってるんだ!?


「まぁ、勿論、ただでそんな願いを叶えてはもらえんからのう。こうして、先方の求めるものを差し出したという訳じゃ。こやつら二人が、同時に魔法を行使する瞬間に無力化する、というのが、交換条件じゃったからのう。そうじゃろう、お主?」


 そう言いながら、レイビヤートが頭上を見上げると。


「「「!」」」


 ピュルピの雷魔法とは違い、〝見渡す限りの空〟が全て漆黒に染まり、そこから現れたのは。


「お初にお目に掛かる、人間たちよ。我は魔王だ」

「「「!」」」


 魔王だった。

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