10.「メメイアの告白」
「なるほどのう。我が学院に、モンスターが。剣と魔法に秀でた優秀な教師が揃っておることじゃし、見つけ次第排除するのはそう難しくはないじゃろうが、今後は今まで以上に警戒するとしよう。教えてくれて感謝するのじゃ」
〝ゴールデンヘイズ剣魔学院〟のレイビヤート学院長に、学院内にモンスターが現れたことを報告するも、反応が薄かった。
危機感が無いな。大丈夫かこの学院?
〝剣と魔法に秀でた優秀な教師〟て。生徒と一緒に凍らせられてたじゃないか。
まぁ、〝この爺さんだけ〟は、あの時凍っていなかったから、流石剣魔学院のトップだけはあるが。
剣と魔法の学院だが、魔法寄り――つまり、魔法使いの格好をしている老人を見てそんなことを思いながら、俺は学院長室を後にした。
※―※―※
「おおおお! 入学初日に大事件を解決、生徒・教師全員を守り、負傷者を一切出さなかったとは! 流石は我が息子だ! 儂は誇らしいぞおおおおおお! おおおおおん!」
学院での最初の週が終わり、週末に、丁度仕事で王都を訪れていた父と食事を取りながら報告すると、例の如くレストランが浸水するんじゃないかという勢いで感涙にむせんだ。
「親子水入らずの時間を、あたいが邪魔して良かったんですか、スイサジェド公爵?」
「なぁに、気にするな。貴様の父親とは旧知の中だった。あいつの忘れ形見の頼みとなれば、無下には出来まいよ」
食事の席には、もう一人いた。
メメイア・フォン・オースブルームは、若くしてオースブルーム公爵となった、現在十八歳の美少女だ。
銀色のポニーテールが印象的な彼女の父親である、故オースブルーム公爵は、スイサジェド領と国王直轄の中央領それぞれの北隣に位置する土地の領主だった。
やり手と言われる俺の父とはまた違った、堅実を絵に描いたような領主だったらしいが、そんな彼は二年前、病に倒れて死んだ。
そして、メメイアが領主の地位を継いだ。
そんな彼女は、領地経営において悩みがあるのだという。
「実は、あたいの弟が、カジノを誘致しようとしてるんです。果たしてそれが良いことなのかどうか、あたいには分からなくて……先祖代々、うちの土地では、巨大剣による観光で収益を上げてきたから」
ちなみに、巨大剣は、大昔からオースブルーム領に突き刺さっている、見上げるほどの大剣だ。
観光で爆発的な利益を生むのは難しい。
が、カジノなら、それが出来る。
弟の主張は分かるが、短期間で効果を上げる劇薬には副作用がつきものだ。
カジノを作れば、騒音、ゴミの問題、治安悪化などなど、今まで無かった問題が色々と生じてしまう。
「そこまでして、カジノを誘致すべきなんでしょうか?」
メメイアの問いに対する父の回答は、
「どちらの選択が正しいとも言い切れない。メリット・デメリットは、カジノのみならず、観光に依存する場合も存在するからな」
という、何とも中途半端なものだった。
父らしくないな。
俺は、心の中でそう呟く。
息子のことになると正常な判断が出来なくなる親バカな父だが、こと仕事の話になると、どこまでも冷静沈着に、最善の策を見極め、実行するのだ。
今回も、ズバッと道を指し示すものだと思っていたら違っていたので、俺は肩透かしを食らった。
っていうか、俺でも分かることだが、ここまでの会話を聞いていると、明らかにメメイアは「どちらが良いのか分からない」のではなく、自分のスタンスがはっきりしている。
今日ここへは〝背中を押してもらいに来た〟んじゃないか?
チラッ
「?」
と、その時、父が意味深な視線を俺に投げかけた。
え? 何?
俺、何か悪いことした?
「ちょっと失礼します」
トイレだろうか、メメイアが席を立った。
彼女が店の奥に消えたのを見計らって、父が口を開く。
「ロガス。もしかしたら彼女は、少し酔っているかもしれない。様子を見てきなさい」
「え? 分かりました」
確かにもう成人している彼女は、父に勧められて酒を飲んでいたが、そんなに酔っているようには見えなかったけどな。
まぁ、そこまで言うなら、行くか。
別に何も無ければ良いし。
「! 確か、ロガス、だったな」
「はい」
店の奥に行くと、メメイアは、トイレには行かずに、壁にもたれ掛かって何か思考していた。
「父が、彼女は少し酔っているかもしれないから様子を見てきなさいと言って、俺を寄越したんだ」
「あたいは酔ってなんて――ああ、なるほど。流石はスイサジェド公爵。全部お見通しって訳だね。その上で、あんたを、ね」
合点がいったと言わんばかりに、彼女は頷く。
ああ、そういうことか。
ようやく俺にも、父の意図が理解出来た。
若い世代の俺たちに、横の繋がりを作らせようとしているのだろう。
俺も、自殺しなければ、いずれ父の座を継ぐことになるからな。
「オースブルーム公爵。俺から見ると――」
「メメイアで良い。それに、タメ語で良い。歳も近いし、あんたも行く行くは領主になる身だろうしさ」
「分かった、じゃあメメイアで。さっき話を聞いていて思ったんだが、本当は迷ってなんていなくて、やりたいのは観光で、カジノは嫌なんじゃないか?」
確信を持った俺の問いに、メメイアは「ああそうさ」と、首を縦に振った。
「巨大剣はただの観光資源なんかじゃない。悪を討ち滅ぼしたという伝説もある、由緒正しきものだ。弟は、今現在巨大剣が祀られている台座と巨大剣そのものも取っ払って、そこにカジノを建設しようとしている。そんなの、許されることじゃない」
メメイアは、「そもそも、観光の収入だってちゃんとあるしね。そりゃあ、カジノに比べたら微々たるものだろうけど」と言葉を継いだ。
何だろう。
まだ彼女は何かを隠している気がする。
何か、影があると言うか……懸念があると言うか……
「じゃあ、今まで通り観光でいけば良いじゃないか。それとも、何か障害とか、心配事でもあるのか?」
俺の問いに、一瞬目を見開いた彼女は、「秘密を守れるかい?」と逆に問い掛ける。
「ああ」と俺が頷くと、メメイアは、俺に近付いて囁いた。
「実は、あたいは、〝弟から命を狙われてる〟のさ」
「!?」
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