表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/12

1.プロローグ

《私はサポートシステムの〝イマ〟です。貴方は、ゲーム〝ファンタスティックドラゴニックマジック――通称FDM〟の世界に、悪役貴族〝ロガス・フォン・スイサジェド〟として転生しました。今後は様々な破滅フラグが襲い掛かってくるので、回避して下さい。今お伝え出来る情報は以上です》


 脳内に語り掛けてきた女性っぽい機械音声で、俺は目覚めた。


 見慣れたボロアパートとは明らかに違う、上等な天井。


 フワフワのベッドで上体を起こすと目に飛び込んできたのは、素人目にも高級感漂う、しかしどこか古めかしい西洋風の寝室だった。


 あれ?

 俺は、バイトからの帰り道で急に気分が悪くなって倒れた……よな?


 混乱する頭を振りながら、記憶を辿る。


 〝世界一美しい自殺〟を、幼い俺の眼前で行ってみせた母親に憧れて、何度も〝美しい自殺〟を試みるも、中々上手くいかなかった俺。


 そんな俺は、この状況、そして先程の脳内アナウンスによると、期せずして死んでしまったらしい。


「はぁ~。何度やっても失敗したのに、勝手に殺すなよ……」


 心底ゲンナリする。


「転生前の俺よりも、二~三歳……いや、もう少し幼いか。見た目は完全に白人だな」


 気を取り直して、ベッドから下りて姿見に自身の姿を映すと、そこには目鼻立ちの整った、しかしぽっちゃりとした西洋風の少年がいた。内装同様、寝間着も上等な物で、どうやら俺は金持ちらしい。なお、髪と目の色は黒と茶で、転生前と同じだ。


「失礼いたします。おはようございます、ロガスさま。もう朝食の準備は済んでおりますので、ダイニングルームへとお越しくださいませ」


 ノックと共に入ってきたのは、クールな印象の美少女メイドだった。

 年の頃は、現代日本にいた頃の俺と同じくらいだろうか?


 金髪碧眼でサラサラの長い金髪をふわりと揺らす彼女は、メイド服に身を包んでいる。


「丁度良かった。俺の前で、自己紹介をしてみせろ。俺との年齢差にも言及しつつ」

「自己紹介……ですか?」

「まぁ、遊びみたいなもんだ」

「はぁ」


 怪訝な表情を浮かべたものの、少女は、「コホン」と小さく咳払いを一つすると、求めに応じた。


「私は、レリナ・フォン・セブキュレスです。ロガスさま専属のメイドとして、このスイサジェド公爵家にて働かせて頂いております。ロガスさまの三つ上の十四歳です」


 優雅にカーテシーするレリナ。


 なるほど、転生前の俺の一個下か。

 で、今の俺は十一歳である、と。


 先程〝イマ〟とかいうサポートシステムが言ったゲームは、かなり有名な奴だ。聞いたことがある。

 まぁ、ゲームに興味が無かった俺は、正直全然知らないんだが。

 

 とにかく、どうやら俺はここでは〝悪役貴族〟らしい。

 となると、この恭しい態度を取っているレリナも、俺のことを嫌っているのだろうか?


 もし俺のことを憎んでいるならば、俺を殺そうとするかもしれない。

 そうすると、俺が〝世界一美しい自殺〟を追い求めるのに邪魔になる。

 最初にはっきりさせておこう。


「レリナ。お前は、俺のことが嫌いか?」

「とんでもありません。私はロガスさまをお慕い申し上げております」


 お?

 意外だな。


「俺のことを愛しているか?」


 流石にそれはないだろうが、一応更に突っ込んだ質問をしておこう。


「はい、恐れ多くも、愛しております」


 え、マジで?


 いやいやいや。

 口では何とでも言えるからな。


「では、その愛を証明しろ」


 さぁ、どうする?

 

 たかが十四歳の小娘に、何が出来る?

 いやまぁ、本当の俺も一歳しか年齢違わないけどさ。


「分かりました」


 ん? 分かりました?


 躊躇なく即座に服を脱ぎ始めるレリナ。


 おいおいおい、マジかよ……


 しかも、一見クールに見えて、その実恥じらいが無い訳ではないらしく、ほんのりと頬が赤らんでいる。


 それを見た俺は、自然と笑みを浮かべていた。


 コイツは本物だ。

 本気で俺のことを愛しているらしい。


 ならば、俺がやることは一つだ。


「俺も愛しているよ、レリナ」

「ロガスさま……」


 下着姿になった彼女は、慎ましい胸を両腕で隠している。

 少し俺より背が高い彼女の肩を抱くと、ピクッと僅かに華奢な身体が震える。


「んっ……」


 俺は生まれて初めてキスをした。


 抱き締めると、レリナがおずおずと背中に手をまわしてくる。


 よし……そろそろ頃合いだな……


 目を潤ませる彼女から身体を離した俺は、徐に窓に近付いていき、ゆっくりと開ける。


「レリナ。俺を愛してくれてありがとう。さようなら」

「!?」


 足を掛けると、俺は窓から飛び降りた。


 見たか、あの顔!

 目を思いっ切り見開いてさ!


 あんなにも美しい少女が!

 俺を愛する女が!


 好きな男と想いを通じ合わせた瞬間に、目の前で自殺される!


 これぞ、〝世界一美しい自殺〟だ!

 俺はとうとう、〝母さんと同じ領域〟に辿り着けたんだ!


 高揚感と共に、地面が近付いてくる。


 ドン


「ぐぁっ!」


 中庭に落下した俺は、全身を打ち付けた。


 手足、腰、肋骨、それに首も折れている。

 激痛に顔を歪めながら、俺は目だけを動かす。


 一、二、三……五階から落ちたのか。

死ぬのには十分な高さだな。運が良かった。


「……これ……で……やっと……死ねる……!」


 長かった。

 

 母の死から十年。

 ようやく、達成できた。


 あとは、この甘美な痛みに身を委ねるだけだ。

 瞳を閉じて、闇の中に沈む。


 ゆっくりと、意識が遠退いていく。


 ゆっくりと……


 そう、ゆっくりと……


 身体が温かくなっていって……


 痛みが和らいで……

 

 え?


 痛みが和らいで?


 目を開けると、俺の身体は、優しい、しかし力強い光に包まれていて。


「あ、もう少し待っていて下さいね」

「!?」


 いつの間にか、俺の傍にレリナが座っていた。


 どういうことだ!?

 どうやって、この短時間でここまで移動した!?

 俺の部屋、五階だぞ!


 見ると、彼女が翳す両手が光り輝いている。

 回復魔法というやつか。


 既に首の骨折は完全に治ってしまっている。


 首を傾けて彼女を見ると。


「お前……その足……」

「え? 足? ああ、そう言えば、折れていますね。ちょっと痛いですが、大丈夫です。ロガスさまを治療した後に治しますので」


 いや、ちょっとて。


 レリナの両脚は、何度も折れ曲がり、原形を留めていなかった。

 見るからに複雑骨折。尾てい骨や腰骨も折れていそうだ。


 〝すぐに俺を治療出来るように〟足から真っ直ぐに落下して両脚で着地、勢い余って上半身も地面にぶつけそうなところを、グッと堪えて衝撃を吸収、負傷は腰までに留めて、激痛を無視して即座に回復魔法を発動し始めたのだろう。


 ゾクリ


 〝コイツは狂ってる〟。


 俺の背筋に、悪寒が走る。


 だが、同時に俺は口角を上げた。


 コイツだ!

 コイツしかいない!


 俺のために、己の命すらも投げ出す女。


 もしも、そんな女の前で自殺することが出来たら?


 それは間違いなく〝世界一美しい自殺〟と言えるだろう。


 〝回復魔法が間に合わず、死に行く俺を前にして、泣き叫ぶ彼女〟を見たい!


 〝その顔が涙でぐちゃぐちゃに崩れる様〟を見ながら死にたい!


「はい、これで治療は終了です。立てますか、ロガスさま? って、そう言えば、私の治療がまだでした……あはは……」


 瀕死の怪我が完全に治った俺が立ち上がると、レリナは苦笑しながら「『ウルトラヒール』」と呟いて自身の怪我をあっと言う間に治療してしまった。

 そんな彼女の手を引っ張って、俺は立たせる。


「ありがとうございます、ロガスさま」


 そう言って手を離そうとする彼女だが、俺が許さない。


「ロガスさま……? あ、もしかして、先程の続きでしょうか? 外で、というのは、少し恥ずかしいですが……でも、私は別に構いませんよ……?」


 もじもじしながら、空いている左手を朱に染まった頬にやる下着姿のレリナに、俺は宣言する。


「覚えておけ! 俺は、絶対にお前の目の前で自殺してやるからな!」


 声を荒らげる俺に対して、一瞬キョトンとした彼女だったが。


「あら、何を仰るのかと思ったら……出来ると思っているのですか、そのようなことが」


 にっこりと微笑んで言葉を継いだ。


「やれるものなら、やってみて下さいませ」

「!」


 美しい瞳には、狂気が宿っていた。


 生半可な覚悟では、絶対に彼女の前で死ぬことは出来ない。

 そう確信させられる程の狂気が。


「いいねぇ! 面白いじゃねぇか!」


 こうして俺は、異世界で自分が為すべきことを見付けた。

【お願い】


お読み頂きましてありがとうございます!


ほんの少しでも、「面白そうかも!」「応援してあげよう!」と思って頂けましたら、ブックマークとページ下部↓の☆☆☆☆☆を押して、評価して頂けましたら嬉しいです!


執筆の大きなモチベーションとなりますので、是非ともご協力頂けましたら幸いです!


何卒宜しくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ