苺チョコレートまんの行方
どっちを買おう。
「苺チョコレートまん」と「バナナチョコレートまん」をじーっと見つめ、俺は悩んでいた。
「森山、早くしろよ」
声をかけてきたのは、会計を先に終えた桜屋だ。
「待てって。あともう少しだけ」
せっかちな奴だと不満に思いつつ、俺は改めてコンビニの商品とにらめっこする。
苺チョコとバナナチョコ。どっちがおいしいんだ。いや、どっちもおいしいに決まっているが、よりおいしいのは果たしてどっちだ。
また悩み始めた俺に、桜屋は嘆息した。
「どっちも買えば? 早くコンビニを出たいんだけど。こっちの肉まんが冷めちまうだろ」
「だったら、先に出ててろよ」
「お前を置いていけない。心配だ。その……ナンパされたりだとか」
俺は、顔を上げる。呆れた目を、桜屋に向けた。
「バカなのか? 他に客はいないだろ」
「店員がいるだろ」
「………」
バカバカしい。けれど、桜屋を不安にさせたくはない。
俺は、苺チョコレートまんを選ぶことにして、早々に会計を終えた。次は、バナナチョコレートまんにしよう。
熱々の苺チョコレートまんを手に、俺は桜屋と一緒にコンビニを出る。
「森山って、マジで甘党だよな。せめて、あんまんを選ぶところじゃないのか」
なんで苺チョコレートまんなんだよ、と苦笑いを浮かべる桜屋。
俺は、むっとした。口うるさい奴だな。好きなものは好きなんだよ。放っておけ。
というわけで、スルーすることにする。
黙り込んだ俺に気付いたのか、桜屋は慌てて「悪かった、ごめん」と謝ってきた。
「じゃ、じゃあさ。一口、ちょうだい。うまそうだから、俺も食いたい」
「……ふーん、いいよ。分けてやる」
反省しているようだし、許してやろう。
出来たてホクホクの苺チョコレートまん。半分に割り裂いて、桜屋に渡す。
……と、思ったら。
「うわっ!」
何かが、すごい勢いで目の前を横切った。
気付いた時には、苺チョコレートまんが忽然と消えている。え、何があった。
っていうか、俺の苺チョコレートまん!
「大丈夫か? この辺の鷹って凶暴だからなー」
桜屋が能天気に言う。他人事だと思って。
「鷹が取っていったのか……ひどすぎるだろ。今月の小遣い、もうほとんどないのに」
「え、そうだったのか。なんだよ、早く言ってくれたらよかったのに」
桜屋が、さりげなく俺の手を握る。俺の手を引っ張り、コンビニまで道を引き返し始めた。
「それなら、俺が買ってやるよ。今度はどっちがいい?」
「どっちも」
「欲張りだな。まっ、いいけど」
繋いだ手を、見下ろす。
ひどいハプニングだったが、こうして桜屋と手を繋げたのでよしとしよう。
ありがとう、「苺チョコレートまん」。