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ご〜〜〜〜く普通で、真面目なホラー物語

注意:この物語は、ごくごく真面目で恐ろしく、完全にホラーな展開となっております。


ナレーターは常に冷静沈着で、構成も演出も完璧です。


万が一、物語がグダグダになったり、テンポが崩れたりした場合は——

それはすべて、役立たずな主人公のせいです。


なお、本作はラノベ的要素を一切含みません。ハーレムも、異能バトルも、かわいいヒロインとのいちゃいちゃもありません。……たぶん。

ナレーターやめてくれ!


普通の日本人男子である主人公は、突然 幽世哀の村(かくりよ・あいのむら)に転移してしまった。

太陽は月に変わり、足元のアスファルトは消え、そこには歪んでボロボロになった木の板と枯れ草が広がっていた。

彼が一歩踏み出した瞬間、不気味な壁が地面から一斉にせり上がり、彼を囲んだ。


ジャンル:ホラー

場所:集落にある木と繊維でできた屋敷の中


「は?ここどこだよ……?なんで急にこんなに暗くなったんだ?」


辺りを見回すと、そこはまるでアイヌの家のような、古くて不気味で、呪われていそうな建物の内部だった。


「……ん?この音、なに?」


風があり得ない方向から吹き抜け、木の隙間を裂く音が響く。

ただ寒いだけじゃない——それは、生きていた者たちの悲しみと、死の匂いを含んでいた。

彼の背後、小さな箱型の窓の向こうに、重く霧がかった風景の中で、葉のない木がかろうじて見えた。


「お、おいおいおい……なんかヤバい気がする……まさか、俺……」


屋敷の中には誰もいない。しかし、彼は後ろを振り返るのが恐ろしかった。

その直感は正しかった。そこには、本来いるはずのない“何か”が、肩を——


トン。


彼が振り向いた瞬間、怪物が姿を現し、彼は叫んだ。


「ナレーターの声が聞こえる異世界に転生してるぅぅぅぅぅっ!?」


そう!彼はあまりにも恐ろしくて、不気味に白い人型の何かを見た瞬間、無我夢中で走り出してしまった——

って、ちょっと待て!?これ、俺の書いた脚本じゃないぞ!?


「“台本にない”ってどういう意味だよ!?なんで俺がこんな場所に放り込まれてんだ!?せめて異世界ファンタジーで、ナイスバディなヒロイン付きの設定にしろよ!この追いかけてくる何かってなんだよ!」


これはホラーだ。ハーレムじゃない。だから当然こういう展開になるわけで……って、なんで俺がいちいち説明してんだよ!? とにかく、主人公は恐怖のあまりひたすら走り出し──


「おい!せめて名前をくれよ!“主人公”って呼び方やめろ!ちょっとは敬意を払えっての!」


主人公はひたすら走り続け——


「てか、走らせすぎだろ!疲れるんだけど!」


だったら話の邪魔するな、バカ!これじゃ俺が話を進められないだろ!?

ラノベの構造も知らないのか?


「あー、確かに……ごめんごめん!」


主人公は走り続け……えーと……なんだっけ?


「はぁぁぁぁぁ!?!?!?話忘れるとかマジかよ!?どんだけ無能なナレーターだよお前!!」


すまん、こんな展開になるなんてマジで想定外だったんだよ! ホラー用の脚本、ちゃんと全部用意してたのに、お前が台無しにしたんだぞ!? 脱線した時も、即興でなんとか持ち直そうとしたけど、もう完全に雰囲気ぶっ壊れたし! どうやって読者を怖がらせればいいんだよ……!


「俺のせいにすんな!!!引きずり込んだのお前だろ!!それと、俺が知るわけないだろ!お前の仕事じゃん、それ!!」


いや、完全にお前のせいだ。議論の余地なし。


「カッコつけて小説の最初の一行をキメようとしてたのお前じゃん!?ニセモノ野郎!」


ニセモノじゃねえよ!俺はナレーターだ。お前みたいに台本すら読めない無能主人公とは違う!


「そもそも設定が雑すぎるんだよ!異世界転生って言ったら、普通は何かしら能力あるだろ!?

それをちゃんと設定しなかったせいでナレーターと会話できるようになったのに、俺の方が悪いってのかよ!?お前の落ち度だろ、それ!!

しかも“幽世哀の村”ってどんなネーミングセンスだよ!?

もう責任取って、この何かから俺を助けろよマジで!

この屋敷もいつ終わるんだ!?延々と走らされてる気分なんだけど!これ、悪い意味でなろうじゃん!!」


よくも俺のワールドビルディングを侮辱してくれたな……覚悟しろ!


主人公はついに足を止めた。ヒビ割れた磁器のような肌と呪いを封じた着物をまとった幽霊少女・ヨミは、安っぽい脅かしのために適当に登場させたモブなんかじゃない! お前が“媒介”で、彼女が“鍵”なんだよ。 彼女は“這骨の家”の床下深くに埋められていた——あの grotesque で継ぎ接ぎだらけの屋敷は、かつて村人たちの墓として使われた場所だ。 古の魔女の呪いによって、生者たちは静かに姿を消し、その魂は屋敷に囚われたままだ。 だが、お前の異世界転移現象が、彼女に一時的な現世への顕現エネルギーを与えた。 それによって彼女は、自分の本当の遺体を見つけ、呪いの着物を解いてもらうという願いを託せるようになったんだ。 それが叶えば、この村の魂たちも救われるはずだった——仲間の優しい魂を永遠に独りにさせたくないという想いで、村人たちはみんな待っていたんだよ。 お前が走っていたのは、ただのパニックじゃない。“唯一の希望”異世界予言書における「第一楽章」を果たしていた最中だったんだ。 彼女はお前を殺そうとして追っていたんじゃない。 導いていたんだよ、丁寧にな。 お前は“魔女の祭壇”にたどり着いて、自分の役目を知るべきだったんだ。 その場で数日後に予定されている百年に一度の呪文再唱を止めなければならなかったんだぞ。 それを逃せば、封印は再び完成し、村人の魂は永遠に解放されない……。 で、今どうなったかって? 彼女も何をすればいいのか分からなくなってるよ。 お前はテンポを崩して、見るべきだったシンボルも伏線も見逃して、村人たちの助けを求める声すらかき消して……! 本来なら、お前は彼らを苦しみから解放して、あの世へ送り届けるはずだったんだ。 だから“幽世哀の村”って名前も、完璧に意味があったんだよ! ほら、今になって驚いてるな?な?俺がちゃんと構成考えて、ノートも準備してたって言っただろうが!!


「名前に意味があるとかどうでもいいんだよぉぉぉ!!それより、自画自賛はやめろっての!!せっかくいい感じだったのに、自分で台無しにしてどうすんだよ!!こっちは乗ってきてたんだぞ!?そのまま続けてくれりゃ、ちゃんとノってやったのに!!バカかよ!!!……『あっ、ごめんね、ゴーストちゃん。僕ってほんとに役立たずの主人公だよね……』ってか!」


……ちっ、もしかしてお前の言う通りだったのかもな。あのまま続ければよかったのに……ま、仕方ない。全部ボツだ、ノートも消して新しい設定から始めるか……


「おい、ナレーター。今お前のノート見えたぞ!」


見えるわけないだろ!


「いや、見えるって!俺、同じフォルダにいるし!」


同じフォルダじゃねーよ!お前は“なろう”のページの中だ!

……ってことは、まさかここって時間の流れが歪んでるのか?そりゃバトルシーンがやたら長引いたり、一瞬で終わったりするわけだ……


「今、“ドラゴン”って単語見えたぞ! ペットにしていい!?俺、昔からドラゴンに憧れててさ!実は俺の父ちゃん、ドラゴンボーンで死ぬ間際に俺にクエストを──」


ダメだ!それに勝手に過去設定を盛るな!それはお前の仕事じゃない!!


「ずるいぞ!なんでお前だけいつも楽しんでるんだよ!?たまには俺にも主導権握らせてくれよ!じゃなきゃ、俺の長年の騎射訓練の成果を見せるチャンスがないじゃん!疾走しながら時速100kmの標的を500m先から命中できるんだぞ!?あの大鼻の Sniper King よりも上手いんだぞ!!」


主人公は自分でも驚くほどのモンゴル仕込みの腕前を披露した。屋敷の小さな窓から、数百メートルも離れた標的を見事に射抜いたのだ。――日本人なのに。しかも今のセッティングにはまったく合っていないのに。そして当然のごとく、その直後に顔から盛大に地面に突っ込み、馬も一緒に消えた。


「おい!せめてもう数秒くらい輝かせてくれよ!なんで誰一人驚いてくれないんだ!?せめて誰か一人くらいは驚けよ!!」


……驚いた人は、ちゃんといた。

彼のすぐ後ろに──彼女はいた。

もちろん、ヨミの魂は永遠に呪われていた。

だが主人公は、その瞬間こう判断したのだ。「異世界モンゴル風・千年最強部族の、ナイスバディで名前だけはやたら凝ってる女王様」の方が、 ダサめな名前の呪われた村と、その成仏できない幽霊住民たちよりも大事だと──。


ジャンル:異世界コメディ・ロマンチック冒険譚

場所:なんちゃってモンゴルの平原の丘


「おおおおおおっ!!!やっと来たーーー!!これだよこれ!!ついにメインヒロイン登場!!もうあの怖い場所とおさらばだ!!」


……もちろん、それは冗談だった。

ナオトだけが、最後までそのことに気づかなかったのだ。

村はすでに朽ち果てていて、「異世界モンゴル風」の人々も存在しなかった。

彼の目の前に広がっていたのは、ただの平原と丘だけだった。


「おい。マジで俺、ここで死ぬんじゃね?orz

なんなんだよ、マジで一瞬も報われねぇ!

クソみたいなラノベ世界に召喚されたかと思えば、呪われた村は俺のせいで永遠に救われないって?

しかもメインヒロインすら手に入らないってどういうこと!?

なにこれ!?なんで俺ばっかこんな目に遭うんだよ!?

俺が“なろうのスバル”に見えるか!?読者に拷問されて喜ばれるタイプに見えるかよ!?

せめてゲームやらせろよ……!」


ふむ…それ、いいアイデアかもな。


「は?“いいアイデア”ってどういう意味だよ?

 なんか響きが嫌なんだよ。ゲームやるって話じゃないよな?」


じゃあ、スバルみたいにしてみよう!


「いや…だ、だめだめだめだめ!!

 そんな“いいアイデア”じゃねえだろ!!

 それはラノベキャラの最悪の悪夢だぞ!?

 待て、待て待て!お願い!話だけでも聞いてくれ!!

 Let me tell you something!Let me tell you something!!!

 死にたくない、死にたくない、マジで!!Stoooooooop it!!!!!!

 このパラグラフを無限に引き伸ばせば、俺、死なないからな!!見ろよ、バーカ、ナレーター――」


ナオト・モブカワ、死亡。


「おーい!なんで急にこんなどうしようもねぇ名前になるんだよ!?」


って言っただろ?ナオトくん、死んじゃったんだよ。


「ウガーッ!!」


丘の上で、血の川を吐きながら、彼は孤独に凄惨に死んだ。


「ブロォォォッ!!! 何?俺、巨大噴水かよ?」


頭がグルグルまわって、尻がムズムズ、目の奥がズキズキ、爪の下に何か刺さってる感じ、呼吸も意識しないとできないし、服のすべてが身体に圧迫してくる…


「うわあーーー、なんでそんなところまで描写すんだよ、ナレーターさん!?読者まで不快にさせる気かよ!!」


そして彼は、最後の息を吐いて…死んだ。


「死んだぞ!」


言っただろ、彼は最後の息で死んだって。


「死んだ!」


「ゴホッ、ゴホッ、言っただろ、死んだんだって…言葉を発する前に死んでるんだよ…。」


「し、死ん…だ…」


「お前バカか?」


「てへっ!」


てめぇ…


詰んだな。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


書いてる途中、主人公がやたら文句を言ってきて進行が遅れたことを深くお詫び申し上げます。


次回の話は「ナオト、死に戻り地獄編(仮)」になる予定です。タイトルが嫌だ?私もです。

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