96話「三大精霊王からの重大な依頼」
業火の精霊王ボウエルノ、水源の精霊王リュウエルノ、陸土の精霊王フミナルノ。
そんな三大精霊王が圧巻の巨体で、こちらを見下ろしている。
「あわわ! あんなに大きいんですか……!?」
「こんな……存在がこの世に……!」
「聖女もびっくりの巨大な存在です!」
「あ、あ、あ、あわわ!! す、すごい大きいのがいるであります~~!!」
ユミ、ローラル、マトキ、グングはビビってしまっている。
無理もない。三階建ての家と同等かそれ以上の巨体が三体。そして漲る圧倒的な威圧からして武力一〇〇万オーバーといっても差し支えはない。
アッセーにとっては転生前の世界に存在していた四首領クラスと感じ取れていた。
本気で戦えば地上界で大陸が粉々になるほどの壮絶な力を誇る。
「この星杯を担当されている精霊王さまだ。そして世界天上十傑としてランクインされている。そんなお方が一堂に集まっている理由は、指定依頼の内容通り……」
《ウム! 百年の周期で『最終地獄』の封印の張り直しだ!》
《前に張り直した封印が弱まり、十四日後に解けるわ》
《解けるその日に我らが力を合わせて封印を拵えるのだ。その際に封印されている悪魔族を押し留める護衛の依頼を、妖精王アッセーに依頼したのだ》
アッセーの言葉に続いて、三大精霊王が口々に繋げていった。
「あっ、悪魔族……!?」
「天使族の襲来があったばかりなのに……!」
「色々と大変な事が起きてますわね」
「ここでも色々大変な事が起きているでありますか……!? ひええ~!」
ユミ、マトキ、ローラル、グングはスケールが違う事に呆気に取られている。
自分の生活圏では絶対に居合わせないような事件ばかりが続くからムリもない。
「そんな強い方々が封印をするなんて、とんでもなく厄介なのですわ?」
《封印された憎悪とともに日々力を増しているようなのだ》
ローラルにフミナルノが答える。
《封印の先でもひしひしと凄まじい威圧とドス黒い憎悪が感じられるわ。封印が解ける日を待ちわびているのですよ》
リュウエルノが厳粛と答える。
《仮に全面戦争となれば、星杯はただでは済まい……。人類滅亡は必至だろう。被害は甚大なものとなるのは想像似難くない。そればかりか、他の星杯にも侵略を繰り出すであろう……》
フミナルノが付け足す。
アッセーは息を呑む。天使族のとはケタが違う。天使族はボスがワンマンだったから、いざとなればなんとかなる。
しかし悪魔族は憎悪を活動の源にしているだけに戦闘力は想像以上だろう。
三大精霊王が両手を掲げると、魔法陣の周囲に混濁した黒い川が輪で現れる。
まるで黒いヘドロが粘着性でドロドロ流れている。
ローラルも「ヒッ」と呻く。
《冥府川だ。その中心……》
「……気持ち悪いですわ」
「な、な、な、あの黒い泥の輪がそうでありますか~~?」
輪を描く黒い川の中心。つまりこっちの魔法陣の真下で、漆黒の穴がズズズ……と広がってくる。
おぞましくジュクジュク黒い毛虫の群れのようなのが溢れ出ては虚空へ溶け消えている。
「そこが……最終地獄……!?」
《封印がまだ健在なのに、途方もない憎悪の威圧がこもれ出てるわね》
《冥府川の向こう側の地獄の坩堝。その中に悪魔族の大群がひしめいている。出られる唯一の出入り口がここ……》
リュウエルノとフミナルノも緊迫しているのだろう。
ここを突破されたら、一気に悪魔族が外へ溢れ出して阿鼻叫喚になるのは想像しやすい。
「じゃあ、オレの『快晴の鈴』で魔人の時と同じように……」
《やめておけ……、そういうレベルじゃない……》
ボウエルノは首を振って窘めてくる。
世界一ダンジョンの時みてーに浄化の鈴で循環させて絶滅させる作戦は、もう通用しないという。
それほどまでに悪魔族は途方も無い力を蓄えていたのだ。
《戦力として天敵である妖精王アッセーを指定したのだ。護衛して時間を稼ぐだけでいい。十分封印を貼るまでの時間は稼げるはずだ》
「……そっか」
悪魔族へ特攻となる妖精王がいるなら、少なからず有利に戦える。
しかもアッセー自身は戦闘力もかなり高い。武力は九〇万だが、実質的な実力は今ここにいる精霊王や四首領と同等以上といっても差し支えはない。
「分かった。十四日後だな。オレも協力する」
《よろしく頼むぞ》
《頼もしいわね》
《では、その日まで各々覚悟を決めておけ》
三大精霊王とアッセーは意気投合したようだ。
百年に一度で最終地獄の封印が解ける日に護衛を引き受けるってのも緊張する。
《何も知らんで護衛させるのは酷だろう》
《ほほほ……、万が一という事もあるゆえ、備えあれば憂いなし》
《さよう、悪魔族は知ってると思うがヒトからしか昇華できぬ上位生命体》
業火の精霊王ボウエルノ、水源の精霊王リュウエルノ、陸土の精霊王フミナルノが次々話してくる。
息が合ったかのような話の流れだ。
《まず、最終地獄に封印されている悪魔は……》
最終地獄と呼ばれる坩堝────。
かなり広大で、赤紫の灼熱地獄で燃え盛っていて、針地獄を思わせる刺々しい岩山の数々。
中心部にはタワーのように聳え立つ岩山の悪魔城。
そのふもとには数え切れないほどの悪魔たちが悪辣に笑いながら騒いでいる。
雑兵だろうが、強力な力を持った何千体もの悪魔たちだ。
「ククク……、いよいよ残すは十四日後! 今度こそは……!」
それを統括する八大悪魔が悪魔城のそれぞれの塔の上で立っていた。
完結まで残り4話!




