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94話「精霊里からの指定依頼!?」

 妖精村は、スーパー箱舟二号を作ってたせいで流通が増えて『妖精王国タノシティ』に発展しちゃった。

 なんか妖精王アッセーの巨大な像が勝手に建てられている。

 一瞬にして箱舟を修復&改造した偉業で歴史に残るほどって言ってたけど、大げさだよなぁ。


「というわけで王様は妖精王ランスピアに任命されたぞ。誰も反対しないし、妖精村の長だった妖精ソドさんは大臣になるって言い出すし……」

《これくらい安いものです。これから第二の故郷として国を収めていきます。アッセーさま、いろいろ解決してくれてありがとうです》


 ランスピアは切なそうだけど満足した顔で、アッセーの手を両手で握って頭を下げていた。

 もう帰る所が存在しないからなぁ。


 ……実はあれから何度か航行してたんだよな。

 他の生き残りがないか調査したんだが、別の星杯(カリスター)へ降りた挫折組はどこも絶滅。他の箱舟は墜落して遥か下の超重力超気圧危険地帯に沈んでた。例え星杯(カリスター)に墜落しても、到底暮らせない環境で絶滅。

 それぞれの箱舟の担当者である精霊王や妖精王などはもう三途界域(アケロン・エリア)へ生活圏を移して一体残らずいなくなっちまった。

 本当にグング一人だけが唯一の生き残りと判明しちまった。


「大丈夫であります! もう婚約できたので夢は叶ったでありますー!」

「トホホ……」


 グングがアッセーの腕に組み付いて元気良く手を振っている。


《あなたになら安心できます》


 妖精王ランスピアがそんな事を言い出したので、後に引けなくなっちゃった。

 こうしてここの星杯(カリスター)へ骨を埋める事になったそう。

 恩人だからと婚約し、もう婚約破棄と言い出せない空気にされて、トホホ……。


「世界一周の旅、ワクワクするであります!」

「グングにとっては途中からになるな」


 グングにとっては未開の地である。

 同じ知的生命体が育まれた星杯(カリスター)で、見た事もない建物や服などに感激していた。

 幸い、食料はこちらと変わらないようで安心した。

 こうしてローラル、アルロー、ユミ、マトキに加えてグングもお供になった。



 妖精王国から出て、二日間の商団馬車の護衛の後に緑生い茂る谷みたいな起伏のある里へたどり着いた。

 そこでは転生前で例えれば小学生ぐらいの身長のホビット族が暮らしていた。

 自由奔放に自然とともに暮らしている種族。

 あちこち小さな家があって、木の側や崖下などに建ててある。


「う、う、うわぁ~! ちっこい小人と里であります~! 模型みたいであります~!」


 初めて見るのかグングは不思議な里をキョロキョロ見渡している。


「ドワーフでさえも入れない家なので、宿屋がないのです。基本通り過ぎるところなのですが……」

「ああ」


 子供のように奔放なホビット族が、こちらを見るなり丁重に会釈してくる。

 エルフ、ドワーフ、ホビット族は分かってる感じだ。

 ……例のスーパー箱舟二号の件で、妖精王関係なく有名になってるだけかもな。


 受け付けが外へ向かれているギルドで依頼達成を報告し報酬をもらった。そしてギルドの方から指定依頼が届いていた。


「妖精王さま、まずは迷いの森を通ってシンエン精霊里へ向かってもらいたいのです」


 ホビットのギルド職員が丁重に会釈して、頼んできたぞ。

 アッセーは息を呑む。


「分かった。精霊王さまにそそうのないようにする」

「おきをつけてくださいませ。妖精王さま」


 これまでのように国に滞在はせず、そのままホビットの里を出て森林へ向かっていった。

 しばらくは起伏のある草原を通っていたが、数時間も歩けば草木の密度が上がって森林になっていった。

 ここまでは一見普通の森だ。


「今の内に渡しておこう」


 アッセーは魔法力を込めてローラル、ユミ、マトキ、グングそれぞれに指輪を渡した。

 思わず「婚約指……」とユミが言い出すが「悪い、違う」と否定。

 ショボンしているところスマンけど、それどころじゃないんだ。


「迷いの森は特殊だからな」

「普通のヒトでは決してたどり着けねーのです」

「そんな場所もあったでありますか?」


 オレは妖精王。アルローはエルフ。

 しかしローラル、ユミ、マトキ、グングは普通のヒトなので、ドワーフの国で買っといた『絆の指輪』を渡した。

 この指輪の宝石は特殊なもので、魔法力を込めた人と認識が共通される。

 元々は盗賊のスキルを共有したり、幻術を破ったりする為のものだが……。


「これはなんですか?」

「例えば盗賊の罠を見破るスキルで、指輪の持ち主も罠が見えるなどの用途だが、今回は違う」


 目の前の二つの巨木を前にアッセーは歩んでいく。

 この巨木はまるで鏡で映したかのように、左右対称ではあるが木の枝や幹などそっくり瓜二つだ。

 それ以外は普通の森林で囲んでいる。


「話すより見た方が早いだろう」


 緊張しながらもアッセーは二本の巨木の間を通る。すると水面の波紋のように広がると忽然と消えた。

 ローラル、ユミ、マトキ、グングは揃って「あっ!!」と竦む。

 続いてアルローは平然と巨木の間を通って、消えていった。

 息を呑む三人が顔を見合わせる。しばししてから指に『絆の指輪』をはめて、同じように巨木の間を通った。


「うっ!」


 グニャグニャ風景が歪んでいって、グルグル回りだす。目が回りそうだ。

 一転して深い森の中に切り替わっていた。

 これまでとは違って陽の光さえ差し込まない、薄暗い森……。

 光源がないというのに、なぜか遠くまで見渡せる。


「ここは……?」

「どこかに移転したのですわ?」

「方向の感覚が違います……」

「へ、へ、へんな場所であります~!」


 地面の草原がグニャグニャ柔らかい。沼のようだ。

 アッセーとアルローは当然のように立って待っていた。


「ここは通常の空間じゃねぇ。亜空間だ。ヒトが間違って入ったら全く何もない暗闇に見えていただろう。すぐ引き返さないと方向すら分からない空間で迷う」

三途界域(アケロン・エリア)に隣接する精神世界なのです」


 アッセーの背後にある並んでいる木が不気味に増殖している様な錯覚がする。

 周囲の森がグニャグニャ移ろいゆく。

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